17.『全学独立共闘会議』
『全学独立共闘会議』
その言葉を初めて聞いたのは、偶然流していたニュースからだった。
楯の会の、非離反勢力…いわゆる理論派が改名したのだそう。
いわく、かつての'90年闘争を彷彿とさせるネーミングなのだそう。
寧々は、私の作ったハンバーグを食べながら目を細め、
「上手いね」
と言った。
「どっちのこと?」
ハンバーグ?全学独立共闘会議?
「どっちも。もちろんこのハンバーグ最高って感じだけど…全学独立共闘会議って名前もかなり上手い」
「なるほど?」
「'90年闘争に関わってた人間は基本的に色んなところで良い感じの位置にいるの。それはもちろん'90年闘争が大成功を収めたからだけど…そこら辺の人達って未だ『学生だった頃』を強烈に記憶してると思うの」
「つまり、『再び学生が立ち上がったのだから先輩として協力しないと』という感覚を…名前を似せることによって引き出そうとしてるってこと?」
「そこまで行かなくとも、あの組織への寛容な空気感は生まれると思う。『あいつらの気持ちはわかる』なんてね」
その日はまた寧々に見られながらトレーニングをして、シャワーを浴びて寝た。
翌朝テレビをつけると今度は違う名前の組織が報道されていた。『革命的独立共闘会議』…おそらく情動派が改名したのだろうけど、相変わらず変な対立…内ゲバ?をしているようで溜息が出た。
…そんな体たらくじゃ独立革命なんて起こせないでしょ。
そういえばまだ寧々が起きてきていない。いつもなら私より先に起きて私の寝顔を眺めてるのに。
「寧々〜起きてる〜?」
4回ノックして私の部屋の扉に向け、そのように言う。
扉を開けると、ノートPCに齧り付くかのように覆いかぶさって寝ている寧々の姿があった。
PCの画面はつきっぱなしで、中には文字の羅列がたくさんあった。詳しく読まなかったので内容は分からないものの、おそらく小説の原稿だろう。
揺すってみると寧々はゆっくり目を開き、
「あれ?朝?」
なんて掠れた声で言った。
「寝落ち?」
「…多分。ごめん迷惑かけて」
寧々はそう言う。
…前よりやけに落ち着いているし、大人びている。寧々には作家としてのONとOFFでもあるのだろうか。
「大丈夫。どうせ学校しばらくないし、なんなら今からまた寝ても良いよ」
「じゃあ少しだけ…」
そう言うと寧々はノートPCを閉じ、ベッドに潜り込んだ。
…小説家って大変そうだし、労わって朝ごはんに甘いものでも用意しとこ。
「ん!おはよ!」
2時間後。どうやら甘い匂いに釣られてきたらしい上機嫌な寧々に、私はパンケーキを振る舞った。
外は少しカリッとしてて、中は少ししっとりとして柔らかい。ふんわりとした温かい匂いが、かけてあるはちみつの甘みを引き立たせていて、美味しい。
昼食が必要ないくらい、お腹いっぱいになった。
次回、「燃えてる」




