99 新たな情報
翌日の17日水曜日の放課後。
紅茶やデザートは皿に入れた状態で、衣緖菜が魔法収納している。
今回のデザートは冷凍ティラミス。
これは業務用スーパーで特売になっていたから。
活動説明の紙も全員分用意した。
今まで書いた『バナジードで使われていた魔法一覧(作成中)』や『バナジード軍内における生活、勤務関係等資料』は、全員分印刷すると大変だ。
だからPDF化してUSBメモリに入れ、授業用タブレットで見ることが出来る様にしてある。
ただ合計7人となると、活動内容をもう少し考え直す必要があるかもしれない。
全員がここをメインの活動にするのかは、まだわからないけれど。
他に活動している部活動があるかもしれないし。
今日は衣緖菜もいつもとは違う、ちょっとそわそわした感じだ。
テーブルの位置を微調整したりとか、窓を開けてカーテンをまとめ直したりとか、落ち着かない動きをしている。
室内のレイアウトは、教室と同じ形の机を2個向かい合わせにして、横方向に5組並べた形。
片側5人ずつ、合計10人で座れる配置だ。
これは今日来る予定の5人分と、俺と衣緖菜とメイの分。
この細長い部屋で誰も後ろ向きにならない様に配置すると、どうしてもこうなってしまう。
なおメイは『こっちは基本的に人数あわせの幽霊部員だから、計算に入れないでおいて』と言っていた。
だから7人分あれば足りるとは思うけれど、一応ということで。
時計の長針が動き、15時27分を示した。
そろそろかなと思ったところで、魔力に気づく。
ひとつではなく、4人、いや5人が近づいているのがわかる。
それぞれ違うけれど、よく似た魔力だ。
厳密には3人がよく似た魔力で、2人が少し違う感じだな。
うち1人、魔力がよく似た3人の中で一番強い魔力には覚えがある。
昨日来た、愛美さんだ。
衣緖菜が清掃魔法と換気魔法を発動した。
もう充分部屋は綺麗だし、空気も問題ないと思うのだけれど。
そして魔力が扉の向こう側で止まった。
そしてトントントンと軽いノック。
「どうぞ」
俺がそう返答すると同時に、ドアノブが軽く回り、扉が少し外側に向けて開く。
これは衣緖菜の魔法だ。
入ってきたのは5人。
高等部のバッジが2人で、中等部のバッジが3人。
「どうぞ」
衣緖菜のことばとともに、廊下側の2脚以外の椅子が50センチくらい後ろへと下がる。
これも衣緖菜の魔法だ。
「ありがとう。それでは失礼します」
愛美さんがそう言って衣緖菜の横に、そして残り4人は俺たちと反対側に腰掛けた。
向かい側は窓側から順に、大きい順という感じだ。
髪型はそれぞれ短めだったり長かったり違っている。
しかし顔は4人ともそっくりだし、髪そのものも同じ質という感じ。
年齢分、身体の大きさが異なるくらいの違いだ。
確かにクローンっぽい技術、いや魔法で作られたと言われると納得出来る。
そして一番窓側、俺の前に座った高等部のバッジをつけた女子が、こちらに軽く頭を下げて口を開いた。
「わざわざ用意、ありがとうございます。では早速ですけれど、こちらが持っている情報を伝達しましょうか。衣緖菜さんも気になっているでしょうから。愛美もそれでいいですか?」
情報の伝達が自己紹介も兼ねるということだろう。
なおこの人、口調は愛美さんと似ている。
しかし声は少し低くてかすれ気味で、愛美さんと異なっている様だ。
「ええ、お願いします」
愛美さんは俺から見て、衣緖菜を挟んだ向こう側。
だから直接見えないけれど、頷いた気配を感じた。
そして正面の彼女も、軽く頷く。
「それではお二人に、私たちについてと私たちの持っている情報を伝送します。なおこれは私たちの知識全てではなく、私が編集した情報です。ですのでより詳しく知りたい部分がありましたら、個別に教えていただければ善処します。では、送ります」
以前衣緖菜が発動した知識送信魔法と比べると、衝撃はずっと軽く、そして短い。
これは情報の量の多少の違いだろうか。
そう思ったところで、横から衣緖菜の声が聞こえた。
「衝撃が少ないし送信速度が速い」
「従来の知識送信魔法の改良版です。情報を一度言語化してから送信するので情報量が少ないですし、非言語的知識のすり合わせがない分、衝撃が少なくなっています。それでも私たちについてと、衣緖菜さんが探している方への手がかりになりそうな情報については、一通り網羅したつもりです」
確かに俺の知識にも、今までなかった情報が一通り入っている。
たとえば今、目の前で情報を送信した彼女は、2年2組の埴生花音さん。
万能型の魔法戦士を狙って生み出されたが、身体が弱かったので徴兵されず、農場の管理を任されていた。
今でも身体が弱いのはそのままで、常時回復魔法を使用している程らしい。
そのかわり魔力は大きいし、魔法もほぼ全分野にわたって使用可能。
この学校に前からいたという形で入ったのも、花音さんの魔法によるものだそうだ。
あとの3人は中等部で、中等部3年2組の埴生結菜さん、中等部2年1組の埴生美羽さん、中等部1年2組の埴生陽菜さん。
勿論、それぞれの情報も頭の中に入っている。
彼女たちの地球への脱出を援助してくれた人の情報もあった。
藤代花梨さんという女性で、年齢は『自称二十代』。
それ以上はわからないとのこと。
衣緖菜の部下の消息に直結する情報は、いまのところはないらしい。
ただ藤代さんを通じて、衣緖菜の部下たちを探せるかもしれないとのことだ。
敵と思われる対象についての情報もある。
ただ敵が地球でどういう形で活動しているかは、よくわからないらしい。
この辺りは、後に詳しく確認した方がいいだろう。
そう思ったところで、衣緖菜の声がした。
「ありがとう。それでは私と、探している部下の詳細情報を送る。私の情報送信魔法は従来のものなので、手をつないでもらっていい?」
「ええ。映像や魔力の形という情報は手がかりになりますから、従来の送信魔法の方がいいでしょう」
花音さんが右手を伸ばして、衣緖菜と机上で握手する形になる。
その腕が他の4人と比べて妙に青白く、そして細く見えたのが、少し気になった。




