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俺が魔法を使えた頃  作者: 於田縫紀
第17話 訪問者

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98 帰り道にて

 ひととおり話したところで、下校時間になった。


「明日は、この学校にいる残り4人を連れてきます。あとそちらで探している3人についても、情報がないか聞いてみます」


「ありがとう。準備して待っている」


 愛美さんと部室を出て、鍵をかけ、寮に帰る愛美さんと別れて。

 校門を出て、いつもの道を駅の方へと向かう。

 さて、明日5人も来るなら、必要なことがある。


「業務用スーパーに寄って、冷凍スイーツを買っておこうか。あれなら8人でも問題なく食べられるし、数の割に安いし」


 買い物をしたいというのは本当だ。

 寄るのならついでに、ごまドレッシングを買い足したい。


 この前メイに教わった料理で衣緖菜がいちばんはまったのが、ごまドレッシングを使用した棒々鶏もどき。

 はまった理由は『簡単で美味しいから』。

 食材に魔法で熱を通して、ドレッシングをかけるだけ。

 味も悪くないというか、衣緖菜の好みらしい。


「しかし一気に5人増えるのか。これであと3人の部下についてもわかるといいけれどな」


 正直、あれこれ思うことはある。

 メイはここまで一気に部員が増えることを、予想していたのだろうか。

 もし予想していたのなら、衣緖菜以上の未来予知ということになるから、多分違うだろうけれど。


 あと愛美さんの言葉にも、ひっかかる部分があった。


『同時に脱出した私の姉妹にあたる子があと5人います。あと他の学校に入っている子も40人ほど』


 そのまま聞くと、姉妹関係が45人いる様にも取れる。

 もちろん実際は違うのだろう。

 同時に脱出した関係で、姉妹のように感じられるという意味だと思うけれど。

 でも気になるので、衣緖菜に聞いてみる。


「愛美さんの言葉だと、姉妹が45人いる様にもとれるけれど、あれは同時に脱出した仲間という程度の意味だよな、きっと」


「そういう意味も、あるかもしれない。でも基本的には、日本語で言う姉妹そのものの意味で使っている」


 どういう意味だろう、それは。


「明日、実際に会った時に驚かないように言っておく。向こうには、こちらの世界でいうところのクローンに近い方法論の魔法がある。戦争前から対魔王戦用に、そうやって魔法に秀でた人間を生み出して育てていた。だから遺伝子的には同一人物か、せいぜい兄弟姉妹レベル程度の違いしかない人間が何十人いるのも、不思議ではない」


 そんな魔法まで、異世界にはあるのか。

 SF系ならクローン兵士とか、スターウォーズをはじめとしておなじみだけれど。

 倫理的にどうとか考えたくなるけれど、きっとそれは意味のないことなのだろう。

 以前の衣緖菜の環境なんてのを考えると。


「ただ、ほぼ同一の遺伝子であっても、必ずしも能力が同じになる訳ではない。むしろ個人差が出るのが普通。この学校にいる中では、愛美が一番戦闘能力が高かった。だから私たちが敵ではないか、敵でなくても危険を招く恐れがないか、先行して確かめるために1人で来た」


 なるほど。

 そう考えれば、理解できる言葉がある。


『私または私とそっくりな者と戦った可能性があります。ですが今の私は、敵ではありません。まずはそのことを信じてください』


 メールで愛美さんがこう書いていたのは、そうやって同一の遺伝子を持つ別人と戦った可能性があるという意味だろう。

 しかしそうなると、似たような生まれ方をした者が、相当な数いる可能性が高い。

 クローンって、魔法であってもそんなに数多く作れるのだろうか。


 衣緖菜の説明は、更に続いている。


「サラステクスは魔道王国と名乗るほど、魔法本位の国。大陸で最も魔法が発達していると自負していた。そしてかつてアトラ世界には、人類社会に破滅をもたらす大魔王の出現が予言されていて、その予兆である魔界四騎士の第二騎士までが出現していた。だから各国ともに持てる技術で、大魔王に対する準備を進めていた。愛美と同じ設計図を持つ人間の量産もそのひとつ。そして多分、私や部下も同じ。全く同じではないけれど、似たような存在」


 なるほど。

 なら……


「衣緖菜や部下の年齢が戦闘員にしては低いのも、そういう理由か」


 衣緖菜は、頷いた。


「おそらくその通り。バナジード側の情報はわからない。でもサラステクスはそう見ていた模様。少なくとも愛美の思考にはそうあった」


 先程も思ったけれど、やっぱりディストピアだ。

 物語と違うのは、実在したこと。

 気分が暗くなりそうな事実だ。


「今は気にしなくていい。私も愛美も、今はこの世界にいる。そして私は、この世界が楽しい」


 そう思ってくれるのならいいけれど。


「それより問題は、お菓子、何を買うか。私はクッキーやクラッカー、牛乳パックスイーツよりも冷凍大福系の方が好き。でも洋菓子系の方が紅茶にはあうかもしれない。あと5人増えるなら、カップと皿も追加して買っておきたい」


 うん、今はきっとそれでいいのだろう。


 ◇◇◇


 ただこの時、俺はディストピアに気を取られて、忘れていた。

 本当は他にも、気になったことがあったことに。


『あえて声に出して聞きます。その後は何かあるのは見えますけれど、それが何かはっきり見えません。それでも、このままでいいんですか? まだ選択肢はある筈です』


 愛美さんが言った、その言葉が何を意味するかを。


『理解はしたし尊重もします。でも私は、そちらと同意見です』


 そちらとは誰で、何を理解して尊重したのかを。

 俺は、忘れてしまったのだ。

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