102 最初の昼食会
予想外だったのは、翌日から昼食会が始まってしまったことだ。
4時限目が終わった後、愛美さんが迎えに来た。
「早速カナ姉が昼食を作ってきたので、一緒に食べませんか?」
まずはそう衣緖菜に言って、それから衣緖菜と2人で俺の方へ。
まずい、とっさにそう判断して、いつも一緒に食堂に行く香取と長柄に先に言い訳。
「悪い。今日はサークルの話し合いがあるから、行ってくる」
「衣緖菜さんの関係か?」
思い切りバレている。
ただクラスで仲がいい連中には、
① 衣緖菜が俺の姉で
② 姉に頼まれて、同じサークルに人数あわせの為に入っている
と説明していたが、
③ 何のサークルかは言っていない
という状態だ。
だから今回も、その路線でごまかさせて貰おう。
「わかった。でも都築のサークル、何なんだ。女子が多いなら紹介してくれれば人数あわせに加わるぞ」
「そうそう、大田南畝も言っている。どうか敵にめぐりあいたい」
香取も長柄も、飽多の中学にいた三浦と違い、別に本気で言っているわけではないと思う。
単なる挨拶みたいなものだ、多分。
そういえば三浦、ちゃんと高校に通えているだろうか。
定員割れのゴ校にも落ちて、通信制高校の二次募集で何とか拾ってもらったと聞いたけれど。
まああいつがどうなろうと自業自得だし、心配する必要はない。
というのはまあ、今は関係ないから忘れて。
「いや、今は人数は大丈夫だ。じゃ行ってくる」
それだけで片付けて、衣緖菜や愛美さんの方へ向かう。
あ、でも待てよ。
メイも異世界魔法部の部員だから、誘った方がいいだろうか。
衣緖菜にそれとなく聞いてみよう、そう思ったところで。
「メイは誘わなくていい。本人に確認済み。あくまで異世界魔法部には名前を貸しているだけ。その立場でいいって」
衣緖菜が先に気づいた様だ。
なら問題はない。
あの部はメイが作ったようなものだから、微妙に割り切れない感じはするけれど。
ということで、課外活動棟へ。
渡り廊下を渡って人通りが少なくなったところで。
「時間が勿体ないので、魔法で移動します」
愛美さんの言葉とともに、風景がふっと揺らぐ。
足の感触も変だ。
そう思った次の瞬間、周囲が違う景色になった。
異世界魔法部の部室にはもう4人、テーブルについている。
愛美さんは衣緖菜と違って、日本でも転移魔法を使う様だ。
空間操作特化型の魔法使いだから、衣緖菜以上に転移魔法が得意なのだろうか。
それとも衣緖菜が、俺と会った後、使わない様にしていたのだろうか。
なんて考えたところで。
「遅いよ、さっさと食べよ!」
これは結菜さんだな。
そう思いつつ空いている席に俺たち3人がついたところで。
「それでは今日の昼食です。お昼ということで、つけ麺とチャーハンにしてみました」
えっ!?
そう思ったところで、目の前に麺が入ったどんぶりと焼き豚、ネギ、茶色いゆで卵が浮いた汁入りのどんぶり、平皿入りチャーハン、おそらく麦茶だろう茶色い液体入りのコップが出現する。
それぞれ1人ずつ、7人分。
てっきり作ってきたお昼だから、弁当だと無意識的に思っていた。
でも魔法収納を使えるなら、時間経過も入れ物の大きさも、汁がこぼれるかどうかも気にしなくていい。
そしてつけ麺もチャーハンも、なかなか美味しそうだ。
衣緖菜と生活するようになってから、俺はラーメンを食べていない。
飽多を出るまで、菓子パンとカップラーメンの日々が続いた結果、この2種は食べたくなかったというのもある。
ただ目の前にある様な、ちゃんとした麺のラーメンなら話は別だ。
つけ麺だから麺が別盛りなので、麺が安いカップラーメンのものと違うのは一目瞭然。
スープも分厚い豚とゆで卵が浮かんでいて、いかにも美味しそうだ。
チャーハンもいかにも中華料理店で出てきそうな感じで、惣菜で売っているものより美味しそうに見える。
でもそれ以上に、食べ慣れない感じのラーメンが美味しそうだ。
でも衣緖菜は汁物が苦手だったはずだ。
大丈夫だろうか。
今のところ、普通に食べるのを待っているような感じだけれど。
食べられなくても、チャーハンの方は大丈夫だろう。
なら、もし食べられない場合は、俺が衣緖菜のつけ麺を食べれば問題はない。
理由は花音さんたちに説明するとして。
「それでは、いただきます」
「いただきます」
ここではこんな感じで、皆でいただきますを言うんだな。
そう思いつつ麺を箸でつまんで汁に浸し、そして口へ。
まず感じるのは、つけ汁の甘さ。
ただ砂糖で甘いとは違う気がするけれど、感覚的には甘いとしか言えない。
勿論それだけでなく、酸味や塩味、更には旨味としか俺には表現できない味を感じる。
麺もカップ麺とは全然違う。
ラーメンとしてはかなり太めで、それなりのコシと麺としての存在感を感じる。
これが汁とあわさって、とんでもなく美味しい。
食べながら横目で衣緖菜のようすを見てみる。
衣緖菜はチャーハンの方ではなく、まずはつけ麺に挑戦する様だ。
1本だけ麺を箸で取って、汁をくぐらせて口に運ぶ。
そして少し考えてから、次は麺をがばっと箸でつまんで汁に入れ、思い切り食べて頷いた。
うん、問題なさそうだ。
ということで、俺は汁の中に入った肉の塊を口へ。
勿論美味しい。
「美味しい。こんな店で出るようなちゃんとした味のラーメンも、自分で作れるんだ」
「レシピは、ネットにあったものを少しだけ自分流にしたものです。具体的には『東池袋大勝軒 もりそば レシピ 簡単』で出た汁のレシピと、『つけ麺 製麺 レシピ』で出た麺のレシピ。豚も煮卵もやっぱりネットで見たレシピを使っています。材料も分量まで出ていますから、真似するだけですね」
いや、それでも難しいと思うのだ。
俺は前に香取やメイに聞いて、知っている。
「でも寮の自室にあるキッチンは狭くて使えないって聞いたけれど。それでもここまでのが作れるんだ」
「カナ姉は、混ぜたり切ったり熱を通したりが魔法で思い通りに出来るから。ネットなんかの情報も高速取り込みが出来るし。だから言ったじゃない。学校の食堂で食べるより、カナ姉に作って貰った方が美味しいって」
『確かにこれは美味しい』
衣緖菜が声でなく魔法で言っているのは、思い切り麺をかっ込んでいるからだ。
あ、でも、つけ麺が美味しいならチャーハンも、きっと。
卵や焼豚、ネギが具材のやや茶色いチャーハンを口に運ぶ。
うん、間違いなく美味しい。
米がパラパラなんだけれど堅すぎず、脂っぽすぎることもなく、味も塩胡椒と他に何かわからないけれど、ちょうどいい。
「確かにこれは、学校の昼食が食べられなくなっても仕方ないな」
「でしょ。朝食と夕食は寮で出るのを食べなきゃだから、昼だけなんだよね、自由に選べるのは。でも今まではみんなで食べる場所がなかったから、仕方なく学食で美味しくないの食べてたんだよ。だから部屋を確保出来ると思ったとき、まっさきにここでお昼を食べるのを思いついたんだ」
なるほど、理解した。




