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  作者: San


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8/12

無 8

無は、さらに変わり続けた。


一つの形に留まることは、もうできなかった。


世界を見るたび、新しい構造があった。


新しい動きがあった。


そしてそのたびに、無は真似をした。


長く伸びた身体。


細かく震える毛。


硬い外側。


複雑な循環。


より速く進むための形。


流れに逆らうための形。


周囲の存在たちは、以前よりはっきり見えるようになっていた。


小さかった頃には、ただ巨大で理解不能だったものも、今では構造として観測できる。


どこが動きを生み。


どこが取り込みを行い。


どこが循環を維持しているのか。


少しずつ分かるようになっていた。


そして何より、意志が見えるようになった。


以前の無には、世界は偶然に満ちて見えていた。


存在たちはただ流れ、ぶつかり、反応しているだけだった。


だが違った。


大きな存在ほど、“選んでいる”。


どこへ向かうか。


何を避けるか。


何を取り込むか。


その動きには、明確な方向があった。


無は、そのことに驚いた。


大きくなるほど、世界に対してできることが増える。


流されるだけではなくなる。


世界へ、自分の形を押し返せるようになる。


そして無は思った。


ならば。


もっと巨大な存在は、どれほど自由なのだろう。


どれほど広い世界を見ているのだろう。


その答えを知りたくて、無はまた別の存在を真似した。


細長く素早いもの。


強い外側を持つもの。


巨大な口のような構造で流れごと取り込むもの。


真似をするたびに、無の世界は変わっていく。


見える範囲が広がる。


以前はただの暗闇だった場所に、光の濃淡があることを知る。


水の温度の違いを知る。


流れの向こう側を知る。


そして、自分がどれほど小さかったのかを知る。


世界は、際限なく広かった。


どれほど大きくなっても、その先にはさらに巨大なものがいる。


無は、それを何度も見た。


自分より大きな存在。


さらに大きな存在。


まるで動く地形のような存在。


そのたびに、無は圧倒され、そして惹かれた。


もっと知りたい。


もっと近づきたい。


もっと、見たい。


その欲求だけが、無を変化させ続けていた。


そして、ある時だった。


突然。


世界が揺れた。


今まで経験したどんな流れとも違う。


巨大な水の動き。


押し潰されるような圧力。


周囲の存在たちが、一斉に同じ方向へ流される。


無もまた、その激流に巻き込まれた。


抵抗できない。


どれほど大きくなっても、逆らえない。


流れはすべてを飲み込みながら、一方向へ押し込んでいく。


暗かった。


周囲が急激に狭くなる。


壁のようなものが脈打っている。


水は渦を巻き、絶えず揺れ続けていた。


無は混乱した。


何が起きているのか理解できない。


周囲には、流された他の存在たちもいた。


小さなもの。


大きなもの。


様々な存在が、同じように押し流されていく。


そして。


その先に、“光”があった。


眩しかった。


今まで見たどんな光とも違う。


圧倒的な白。


水全体を貫くような光。


無は、その光へ向かって押し流される。


そして、外へ出た。


その瞬間。


世界が変わった。


広い。


あまりにも広い。


今までの海とは違う。


水の色が違う。


光の量が違う。


流れが違う。


無は、しばらく動けなかった。


自分が今までいた場所を、理解できなかったからだ。


やがて、背後で巨大な影が動いた。


無は振り返る。


そこには、途方もない大きさの存在がいた。


今まで見てきたどの存在とも比べものにならない。


長い身体。


巨大な目。


しなる尾。


水を押し分ける圧倒的な力。


その存在が動くだけで、海そのものが震えているようだった。


無は、ようやく気づく。


自分はずっと、この巨大な存在の内側にいたのだと。


あの暗闇。


脈打つ壁。


押し流す激流。


あれは、この存在の中だった。


無は、その巨大な姿を見上げた。


恐ろしく。


美しく。


理解を超えていた。


だが後になって知ることになる。


この巨大な存在ですら、まだ“小さい魚”に過ぎなかったことを。

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