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  作者: San


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5/12

無 5

無は、自ら変わることはできなかった。


変化とは、いつも外側から来るものだった。


何かを見つける。


観測する。


理解できないまま、近づこうとする。


そして長い時間をかけて、真似をする。


それが無だった。


だから無は、常に周囲を見ていた。


漂いながら。


取り込みながら。


崩れそうになりながら。


無数の存在たちを観測していた。


そこには様々な形があった。


細長いもの。


丸いもの。


棘のような外側を持つもの。


ゆっくり動くもの。


激しく揺れるもの。


他を取り込み続けるもの。


ただ静止し続けるもの。


どれも違っていた。


そしてその違いには、必ず理由があった。


速く進むため。


崩れにくくするため。


取り込みやすくするため。


無はそれを、完全には理解できない。


だが、観測するほどに分かっていく。


形とは偶然ではない。


存在し続けた結果なのだ。


その中で、ある存在が無の視界へ入った。


最初は、ただ光の揺れ方が違うように見えた。


周囲の流れの中で、その存在だけが妙に滑らかだった。


動きに無駄がない。


循環が静かだった。


外側は薄く透き通り、内部の流れが、まるで規則のように整っている。


無は、それを見続けた。


その存在は、他と争わなかった。


激しく取り込むこともない。


けれど弱くもない。


必要なものへだけ近づき、静かに取り込み、また離れる。


その動きは、今まで見てきたどの存在とも違っていた。


無は、その姿に引き寄せられた。


理由は分からない。


だが、見ているだけで循環が静かになる感覚があった。


美しい。


無は初めて、そう感じた。


それは生存の効率とは少し違う。


大きさでも、強さでもない。


ただ、“整っている”。


その存在は、世界の流れと争わず、それでいて崩れない。


無は、その存在を真似し始めた。


まず、動き。


急な揺れを減らす。


流れに逆らわない。


必要以上に取り込まない。


しかしうまくいかなかった。


循環が弱まり、崩れかける。


静かな動きは、維持が難しかった。


何度も失敗した。


形を変え。


流れを変え。


内部の循環を調整する。


長い時間が過ぎた。


周囲の存在は何度も崩れ、新しいものへ変わっていく。


それでも無は、その存在を観測し続けた。


なぜ崩れないのか。


なぜその形で存在できるのか。


そして、少しずつ近づいていく。


外側を薄くする。


循環を均等にする。


動きを滑らかにする。


無は、真似によって変わっていった。


やがて。


ある瞬間。


無は、その存在とほとんど同じ姿になった。


流れは静かだった。


取り込みは穏やかだった。


以前のように激しく周囲を求めなくても、形を保てる。


循環は安定していた。


無は漂いながら、自分の揺れを観測した。


美しい。


確かに、そう感じた。


今までの模倣とは違った。


ただ近づいただけではない。


この形を、無は気に入っていた。


長い時間をかけて得た、初めての感覚だった。


だが。


そのとき。


無は、別の存在を見つけた。


それはさらに遠くにいた。


形は今までとはまるで違う。


外側には淡い光のような揺れがあり、内部は複雑に循環している。


動きは遅い。


しかし、その存在の周囲だけ流れが変わって見えた。


まるで世界そのものが、その存在を避けているようだった。


そして何より――美しかった。


今の自分とは違う、美しさ。


無は止まった。


今までなら、迷わなかった。


見つけた瞬間、真似を始めていた。


だが今回は違う。


無は、自分自身を観測した。


今の姿。


静かな循環。


整った流れ。


長い時間をかけて辿り着いた形。


それもまた、美しい。


では。


変わるべきなのか。


今までの無なら、考えることすらなかった。


より優れたもの。


より美しいもの。


それを見つければ、真似をする。


ただそれだけだった。


しかし今。


無は初めて、“失う”という感覚を知った。


新しいものへ変われば、今の形は消える。


今の循環。


今の静けさ。


今の美しさ。


それらは、別のものになる。


無は、その新しい存在を見つめた。


そして同時に、自分自身の揺れも見つめていた。


世界は静かに流れている。


無数の存在たちは、変わり続けている。


だがその中で無だけが、初めて迷っていた。

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