101 今後の活動計画?
バナジードについてや衣緖菜がここへ来た経緯については、基本的に花音さんに全部伝えている。
だから特に質問はなく、この先『異世界魔法部』でどんな活動をしようかという話が中心になった。
といっても、堅い話ではない。
例えば毎日の昼食時、この部屋を使おうという話とか。
これは中等部3年の結菜さんと、中等部1年の埴生陽菜のこんな会話がきっかけだ。
「気にせず魔法を使える場所が出来るのって、便利だよね」
「そうなのです。魔法収納を使えるのに、わざわざ本やタブレットを入れた重い鞄を持つのって、だるいです」
「それもそうなんだけどさ。お昼ご飯、食堂で出ているのって、いいかげん飽きない? カナ姉に作ってもらった方がよっぽど美味しいと思う。
この部屋があれば、昼休みにこっそり来て、魔法収納から出して食べれば大丈夫だよね。カナ姉に毎日作ってもらうのが申し訳なければ、放課後にあちこちの惣菜買い集めてストックしてとか」
なおカナ姉とは、花音さんのことだ。
向こうの世界でもこっちでも、学校の寮に入るまでは花音さんが食事を作っていたらしい。
衣緖菜の国と違い、食事は良かった様だ。
向こうの世界で5人がいたのは農場だったから、食料は問題なく手に入ったし、花音さんはかなり料理が上手らしいから。
「何なら全員でカナ姉に昼食を作ってもらって、ここで食べようよ。衣緖菜さんと陽翔さん含めて」
「それは申し訳ない。材料費も手間もかかる」
「大丈夫ですよ。昼だけですし、量も2人分だけなら誤差ですし、お金は愛美が充分稼いでいますから」
なお愛美さんの稼ぎ方は、衣緖菜と同じでオンライントレード。
埴生伸吾という存在しない叔父の名義でやっているらしい。
住所もあるし、確定申告もする予定とのことだ。
他にはこんな話も出た。
「夏は魔法の訓練合宿に行こうよ。無人島か何かを借り切って、思い切り魔法ありで」
「魔力総量は、8歳くらいでほぼ成長しきると聞いた気がするけれど」
「サラステクスの最新の理論ですと、30歳くらいまでは訓練で上がるとされています。ただ単独や同じ性質の魔力の持ち主ばかりの集団では上がりにくく、違う性質の魔力を持った5人以上のグループで訓練する事が推奨されていました。戦争前にはそれぞれ別の班から1人ずつ出して、20人くらいの集団で訓練するなどしていたものです。戦争が始まって、そういった訓練をする余裕がなくなりましたけれど」
結菜さんと衣緖菜、花音さんのこんな話が発展した結果。
「GWと夏休み、秋の期末休み、冬休み、春休みは、魔法訓練の合宿に行きましょうか。場所は花音さんに聞いておきます。他の人がいない、ちょうどいい場所があるそうですので」
「なら賛成。使える魔法の種類は多い方が、この世界でも有利」
なんて花音さんと衣緖菜によって、合宿をすることが決まってしまった。
俺以外全員女子だけれど、大丈夫なのだろうか。
なんてあれこれ話していると、時間が経つのはあっという間。
気がついたら17時50分。
「それじゃ今後の活動については、皆で持ち帰って考えて、明日また話し合うことでいいでしょうか」
「了解。とりあえず合宿は、絶対やりたい」
衣緖菜、合宿に乗り気の模様。
「それでは合宿に必要な装備と手配については、花梨さんに聞いておきましょう。予定は4月27日の土曜から29日祝日までの3日間か、5月3日祝日から6日の振替休日までの4日間の、どちらかでいいですね」
なんて話をした後、急いで片付けて部屋を出て。
17時57分、下校終了まであと3分というぎりぎりの時間に校門を出て、いつもの道を街の方へ歩いて行く。
「今日はあれこれ話して疲れただろうし、夕食は適当な惣菜を買って帰ろうか?」
ここから帰るときは、大体買い物の話が多い。
この後の帰るルートに直結するから、ある意味当たり前だけれど。
だから今回も衣緖菜に、いつものように話しかける。
「なら今日は手前の大きいスーパーがいい。駅前のほど混んでいないし、品揃えがいい」
衣緖菜はそう返答した後、少しだけ間を置いて。
「あと陽翔、ごめん」
そう呟くように、付け加えた。
脈絡がないし、対象を絞っていない一方的な謝罪だ。
少なくとも買い物の話とは、繋がっていない。
だけど俺には何となくそれが、何のことだか理解できた。
だから確認ついでに、こう言ってみる。
「花音さんとのやりとりについてなら、気にしなくていい。衣緖菜だって個人的に聞きたいことくらいあるだろうし」
花音さんに伝達魔法で聞いて、伝達魔法で返答して貰った件だ。
少なくとも俺には、質問も答えもわからない。
わかることは花音さんの、この感想が全てだ。
『同意すべきではないのでしょう。それでも私は理解しますし、共感してしまうのです』
何故花音さんに聞いたのか、何を聞いたのか。
そして花音さんは、どう答えたのか。
『同意すべきではない』と言ったあたりで不穏な感じがするし、確かめたいのは確かだ。
それでも衣緖菜は僕ではない。
だから知られたくないことくらいあっても、不思議ではない。
何もかも知るべきだとは思わないし、そうやって聞くべきだとも思えないのだ。
「ありがとう」
そう衣緖菜は言って、そして付け加える。
「今までで今がいちばん楽しくて、この暮らしが続けばいいなと思っている。だからこそ聞きたかった。おそらく私と同じように今を楽しんでいて、私と同じ立場にある花音に」
やっぱり俺には、衣緖菜の言葉が何をどう意味しているのか理解できなかった。
今が楽しいというのは、俺としては嬉しい。
でもそこに『だからこそ聞きたかった』と続くのが、気になる。




