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残りマナ0.003%、世界の家計簿を黒字化します~追放された元監査官の最適化無双~  作者: 青柳 玲夜(れーやん)
第四章:再監査の時

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第1話:帰還の道——新たなる敵

 海底遺跡から戻って、三日が経った。


 俺たちは、北西の森林遺跡を目指して旅を続けていた。


 第五の欠片を求めて。



『現在位置:王都エルディアより北西280km』

『外気温:-8℃』

『灰堆積深度:平均48cm』

『世界滅亡まで:00年517日 09:42:18』

『世界樹の欠片:4/7個 回収済み』

『成功確率:1.7%』



 1.7%。


 最初の0.003%から、約570倍に上がった。


 だが、まだ足りない。


 あと3つの欠片を集めなければ——世界は救えない。



「カイさん」


 エルが、俺の隣を歩きながら言った。


「過去編で見たこと……まだ、考えてますか?」


「ああ」


 俺は、空を見上げた。


 灰が、降っている。


 この灰は——俺の「前世」が、間違えた結果だ。


 世界樹の「心」を計算に入れなかった。


 完璧な最適化が、逆に世界を殺した。


「俺は、同じ間違いを繰り返さない」


「……はい」


「今度こそ——『数字』と『心』を、両方見る」


 エルが、微笑んだ。


「カイさん、変わりましたね」


「変わった……か」


「はい。前は、数字のことしか話さなかったのに……今は、私たちのことも——」


 エルの言葉が、途中で止まった。


 彼女の視線が、前方に向けられている。


 俺も、そちらを見た。



    *



 道の先に、人影があった。


 黒いローブを纏った、十数人の集団。


 彼らは、俺たちの行く手を塞いでいた。



『検出:不明な集団 × 14名』

『マナ総量:各人 推定5,000〜15,000MP』

『効率:平均12%(低い)』

『所属:不明——マナ運用局でも聖騎士団でもない』

『警告:敵意を検出』



「誰だ」


 俺は、集団に向かって声をかけた。


「何の用だ」


 集団の中から、一人の男が前に出た。


 痩せた体。青白い肌。目の下には深い隈。


 そして——その目には、狂気が宿っていた。



「カイ・ヴェルナー」


 男が、俺の名を呼んだ。


「世界を救おうとしている愚か者」


「……俺を知っているのか」


「知っている。お前のことは、すべて」


 男が、不気味に笑った。


「お前は、世界を救おうとしている。だが——俺たちは、世界が滅ぶことを望んでいる」


「滅ぶことを……望んでいる?」


「そうだ。世界が滅べば、新しい時代が来る。俺たちだけが生き残る、新しい時代が」


 俺は、男をスキャンした。



『ヴァルカス:「エターナル・オーダー」幹部』

『年齢:38歳』

『マナ効率:8.3%』

『思想:虚無主義——世界の滅亡を「利益確定」と見なす』

『備考:灰の堆積による利権を独占している商人ネットワークの一員』



 エターナル・オーダー。


 聞いたことがある名前だ。


 闇市場で、灰の処理や違法なマナ取引を行っている組織。


 彼らは——世界が滅ぶほど、儲かる。


「お前たちは、灰で金を稼いでいる連中か」


「金? 違う。俺たちは——未来を手に入れる」


 ヴァルカスが、手を振った。


「世界が滅べば、この次元は終わる。だが、俺たちは異次元への扉を持っている」


「異次元……?」


「そうだ。世界樹が完全に枯死した瞬間、マナの爆発が起きる。そのエネルギーで、俺たちは別の世界へ逃げ延びる」


 俺は、眉をひそめた。


「世界を見捨てて、自分たちだけ逃げる……それがお前たちの目的か」


「目的? 違う。これは——ビジネスだ」


 ヴァルカスの目が、冷たく光った。


「世界の終わりは、最大のビジネスチャンスだ。お前のような『正義の味方』には、理解できないだろうがな」


「……」


「さあ、死ね。カイ・ヴェルナー」


 ヴァルカスが、手を振った。


 黒ローブの集団が、一斉に魔法を展開した。



『検出:攻撃魔法 × 14発』

『総消費MP:推定120,000』

『効率:平均11%』

『灰排出:推定10.6トン(瞬間)』

『脅威度:中——回避可能』



「エル、ベル、下がれ」


「カイさん——!」


「大丈夫だ」


 俺は、一歩前に出た。


「《マナ・リダイレクト》」



『消費MP:50』

『効果:敵の魔法を逸らし、無効化』

『効率:99.4%』



 14発の魔法が——すべて、俺の横を通り過ぎた。


 一発も、当たらなかった。


「な——」


 ヴァルカスの顔が、驚愕に歪んだ。


「俺の攻撃を——」


「お前たちの魔法は、無駄が多すぎる」


 俺は、ヴァルカスを見据えた。


「効率11%。俺に届く前に、勝手に崩壊する」


「くっ……! 全員、一斉攻撃——」


「やめておけ」


 俺は、マナ・レジャーのデータを展開した。


「お前たちの総マナ量は、約15万MP。俺が本気を出せば、3秒で全員の魔力を枯渇させられる」


「……」


「死にたくなければ、消えろ」


 ヴァルカスが、俺を睨んだ。


 だが——彼は、仲間に合図を送った。


「……今日は、退く。だが、覚えておけ、カイ・ヴェルナー」


「何を」


「世界は、滅ぶ。お前がどれだけ足掻いても——俺たちが、滅ぼす」


 黒ローブの集団が、闇の中に消えていった。



    *



「カイさん……」


 エルが、不安そうに俺を見た。


「あの人たち……本当に、世界を滅ぼそうとしてるんですか……?」


「ああ。そういう連中もいる」


「でも、自分たちも死んじゃうのに……」


「彼らは、自分たちだけ逃げるつもりだ」


 俺は、空を見上げた。


「世界を見捨てて、自分たちだけ生き残る。それが、彼らの『ビジネス』だ」


「……ひどい」


「ひどいが——彼らだけが敵じゃない」


「え……?」


「オズワルドもいる。そして——」


 俺は、遠くを見た。


「世界を救うことを、諦めている人間が——大勢いる」


 エルが、黙り込んだ。


 ベルが、俺の手を握った。


「カイ」


「何だ」


「大丈夫。私たちは、諦めない」


 俺は、ベルを見た。


 幼女の姿。だが、その奥には——900年を生きた、強い意志がある。


「ああ。諦めない」


 俺たちは、再び歩き始めた。

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