表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
残りマナ0.003%、世界の家計簿を黒字化します~追放された元監査官の最適化無双~  作者: 青柳 玲夜(れーやん)
第三章:忘却の聖戦

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

22/42

第1話:鉛色の海

 海は、死んでいた。


 かつて『蒼穹の鏡』と呼ばれたこの海も、今は鉛色に濁っている。


 波打ち際には、灰が打ち寄せられ、砂浜を灰色に染めている。


 空からは、絶え間なく灰が降り注ぐ。


 海面に落ちた灰は、ゆっくりと沈んでいく。


 魚の姿はない。海鳥の声もない。


 ただ、波の音だけが——世界の終わりを告げるように、静かに響いていた。



『現在位置:東海沿岸「灰の岬」』

『外気温:8℃』

『海水温:4℃(生態系維持限界以下)』

『海底遺跡まで:水深約800m』

『世界滅亡まで:00年461日 14:23:07』



 俺は、灰色の海を見つめていた。


 懐には、師匠の結晶がある。


 52,000MPの、命の結晶。


 レオン・グラナートが、俺を逃がすために——自らを変換した、最後の贈り物。



「カイさん……」


 エルが、俺の隣に立った。


「本当に、あの海の底に……?」


「ああ。第四の欠片は、海底遺跡にある」


「水深800m……どうやって……」


「方法はある」


 俺は、ベルを見た。


「ベル。お前の力を借りる」


「うん。任せて」


 ベルが、小さな手を海に向けた。



「《アビス・ゲート》」



『検出:空間魔法アビス・ゲート発動』

『効果:海水を分断し、海底への通路を開く』

『消費MP:測定不能(世界樹級)』

『効率:99.99%』

『灰排出:0kg』



 海が——割れた。


 鉛色の海水が、左右に分かれていく。


 その間に、深淵への道が開かれた。


 800mの垂直な壁。


 その底に、青白い光が見える。


「……すごい」


 エルが、息を呑んだ。


「これが、魔王の力……」


「行くぞ」


 俺たちは、海底への道を降り始めた。



    *



 海底遺跡は、巨大だった。


 古代の都市が、そのまま沈んでいる。


 崩れかけた塔。苔むした神殿。砕けた彫像。


 そして——その中心に、ドーム状の建物がある。



『検出:海底遺跡「アビサル・アーカイブ」』

『建造年代:推定900年前』

『用途:世界樹のログ保存庫』

『内部マナ反応:極めて強力——世界樹の欠片の可能性』

『警告:強力な防衛機構あり』



「ログ保存庫……」


 俺は、ドームを見上げた。


「ここに、世界樹の記録が眠っている」


「記録……?」


「そうだ。世界樹は、すべてを記録している。過去900年間の、すべてのマナの流れを」


 俺たちは、ドームの入り口に近づいた。


 扉は、すでに開いていた。


 誰かが——先に入ったのだ。


「カイさん、これ……」


 エルが、扉の横を指差した。


 そこには、聖騎士団の紋章が刻まれていた。


 新しい。


 つい数時間前のものだ。


「……オズワルド」


 俺は、呟いた。


「先回りされたか」


「どうしますか……?」


「進む。他に選択肢はない」


 俺たちは、ドームの中に入った。



    *



 ドームの内部は、青白い光に満ちていた。


 壁一面に、魔法文字が刻まれている。


 それは——データだ。


 900年分の、世界のマナ収支。


 生まれた命。消えた命。使われたマナ。生み出された灰。


 すべてが、ここに記録されている。



『アビサル・アーカイブ:データ量 推定800兆レコード』

『記録期間:912年前〜現在』

『最終更新:0.3秒前(リアルタイム同期中)』



「すごい……」


 エルが、壁の文字を見つめた。


「世界中のマナの流れが、全部ここに……」


「世界樹は、すべてを見ている。すべてを記録している」


 俺は、中央の祭壇に向かった。


 そこに——


 淡い金色の結晶が、浮かんでいた。



『検出:世界樹の欠片(第四片)「記録の欠片」』

『マナ含有量:80,000,000MP』

『特殊能力:過去の記録を「体験」として閲覧可能』

『状態:活性化中』



「第四の欠片……」


 俺は、手を伸ばした。


「待て」


 声がした。


 俺は、振り返った。



    *



 ドームの奥から、一人の男が現れた。


 白銀の鎧。黒い髪。冷たい、死んだような目。


 オズワルド・グラナート。


 聖騎士団長。


 俺の師匠——レオンの、兄。



「久しぶりだな、カイ・ヴェルナー」


 オズワルドの声が、ドームに響いた。


「また会えて嬉しいぞ」


「オズワルド……」


「レオンが死んだそうだな」


 オズワルドの目が、わずかに細くなった。


「愚かな弟だ。お前を逃がすために、自分を犠牲にするとは」


「師匠は——」


「師匠?」


 オズワルドが、嘲笑った。


「奴は、お前に何も教えていない。真実を、何一つ」


「真実……?」


「お前は何も知らない。自分が何者かも、この世界が何故滅びかけているかも」


 オズワルドが、一歩前に出た。


「教えてやろう。お前が見るべき『真実』を」


「何を——」


 オズワルドが、手を振った。


 次の瞬間——


 俺の体が、動かなくなった。



『検出:拘束魔法アブソリュート・バインド

『効果:対象の動きを完全に封じる』

『消費MP:推定50,000』

『解除難易度:SSS』



「カイさん……!」


 エルが、俺に駆け寄ろうとした。


 だが、彼女も——同じように動きを封じられた。


「ベル……!」


「ごめんね、カイ」


 ベルが、悲しそうな顔で言った。


「この魔法、私でも解けない」



「ベルフェゴール」


 オズワルドが、ベルを見た。


「久しぶりだな。900年ぶりか」


「……オズワルド」


 ベルの目が、怒りに燃えた。


「あなた、まだ生きてたんだ」


「お前と同じだ。俺も、『待っていた』のだよ」


「待っていた……?」


「この瞬間を。カイが、真実を知る瞬間を」


 オズワルドが、祭壇に向かった。


「見せてやろう。900年前に、何があったのか」


 彼が、「記録の欠片」に触れた。


 世界が——反転した。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ