表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
  作者: San


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
4/12

無 4

それは、今までの泡とは違っていた。


形が違う。


揺れ方が違う。


何より、“向かう先”があるように見えた。


無は、その存在を観測した。


小さな泡たちは、ただ流れに従って漂っていることが多かった。ぶつかり、離れ、偶然に循環する。


しかしその存在は違う。


ゆっくりと、ある方向へ進んでいた。


まるで、自ら選んでいるかのように。


無はその動きを真似しようとした。


最初はうまくいかなかった。


形を少し変える。


外側の揺れを偏らせる。


すると一瞬だけ進むが、すぐに回転し、崩れかける。


何度も修正した。


長い時間をかけて、少しずつ近づいていく。


するとある日、無は気づく。


その存在は、ただ進んでいるのではない。


“何か”へ近づいている。


周囲には、さらに小さな粒が漂っていた。


ほとんど形もない、薄い欠片。


その存在は、その欠片へ向かい――取り込んだ。


消えた。


いや、違う。


欠片は、その存在の内側へ入っていた。


その瞬間、存在の揺れが変わった。


弱まっていた動きが、再び強くなる。


循環が安定する。


形が保たれる。


無はそれを見続けた。


理解はできない。


だが、確かに変化が起きていた。


取り込む前と後では、“維持の強さ”が違う。


無は初めて、自分がずっと減り続けていたことに気づいた。


動き続けるたびに、循環は少しずつ薄れていく。


形は、永遠には保たれない。


だから周囲の泡たちは、絶えず流れ、取り込み、変化していたのだ。


無は、その行為を真似した。


小さな欠片へ近づく。


外側を開く。


内側へ流し込む。


最初は失敗した。


欠片が大きすぎて崩れた。


逆に、自分の一部が外へ漏れた。


形を保てず、循環が乱れる。


それでも無は繰り返した。


少しずつ、構造を変えていく。


取り込みやすい形。


崩れにくい境界。


流れを内側へ向ける揺れ。


やがて、無は初めて成功する。


小さな欠片が、自分の内側へ入った。


その瞬間。


無の内部で、変化が起きた。


循環が強くなる。


揺れが整う。


外側が安定する。


今まで崩れかけていた境界が、ゆっくりと戻っていく。


無は止まった。


これは、何なのか。


なぜ、外側のものを内側へ入れると、自分は維持されるのか。


無はまだ知らない。


それが“食べる”という行為であることを。


だがその瞬間、世界は変わった。


周囲に漂っていた無数の欠片が、ただの景色ではなくなった。


維持へ繋がるもの。


動きを続けるためのもの。


存在を保つためのもの。


無は、初めて“必要”を知った。


必要という感覚は、恐ろしかった。


今までは、ただ真似をしていた。


だが今は違う。


取り込まなければ、自分は薄れていく。


維持できない。


その事実を知ってしまった。


無は、周囲を見た。


他の存在たちも、同じことをしている。


近づき、取り込み、維持する。


ときには互いにぶつかり、小さな存在を奪い合う。


崩れたものの欠片を、別のものが取り込んでいく。


そこには静かな循環があった。


死という概念はまだない。


しかし無は理解し始めていた。


存在は、永遠ではない。


維持し続けなければ、形は崩れる。


崩れたものは、別の存在へ流れていく。


その循環の中で、世界は続いている。


無は、再びあの存在を見た。


最初に見つけた、“自ら向かっていく存在”。


それは今も、静かに動いている。


取り込み、変化し、また進む。


無は、その姿に奇妙な感覚を抱いた。


かつて最初の泡を見たときに近い感覚。


知りたい。


近づきたい。


もっと理解したい。


同じになるだけではなく。


“なぜそうなったのか”を知りたい。


その欲求は、以前より深くなっていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ