東京遠征!
「ただいまー」
一人で学院から帰ってくること。執行班の仕事に慣れてきてから、もう珍しいことでもなくなってしまった。仕事があれば当然放課後の時間が合わなくなるため、希愛や真琴と帰る機会というのはそれに伴い減っていく。しかしまだお昼過ぎ。それも今日は休日ではなく金曜日なのにだ。
「早かったのー。ってそうじゃったか。忘れておったわい」
「昨日の夜も話したんだがな」
玄関近くでじいちゃんと少し話して、台所にいるばあちゃんに空の弁当箱を渡してから二階に上がる。
体調が悪くて早退したのでは無い。いきなりできた訳では無い、ちゃんとした理由がある。
明日からある執行班の東京遠征の為、本日の夕方から移動することになっている。
その為今日、執行班の班員七名は特例によって、午後からの授業が免除となっている。
遠征では、管理局本部主催による講演会の傍聴と、現地にある明桜学園の訪問が主な目的である。袴田さん達は別の意味でテンション上がっていたけど色々と予定もある為、観光するほどの余裕はあまりないであろう。
昼休みは普段通りに友人らと一緒に弁当を食べて、それから一度帰宅して遠征の身支度をしてから、集合場所である駅に向かうことにした。
「着替えと薬、あと充電器とバッテリーはこっち。そんでもって……」
まず最初に行ったのは荷物の点検。前日までのうちに準備しておいたスーツケースとリュック。それらの中身も入念に確認しておく。どうにも心配性なのか、リストと睨みながら何度も何度も確認していた。気になりすぎて落ち着かなくなるくらいに確かめた。確認しておくに越したことではないんだがな。
一旦の確認を終わらせてからスマホで時間を確認してみると、二時半頃。駅での集合は午後六時なので、まだ余裕はある。それを確認してから着替えを持って、一階の風呂場へと向かった。
そのあとは下でシャワーを浴びる。普段はそこまで気を払うようなものでは無いんだが、今日ばかりはその方がいいと判断した。今日は移動だけだが、遠征の説明等もあってホテルに着いてからもわたわたしそうなので、時間があるうちに済ませてしまおうかと思って、そうすることにした。
シャワーを浴びながら、色々と考え事をしていた。これからの遠征のこともそうなんだが、以前の不思議な現象についてもだ。
以前あのペンダントを身につけていた時に聞こえてきた声。あれがあの場にいた三人のものであったのか。間違いなく彼女らの声ではあったが、それが本質なのかどうかは分からない。
あの後の休みの日に、それを身につけて一日過ごしてはいたんだが、あの現象が起こることは無かった。結局どうしていいものかわからず、机のラックにかけられたままである。
用意も全て済ませて家を出る頃には、もう四時を過ぎていた。この時間帯は学生の帰宅時間と重なりバスが混雑するため、避けようとは考えてはいたんだが、思いのほか時間がかかっていたようだ。
少し待とうかとも一瞬は考えたが、どの道この後も混雑することには変わらないし、もとより集合時間にも間に合わなくなるだろう。次のバスの時間も迫ってきているようなので、とっとと行ってしまうことにしようか。
「あ、お兄ちゃん。これから行くとこ?」
「おかえり。そんなとこだ。ホントはもうちょい早く行こうと思ったんだけどな」
家を出てから僅か十数歩。道路に出たところで、学院から帰ってきた希愛と真琴に鉢合わせ。
「気をつけて行ってきなよ。あんたは色々見てて不安になるからさ」
「心配してくれるのはありがたいんだが。今回は遠征であって別に戦いに行くわけじゃないんだけどな」
「それでもなんにもないとは言いきれないでしょう」
「そう注意深いのは昔から変わらないようで。お節介さん」
「やっぱしあんたは一言余計なのよねぇ」
「あびゃらばぁばがあ゛!?」
真琴に左頬を引っ張られる。こういうことも小さい頃から変わってない。
「そういうやり取りも、希愛が知ってる限りじゃ変わってないというね」
「手が焼ける所か焦げそうなくらいに厄介な幼馴染なことで」
「失礼しました。じゃあもう行くわ。そろそろ行かんとバスに間に合わなくなる」
「てか思ったけど早くない?」
「そうでもないの。今の時間帯だと街の中結構混み合うから、バスも中々進まない。空いていればなら五分で行けるものが、二十分、いやそれ以上かかる時だってあるから」
「そうなの?」
「経験談よ。そのおかげで約束に間に合わなくなるかもしれないってことがあったから」
「俺は正樹から聞いたな。今の時間帯は混み合うってな。そいじゃあ行ってくるわ」
希愛と真琴と話してから、駅に向かう路線のある、最寄りのバス停まで小走りで向かっていった。
駅に着いた頃には、五時半手前になっていた。
バス停で待っていた時、時間帯というのもあって込み合っていた。同じ制服を来た兼城学院の生徒、大学生と思しき集団、お年寄り。自分だけが異端にも見えて落ち着かなかったが、そこはイヤホンで音楽を聞いて誤魔化した。
それにしても正樹の言葉の通りであった。街に入るまでは特に滞りなくバスは進んでいたんだが、近くの観光地に入った辺りから急にバスの進みが遅くなってしまい、そこから駅までの道のりは四キロぐらいだったとは思うが、まさか二十分以上もかかるとは思わなかった。
こういう移動は向こうにいる時から慣れてはいたけど、違った意味で焦れったいものだ。
西口のバス降り場から少し歩いたところ。コンコース内の新幹線改札近くが集合場所となっている。そこまで向かうと、既に来ている人は俺を除いて四人。
「来たか黒宮。これであと二人だな」
「袴田からはさっき連絡があった。電車の中だからもうすぐ到着するとのことだ」
「じゃああとは崎田さんだね。主任もまだ来てないですからあと来てないの三人ですよ天王寺さん」
「来たか……ボディ」
「俺のことどういう扱いしてるんだおい」
どっかで聞いたような似つかわしいセリフを言っている一人は相変わらず。言ってることは分からないからスルーとして、あとは紅葉と袴田さんと小松主任のようだ。
「時間も時間だ。すぐに来るだろう」
「そうですね。って話していたら来たみたいですね」
悠が東口の方を見ていたのでそっちの方を見ると、見覚えある二人の姿がこちらに近づいてきていた。
「お待たせしましたー」
「私のご登場ー」
紅葉と袴田さんが、スーツケースを転がして歩いてきた。
「ちょうど改札口でばったりとねー」
「もう皆いたんですねー」
「あぁ。あとは主任を待つだけだ」
「その必要もなさそうですよ。天王寺さん」
今度は反対側。俺の来た西口の方から小松主任はやって来た。
「もう全員揃っていたか。何よりだ」
「はい。七名全員揃っています」
俺達は横一列に並び、班長である天王寺さんが主任に報告する。
「それじゃあ、すぐに行くとしようか」
「希愛ちゃんとしては、都会ってどうなの」
「んー。なんか息苦しい感じ」
「落ち着かないってことね」
なにか引っかかることが?




