15.「部屋どうしよう?」
「部屋どうしよう?」
寧々は首を傾げ、そう聞いてきた。
「一応母親の使ってた部屋とかはまだベッド放置されてて使えるけど使う?」
「ホコリやばそう…」
「…だよね。じゃあ今日は私の部屋使えば良いよ。私はリビングのソファで寝るから」
「やった」
今日は多分寧々をほっぽり出してジムとか行けないだろうし、久しぶりに家のトレーニングルームを使うことにした。
場所は地下、服装はスポブラと短パン。やっていると熱が籠るので前もってクーラーをがん回しして何とかする。
現在時刻は19時30分くらい…21時30分までとりあえずやって、22時に寝よう。多分寧々もそれくらいに寝るだろうし。
ピピッ
ジムよりあまり器具を置いていないため、あまり熱中し過ぎず時間通りに終えられた。
そのまま脱衣所に直行して、シャワーを浴び、ドライヤーで髪を軽く乾かす。ウルフヘアは長髪より乾かしやすくて楽。そのままスマホを弄りつつリビングへ向かった。
寧々の存在をすっかり忘れて下着姿のままリビングに行ってしまったせいで、ノートPCと睨めっこしている寧々とばったり会ってしまった。
その寧々はいつもより雰囲気が落ち着いていて、いつもより少し目が細く開かれていた。その目をこちらに向けもせず
「…琴莉?」
と聞いてくる。どこかで聞いたことあるような少し低めの声だった。
「あ、ごめん集中してた?」
ついそう聞く。
「大丈夫」
と言って寧々はこちらを見たところで固まった。
大きく目は開かれていて、その目は私のお腹を見ていた。
「腹筋やば!割れてる!」
いつも通りの声。
「まぁ、鍛えてるし…」
「でも!普段見えないじゃん!その顔でその腹筋でその体格とか最強じゃん!」
寧々が限界オタクみたいに支離滅裂にそんなことを言い始める。
…そんな驚く?
結局、腹筋を触らせたら落ち着いたので、歯磨き等させたあと、そのまま寝かせることにした。
「おやすみ」
「おやすみ!良い夢を!」
「うん。良い夢を」
私も忘れていた軽食を摂って歯磨き等済ませたあと、リビングのソファで寝た。
翌朝。学校から正式な休校のメールが来た。生徒はなるべく外出を自粛して自宅待機せよ、とのことで、宿題に関してはワーク等を活用してちゃんと出され、もしワーク等を学校にて『紛失』していた場合は新品を担任が届けるとのこと。
休校期間は1ヶ月程度とされ、もし希望するのであれば他校への転校も認められるらしい。
まぁ、私も寧々も伊藤高校に残るのだけれど。
絶対転校したところで『元伊藤高校生』として虐められるし、きっと学校側が企業に取らせない。それに、そもそも学校推薦とか指定校推薦とか考えてないタイプの進学希望者なのだから高校がどこであるかとか関係ないのである。
「これ、親いる人達すごい大変そうだよね」
自虐気味に寧々は笑いながらそう言う。
「そだね」
私も素直にそう思った。結局、学校側がどれだけ生徒に寄り添った形のルートを作っていようと、その先での保護は約束できない。その点を理解せず、後先考えずに転校に踏み切る。それも『親の意向』で…なんて親を恨んでしまいそうだし、ある意味…親がいなくてよかったと思う。きっと寧々も同じ心境だろう。
「朝ごはんにフレンチトースト作るけど食べる?」
「うん!」
甘ったるい香りと、金と見まごうような光沢のあるはちみつにまみれちょうど良い焦げ目のパン。それをフォークで押さえつけ、ナイフでスっと切る。ナイフの刃はパンの感触を指先に伝え、1度目の仕事をすんなりと終える。
切った部分をフォークで口まで運ぶと、外はカリっとした食感と共にカラッとした軽い甘みを出し、中は柔らかくジュワッとした濃い甘みを出す…そんな味をはちみつの香りと共に口の中に生み出した。
「「…!」」
寧々と顔を見合せて、今回のフレンチトーストの美味さを、声に出さないながらも共有しあった。
私達の手はゆっくりながら加速していって、いつの間にか食事を終えていた。
次回、買い出しに行こうと思う。




