13.午前11時30分。
午前11時30分。
ヘリによる催涙液直接投下と放水車による水の放射に合わせ、一斉に催涙弾の装填された擲弾発射器が火を吹く。
その火力は圧巻で、あっという間に煙まみれとなった。
タイヤの焼けた匂いとは違う刺激臭を鼻で感じ、少し咳き込む。遠巻きでもこんななのだから、校舎内はおそらく地獄だろうと思う。まぁ幾ら追い詰められたとはいえ集団で殺人行為を犯した時点で同情する相手ではなくなったのだけれど。
少し間を置き、騒がしかった本部は
「『今すぐ突入命令が欲しい』と現場各部隊から来てますッ!」
この一言の後、静まり返る。
「分かった!許可を出せ!こうなったら警視庁の威信をかけて早急な校舎確保による生徒保護を行え!1人でも多く助けるぞ!」
一番階級の高そうな人はそう言い放つ。それに対し本部の人間みんなが途端に立ち上がり、まるで何か達成したかのように『はい!』と声が一斉にあがった。
…まだ解決してないけど?
私と寧々はつい首を傾げてしまった。
「第1陣より、前回未到達地点である二階の制圧を開始するとの報が!」
「よし!順調だ」
偉いっぽい人が言う。
「…ここでまた躓きそう」
寧々が言う。
「…どうせ生徒が半殺しで放置されてて、救助活動とかで突入部隊の人員を少しでも減らそうとしてくるんだろうね」
私はそう返す。
「ね。多分数人くらい縛られてるよね」
予想は同じらしい。
「第1陣より最優先!死者、重傷者複数名の救助のため救急車を校舎に近づけさせて欲しいとのこと!」
ほら、当たった…あれ?
「…死者?」
………………………………!?
「…は?」
つい声をあげる。
「……ぇっ…ぅわ…」
両手で口を被った寧々と顔を見合わせる。
「…もしかして傷口に催涙弾の煙を…」
「…多分そうだよね。意図的に傷付け、椅子に縛り付け、催涙弾の命中の多そうな二階に放置して、傷口に勝手に触れるであろう催涙煙の色々な成分で更に痛めつけ、失血とショックで死に至らせる…って」
「マジで…考えたヤツどんな思考回路してんの…?」
「そんなことより、どうして催涙弾が撃ち込まれるであろうなんて予測を立てられたのかが大事」
寧々は私をそう諭すと、こほんと軽い咳払いをし、
「警察の中に楯の会のスパイがいるかもしれない」
と続けた。
「あんまりここで言うことじゃないよ?」
幾ら声を潜めているとはいえ、合同設置本部でそんなことを言うのは流石にやばいでしょ。
「じゃあ……まぁまだ固まってない推理だしいいや〜。ただの元機動隊員とかの可能性もあるし…」
寧々は先程とは打って変わって、いつも通りの明るい声でそう言った。どうやら少し疲れたらしい。
その後、第1陣は二階を無事制圧。3階の制圧は第2陣が行うため、第2陣が前進を開始する。
石の投擲や釘付きの角材による攻撃、椅子の投擲やバリケードと、色々な障害があったものの、あまり手こずらず制圧。リーダーであることを自白した副生徒会長の瑞路川蘭実を公務執行妨害の現行犯で逮捕。
色々な不明点はあるものの、伊藤高校事件は一応の解決をみた。
…ところで、星輪はどこに行ったの?
貰った不健康そうな甘みのあるアンパンと薄く感じる牛乳を寧々と頂きながら、そんな疑問を頭の中に浮かべていた。
次回、『伊藤高校事件』




