第7話:帰還——真実を胸に
目を開けた時、俺は——海底遺跡の中にいた。
現代に、戻ってきた。
『時間軸:現在』
『場所:海底遺跡「アビサル・アーカイブ」』
『世界滅亡まで:00年461日 14:58:32』
「カイさん……!」
エルが、俺に駆け寄った。
「大丈夫ですか……!?」
「ああ……大丈夫だ……」
俺は、ゆっくりと立ち上がった。
体が重い。
だが、心は——軽くなっていた。
すべてが、分かった。
俺が何者なのか。
世界がなぜ滅びかけているのか。
ベルが、なぜ俺を待っていたのか。
すべて。
「ベル」
俺は、幼女の姿のベルを見た。
「……カイ」
ベルの目に、涙が浮かんでいた。
「思い出した……?」
「ああ」
俺は、ベルを抱きしめた。
「すまなかった。900年も——待たせて」
「……ううん」
ベルが、俺の胸に顔を埋めた。
「待ってて、よかった」
小さな体が、震えている。
900年分の孤独が、溢れ出している。
「もう、離さない」
「……うん」
「必ず、お前を救う。世界と一緒に」
「……ありがとう、カイ」
俺たちは、しばらくそのままでいた。
*
「感動的な再会だな」
オズワルドの声が、ドームに響いた。
俺は、ベルを離し、オズワルドを見た。
「オズワルド。お前も、すべてを知っていたのか」
「当然だ。俺は、900年間——見ていた」
オズワルドの目が、冷たく光った。
「レオンが死んだ時も。世界が滅びかけた時も。お前が転生した時も」
「なぜ、何もしなかった」
「何もしていない? 俺は、ずっと——世界を守ってきた」
オズワルドが、一歩前に出た。
「俺は、『選別』を行ってきた。弱い者を切り捨て、強い者だけを残す。それが、世界を守る唯一の方法だ」
「選別……」
「貴族は生き残り、庶民は死ぬ。それが、自然の摂理だ」
俺は、オズワルドを見つめた。
彼の目には——狂気があった。
900年間、一人で世界を守り続けた男の、歪んだ正義。
「オズワルド。お前は——間違っている」
「間違っている?」
「世界を救うために、人を殺す。それは、救いじゃない」
「ならば、お前はどうする? 全員を救えるとでも思っているのか?」
「思っている」
俺は、「記録の欠片」を手に取った。
「俺は、世界の家計簿を黒字化する。一人も殺さずに」
「不可能だ」
「不可能じゃない。俺は、計算した」
俺のマナ・レジャーが、新しい数字を表示した。
『世界救済計画:完全版』
『必要マナ:500,000,000MP』
『現在の確保量:310,000,000MP(欠片4個分 + レオンの結晶)』
『残り必要量:190,000,000MP』
『欠片残り:3個』
『推定総量:210,000,000MP以上』
『結論:達成可能』
「あと3つの欠片を集めれば——世界は救える」
「……ふん」
オズワルドが、剣を構えた。
「お前の計算が、また間違っていたらどうする? 900年前のように」
「間違わない」
俺は、オズワルドを真っ直ぐに見た。
「俺は、もう『数字だけ』を見ていない。人の心も——見ている」
「……」
「師匠が教えてくれた。ベルが教えてくれた。エルが教えてくれた」
俺は、懐から師匠の結晶を取り出した。
「これが、師匠の命だ。52,000MP。だが——この結晶には、数字以上の意味がある」
「意味……?」
「師匠の願いだ。俺に託された、希望だ」
俺は、結晶を握りしめた。
「俺は、その希望を——無駄にしない」
オズワルドが、しばらく俺を見つめていた。
そして——
「……いいだろう」
彼が、剣を降ろした。
「お前の計画を、見届けてやる。だが——失敗したら、俺のやり方で世界を救う」
「お前のやり方は、必要ない」
「ならば、証明しろ。お前の『優しい数字』で、世界を救えることを」
オズワルドが、背を向けた。
「次に会う時は——決着をつける」
彼は、ドームの奥に消えていった。




