95 まずはメール
16日火曜日、放課後。
俺と衣緖菜は、異世界魔法部の部室に直行。
風を通し、紅茶とクッキーを準備し、衣緖菜の魔法収納に入れて、いつでも出せるようにしておく。
カップや皿は、100円ショップで部室用に買ってきたもの。
ポットは、メイに借りたものそのままだ。
『自分用のは別にあるから、当分は貸しとく』
メイがそう言っていたので。
なお彼女は今日は部室に来ていない。
「私は基本的にそっちは幽霊部員で、都築と衣緖菜の友達として名前を貸しているだけだから。だから新人が来たとしても、対処は都築と衣緖菜でよろしく」
このメイの、幽霊部員で名前を貸しているだけという言い分は、言い訳だろうと思っている。
ただそんな言い訳をつけて部に顔を出さない理由が、俺にはわからない。
この異世界魔法部は、実質的にはメイが作ったようなものだ。
作ろうというのも、そもそもはメイの発案。
紹介用Webページはメイが作ったものだし、今やっている魔法や異世界についての資料作りという活動も、メイが考えたもの。
つまり今のところ異世界魔法部は、メイの意図通りに動いていると思っていい。
ただメイの意図が、俺からは見えない。
単に俺や衣緖菜の元部下捜しを手伝ってくれているだけではない気がする。
何かメイなりの、独自の意図というか目的があるように感じるのだ。
それが何かは、俺にはわからないのだけれど。
さて、それはそれとして、今日は何かある可能性が高い。
朝方、衣緖菜がこう言っていた。
「今日の放課後、来ないという結果が見えない」
ついでに言うと、課外活動紹介ページは昼休みには公開されていた。
香取や長柄と食堂で昼飯を食べているとき、そんな話も出たし。
香取は創作系ではない方の漫研を見に行くと言っていたし、長柄は軟式テニスかELCか、女子の質と数を見て考えると言っていたけれど。
だからこうやって準備をして、いつ来てもいい様に待っているわけだ。
俺がまとめた『バナジードで使われていた魔法一覧(作成中)』は系統別にまとめた上、魔法の現地名称の索引をつけてPDF化し、一部印字済み。
ただ完全版というわけではないので、持ち込んだノートパソコンで編集中。
衣緖菜と一部メイが作った『バナジード軍内における生活、勤務関係等資料』は、聖職者や軍隊の服装、装備、建築様式、任務がない時の生活など、衣緖菜が記憶していたあれこれをイラスト入りで記載したもの。
これはまだ作成中だし、索引も出来ていないけれど、なかなか強烈な代物だ。
いかにバナジードがとんでもない国だったのかが、よくわかる。
なおバナジードとは、以前の衣緖菜の記憶では●●●●●と伏せ字でしか思い出せなかった国名だ。
正式名称を日本語に翻訳すると、バナジード神聖王国という感じになる。
この国名については、ケイトさんから聞いた。
この国名を聞いても、衣緖菜に特に何か起こったりはしなかった。
『拠り所はもう、国や軍ではなくなっている。だから問題ない。ただ拠り所をなしにすると、また悪影響が出るかもしれない。だから拠り所はまだ陽翔のままにして欲しい』
なおケイトさんは、他に保護した対象者からその名前を知ったそうだ。
だからあの世界全体を『アトラ世界』と呼び、バナジード神聖王国の他、同じ大陸にサラステクス、フィルメディ、ロクモア、アルメディアという国があったという事を、今の衣緖菜や俺は知っている。
それ以上のアトラ世界の知識は、ケイトさんからは聞いていないけれど。
さて、来るならそろそろだろう。
そう思ったところで、俺のスマホとパソコンが振動した。
メール着信、アドレスはこの前作った異世界魔法部のものだ。
何だろう。
入部希望者か異世界関係者か、単なるSPAMメールか。
題は『確認事項です。部長が読んでください』とある。
差出人のアドレスは知らないGメールだ。
ウィルス入りなんてことはないよな。
そう思いつつ、念のため自動実行なしテキストのみモードで開いてみる。
『課外活動の紹介を読みました。大変興味深い内容でしたので、出来れば直接お話を聞ければと思ったのですが、どこかの国や危険な勢力の出先機関という可能性がどうしても捨てきれずにいます。魔法で安全を確認しようとしても、そこの部員のもう1人の方の魔法とコンフリクトを起こしてしまい、判断が出来ない状態です。
ですので未来視や判断補助、思考変曲といった魔法を持たず、私の魔法とコンフリクトを起こさないだろう、貴方に質問して、その反応で安全かを確かめたいと思います。なお『安全確認のため、もう1人の方の関与を極力排して、貴方に質問する』件については、もう1人の方の了解を取っていただいて結構です。何ならメールのこの部分に関しては、読んでいただいても構いません。ただ以降の質問と回答は、貴方だけが読んで、判断して、回答して、送信してください。
回答の準備が出来たら、一言でいいですので、このメールに返信してください。私の方から質問を送ります』
なるほど、用心するのは理解できる。
ということで、衣緖菜に聞いてみる。
「衣緖菜、メールが来たんだが、見て貰っていいか?」
「魔法的に理解した。おそらく私は見ない方がいい。全て陽翔の判断でやって。結果は見えないけれど、多分それが正解」
どうやら衣緖菜は、メールを読まなくても状況を把握している様だ。
ならということで、俺はメールの返信ボタンを押し、『こちらは了解しました。質問を送ってください』とだけ書いて、送信する。




