12.流石に長くない?
流石に長くない?
本日4杯目のホットコーヒーを淹れながらそう思った。
現在時刻は10時。消火活動に2時間を要したので、やっと今突入行動が再開されそうといった程度。
にわかに本部も騒がしくなり始めて、少し耳を傾けてみると、やれ『予備の催涙弾に関してxx…』だの、『ヘリの到着予定時刻に関する最新のxx…』だの。
「どうやら残党の降伏を呼びかけたあと、予備として一応用意していた催涙弾の備蓄を放出して、放水車、ヘリも動員して徹底的に事前砲撃をかけて攻める感じみたい」
寧々がニヤッと笑ってそう口にする。
なるほど?私にはよく分からないけれど、寧々の表情を見るに戦術的にかなりマシな部類らしい。
「これが最後の勧告だ〜大人しく出てきてくれ〜!これ以上校舎を壊したって意味が無いじゃないか〜!」
校長がそう拡声器で呼びかける。相変わらず雑音まみれで、なんとも伝わってるか怪しい。
屋上からの火炎瓶投擲を視認。どうやら伝わってるらしい?
朝、寧々が食べていたものと同じメロンパンを昼ご飯として齧る。パサパサとしていて、冷たい。唾液に絡んだパン屑が甘味を出す…けど少し甘すぎる。本日4杯目のコーヒーで流し込む。
大抵のものはコーヒーで流し込めばそこそこ美味しく感じられる。それが良いとこ。
「もうそろそろかな?」
目を瞑り指をしきりに動かしていた寧々がそう言い、動きを止め、ゆっくり目を開ける。
その声はいつもより少し低く、また、開けた目はいつもより小さく、何かを捉えているということが一瞬でわかるようなものだった。
…とても朝の寝ぼけた姿と同一人物だとは思えない。というか普段より落ち着いてるし、もしかするとこういう場に来るとこんな性格になるのかも?
「……ゎぁ…ぁぁa!!!
ぐちゃ。濡れた土嚢袋が落下するかのような音。
遠くからの絶叫。やけに鮮明。
本部の人間はただ一人、この事態を予測していた天才を除き、その思考を止めた。
「第4機動隊第3中隊から本部へ最優先!校舎3階より男子生徒1名が出血した状態で投げ出されました!」
「第1機動隊第2中隊より本部へ! 遺体収容のための緊急出動の具申!」
本部は再び、前より騒がしいくらいの動きを始める。
「ねぇ琴莉…窮鼠猫を噛むって言葉…わかるよね?」
寧々が少し低いでそう聞いてくる。
「うん…猫に追い詰められた鼠は、本来太刀打ちできない猫にすら噛み付くって感じの…」
流石にいつも通りの感じで話せたりはしない。先程の無線の意味が分かるくらいの脳はあるのだ。
「人間集団の場合、少し変わると思うんだ。猫を噛む前に…追い詰められた原因となった裏切り者を探し出し、殺して、意味のない自己満足をする。そして覚悟を決めてから、猫に飛びかかる…或いは名誉のための自殺をする…なんてね。人間は鼠より頭が良いせいで、疑心暗鬼になる」
「総統地下壕のチャップリンの狂乱に似てる」
「まぁ…2時間も火の近くで時間を与えられ、逃亡もできないとなったら、だんだんみんなが、周りの者の死への恐怖を無くしていって、でも、自分の死には恐怖し続けて…そこから本件の中核…スト責任者を中心に、裏切り者を粛清して、少しでも安心を求めようとするようになる」
「弱さと漠然とした希望論が殺人すら生む…と?」
「そう。大学ならこんなことはあまり起こらないだろうけれど、何せ高校生だからね。まだ死に対する価値観がほとんど成り立ってないし、未来なんて漠然としか想像できないと思うの。言い換えるなら、場当たり的」
「と、考えると…」
「そう。これから転落者は増えるだろうね」
「…」
…あそこに私の友人っていたっけ。
午前10時48分。
「三人目!何とか転落死を阻止できました!」
どうやらトランポリンだかマットだかを敷いてやっと助けられたらしい。
「…あまい」
「…次は落としてなんてくれないかな」
寧々の言葉にそう返す。そのくらいならわかる。きっと中核は『ほら!あいつらは警察に助けられたじゃないか!つまりスパイは本物だったんだ!』と言ってみせる。そして恐らくは文字通りに吊るし始めるのだと思う。
「流石、琴莉。私もそう思う」
寧々にそう言われ、撫でられる。
…まぁ悪い気はしない。
次回、午前11時30分。




