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残りマナ0.003%、世界の家計簿を黒字化します~追放された元監査官の最適化無双~  作者: 青柳 玲夜(れーやん)
第一章:追放と出会い編

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第2話:最適化の夜——三連続の大惨事

 エルとの旅が始まって、初日の夜。


 灰の森の中に、簡易キャンプを作った。


 俺は地面の灰を払い、防寒用の結界を最小限のマナで展開した。



『防寒結界:消費0.8MP/時』

『効率:97.3%』

『灰排出:0.02kg/時』



 エルが、それを不思議そうに見ている。



「カイさんの魔法、全然光らないんですね」


「光は無駄だ。魔法の本質は効果であって、見た目じゃない」


「でも、私が習った魔法は、みんなキラキラしてました」


「そのキラキラに、どれだけのマナが浪費されているか知っているか?」


「……知りません」


「平均して、装飾効果だけで30〜40%のマナが消える。つまり、キラキラさせなければ、同じ効果を半分以下のマナで出せる」


 エルの目が、驚きで見開かれる。


「そんなに……」


「魔法学校で教わる魔法陣は、わざと非効率に作られている。なぜだか分かるか?」


「……分かりません」


「魔法陣を売る業者が儲かるからだ」


 エルが、言葉を失った。



「さて」


 俺は、焚き火用の薪を指差した。


「エル、火を起こしてくれ」


「はい! 任せてください!」


 エルが、張り切って両手を前に出す。


 俺は、一歩後ろに下がった。


 嫌な予感がする。



「《ファイア・ボール》!」



    *



 森が、吹き飛びかけた。



『消費MP:12,000』

『効果:焚き火サイズの炎(過剰出力により周囲5mを焦土化)』

『適正消費:0.5MP』

『効率:0.004%』

『灰排出:240kg(瞬間)』

『被害:枯れ木12本が炭化、カイの外套に火がつく』



「熱っ!」


 俺は慌てて外套を脱ぎ捨て、灰の上に叩きつけて火を消した。


「ご、ごめんなさい……!」


 エルが、真っ青な顔で俺を見る。


「大丈夫です、大丈夫です! お水で消しますね!」


「待て、エル——」


「《ウォーター・スプラッシュ》!」



    *



 次の瞬間——


 俺は、頭から爪先までずぶ濡れになった。



『消費MP:8,500』

『効果:バケツ一杯分の水(過剰出力により滝のような水量)』

『適正消費:0.3MP』

『効率:0.004%』

『灰排出:170kg』

『被害:カイ全身水浸し、焚き火完全消火、薪も水浸し』



 真冬の夜。


 外気温は氷点下。


 俺の体温が、急速に奪われていく。


「あわわわわ! ご、ごめんなさい! 乾かします!」


「待て、エル——」


「《ウィンド・ドライ》!」



    *



 突風。


 俺たちのテントが、50メートル先まで吹き飛んだ。


 俺自身も、3メートルほど後ろに吹き飛ばされた。



『消費MP:6,200』

『効果:そよ風程度の乾燥風(過剰出力により暴風)』

『適正消費:0.2MP』

『効率:0.003%』

『灰排出:124kg』

『被害:テント全壊、カイの帽子紛失、焚き火の薪が散乱』



「…………」


「…………ごめんなさい」


 エルが、しょんぼりと座り込んだ。


 銀色の髪から水滴が垂れている。


 エメラルドの瞳が、潤んでいる。


 灰の上に座り込んだ彼女は、濡れた子猫のように小さく見えた。


 俺は、深呼吸した。



『本日の総被害:26,700MP』

『総灰排出:534kg』

『一般家庭換算:約3年分の生活マナ』

『凍死を防げた人数換算:約89名分』



 3年分の生活マナが、30秒で消えた。


 89人の命が救えるマナが、焚き火とバケツの水と、テントを吹き飛ばす風に消えた。


 怒っても仕方ない。


 この子は『悪い』のではない。『教わっていない』だけだ。


 だが——


 俺の脳裏に、リナの顔が浮かんだ。


 たった500MPで救えた命。


 今、目の前で26,700MPが無駄に消えた。


 リナを、53回救えた量だ。



「……エル」


「はい……」


「座れ。話がある」


「……はい」



    *



 俺は、新しい焚き火を起こした。


 自分の手で、最小限のマナで。



『焚き火:消費0.4MP』

『効率:98.7%』

『灰排出:0.005kg』



 小さな、だが温かい炎が、灰色の闇を照らす。


 エルが、その炎を不思議そうに見つめていた。


「カイさんの炎……全然派手じゃないのに、温かい」


「これが本来の魔法だ。派手さは要らない。必要なのは、効果だけだ」


 俺は、エルの隣に座った。


「エル。お前が今使った3つの魔法——総消費は26,700MPだ」


「……はい」


「この量があれば、何ができると思う?」


 エルが、首を傾げる。


「えっと……分かりません」


「一般的な四人家族が、三年間暮らせる」


「さ、三年……!」


「辺境の村なら、一つの村の暖房を半年維持できる」


「……」


「昨年の冬、庶民街で1,200人が凍死した。その89人は——今お前が浪費したマナで、救えた」


 エルの顔が、蒼白になった。


「89人……」


「お前は世界樹と繋がっている。だから、お前のマナは無限だ。使っても使っても、減らない」


「……はい」


「だが、お前が浪費したマナは、灰となって世界に降り注ぐ。土を殺し、肺を蝕み、人を殺す」


 俺は、空を見上げた。


 灰が、降っている。


 音もなく、静かに。


「お前が今夜浪費した分だけで、534kgの灰がこの世界に降った」


 エルの目から、涙が溢れ始めた。


「わ、私……」


「泣くな」


 俺は、エルの頭をぽん、と叩いた。


「お前が泣いても、灰は消えない。だが——」


 俺は、地面に魔法陣を描き始めた。


「お前がこれから効率化を学べば、世界の寿命が延びる」


 シンプルな円。


 その中に、たった4つのルーン文字。


「これが、本来の《ファイア・ボール》だ」


 エルが、涙を拭いながら魔法陣を見つめる。


「こんなに……シンプルでいいんですか?」


「いいも何も、これが正解だ。お前が今まで使っていた魔法陣を見せてみろ」


 エルが、空中に魔法陣を描く。


 俺のマナ・レジャーが、分析を始めた。



『魔法陣:《ファイア・ボール》(王立魔法学校標準型・上級エルフ改)』

『ルーン数:31個』

『機能的に必要なルーン:4個』

『装飾ルーン:27個(不要)』

『不要率:87%』

『マナ通路の歪み:94箇所』



「この蔦模様のルーン、機能は?」


「えっと……『世界樹への感謝』を表す……」


「感謝を表すのに500MP消費して、10kgの灰を出している。言葉で言え」


「こ、この花びらのルーンは……『森の精霊への祈り』……」


「祈りに800MP、灰16kg。心の中で祈れ」


「この星のルーンは……」


「純粋な装飾だ。200MP、灰4kg。完全な無駄」


 俺は、一つずつ装飾ルーンを消していった。


「魔法陣は、シンプルなほど効率がいい。複雑な装飾は、マナの通り道を歪ませ、灰を増やすだけだ」


 エルが、俺の手元を食い入るように見つめている。


「なぜ……誰も教えてくれなかったんですか……」


「教えたら、魔法陣業者が儲からないからだ」


「そんな……」


「世の中の『常識』の半分は、誰かが得をするために作られた嘘だ」


 俺は、完成した魔法陣をエルに見せた。


「これが、本当の《ファイア・ボール》だ。試してみろ」


 エルが、恐る恐る魔法陣を展開する。


「《ファイア・ボール》……」


 小さな炎が、彼女の掌に灯った。



『消費MP:0.8』

『効率:62.5%』

『灰排出:0.3kg』



 さっきの12,000MPから、0.8MPへ。


 15,000分の1だ。


 エルの目が、輝いた。


「す、すごい……! こんなに軽い……!」


「それが、本来の魔法だ」


 俺は、焚き火に薪を追加した。


「エル、お前は今まで、わざと重い鎖を付けられて走らされていたようなものだ。本当は、もっと軽く、速く、遠くまで行ける」


 エルの目に、涙が浮かんでいた。


 だが今度は——希望の涙だった。


「カイさん……ありがとうございます……」


「礼はまだ早い。今のは一つの魔法だけだ。お前が使う全ての魔法を、同じレベルまで最適化する」


「はい……!」


「明日から、本格的に訓練する。一週間で、効率を50%まで上げる」


「50%……」


「できるか?」


 エルが、ぎゅっと拳を握った。


「やります。絶対に」


 その目には——もう、迷いはなかった。

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