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  作者: San


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7/12

無 7

無は、その巨大な存在を追い始めた。


もちろん、追うと言っても簡単ではなかった。


相手が動くだけで世界が揺れる。


流れが変わる。


近づこうとしても、発生した水の動きだけで遠くへ流されてしまう。


それほどまでに、存在の規模が違った。


だが無は、いつものように観測した。


毛の動き。


外側の構造。


循環の速さ。


進む方向。


巨大な存在は、ただ大きいだけではなかった。


“世界の使い方”そのものが違っていた。


小さな存在たちは、水に流されながら生きている。


だが巨大な存在は違う。


自ら水を動かしていた。


その動きによって周囲を変え、流れを作り、必要なものを集めている。


無は、それを理解しようとした。


そしていつものように、真似を始める。


最初は、ただ外側を変えた。


少し長く。


少し広く。


だが崩れた。


今までの循環では、大きな形を維持できなかった。


内部が薄くなる。


流れが届かない。


外側だけが広がり、内側が死んでいく。


無は修正した。


循環を増やす。


流れを分ける。


内部に複数の揺れを作る。


何度も失敗した。


大きくなるほど、今までの“単純さ”では存在できない。


小さな存在だった頃には必要なかった構造が、次々と必要になる。


無は長い時間をかけて、それを学んでいった。


そして少しずつ、少しずつ。


無は大きくなっていく。


すると世界が変わった。


最初に変わったのは、“流れ”だった。


かつては巨大だった水の動きが、以前ほど恐ろしくなくなる。


小さな揺れでは崩れない。


流されにくい。


自分自身の重さが、世界へ留まらせる。


無は初めて、“耐える”という感覚を知った。


さらに変わったのは、視界だった。


以前の無にとって、世界は近すぎた。


周囲は常に壁のようで、見えるものは断片だけだった。


だが大きくなるにつれ、遠くが見える。


流れの先。


存在たちの群れ。


光の濃淡。


以前なら気づかなかった動き。


世界は、急に広くなった。


そして同時に――小さくもなった。


かつて無数に見えた細菌たちは、今では砂粒のようだった。


以前は美しく見えた構造も、近づけば単純に見える。


一つ一つに圧倒されていた頃とは、世界の感じ方が変わっていた。


無は、それに戸惑った。


世界は変わっていない。


変わったのは、自分の大きさだ。


だが、大きさが変わるだけで、世界そのものが別のものになる。


以前は“海”だった場所が、今では小さな流れに見える。


以前は“巨大”だった存在が、今では理解できる範囲に近づいている。


無は、初めて思った。


見えている世界は、本当の世界ではないのかもしれない、と。


存在の大きさによって、世界の姿は変わる。


なら。


もっと大きな存在には、どんな世界が見えているのか。


巨大な存在――あの動く都市のような生き物は、何を見ているのか。


無は、さらに真似を続けた。


外側に毛のような構造を作る。


流れを掴む。


進む力を得る。


そしてある日。


無は初めて、自分の意志で大きく方向を変えた。


流れに乗るのではない。


自ら、進みたい方向へ進む。

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