94 気のせいかもしれない
「でもこの魔法で作る手順、これってメイが考えたんだろ。それって結構大変だったんじゃないか?」
普通の地球人は、魔法なんて使えない。
俺は衣緖菜に教わって、ある程度魔法を使える様にはなったけれど、それでも魔力が大きくないから、熱関係の魔法は多用出来ない。
自転車を動かすよりも、ヤカンの中のお湯を沸騰させる方が魔力を必要とするのだ。
感覚的には逆の感じがするけれども、実際に魔法を使うとわかる。
メイも俺と同様、衣緖菜の魔法の知識がある。
そして俺が使っている魔力車のような、魔力を上げる訓練道具があるわけではない。
だから魔力的には俺より下だろうと思うのだ。
実際にも魔力をほとんど感じないし。
「そうでもないよ。さっき言った通り、基本はうちの母の手抜き&時短料理と同じ方法だから。基本的には電子レンジを使う部分を魔法にしただけ。
それより気になるのは来週の話。16日火曜日、学校のWebページで課外活動一覧を更新するよね。それで何か反応があるか、衣緖菜の魔法で見える?」
確かに課外活動一覧のページが更新されれば、生徒用のWebページからこの前作った紹介ページを見ることができる様になる。
これらのページは、キーワードで検索も出来る。
だから学内にあの世界の関係者がいて、あのページにある言葉を検索すれば、俺たちの課外活動に興味を持ってくれるかもしれない。
しかしうちの学校の生徒数、そしてその中に異世界出身者がいる可能性を考えると……
あまり期待できないように感じる。
むしろインターネットで広く探している方が期待できる気がするのだ。
なんて思ったところで……
「わからない」
来ないという意味にとって、すぐに思い直す。
来ないなら、来ないとか反応がないと返すだろうと気づいたからだ。
つまりこれは……
「何か近未来予知を妨害するような、何かがあるのか?」
「多分、妨害ではない」
そう衣緖菜は言って、頭の中で出す言葉をまとめるかのように一呼吸置いた後。
「理由はおそらく、私と同じような魔法を持っている誰かの存在。お互い未来が見える毎に行動判断を変える結果、選択肢が複雑になりすぎて読めない」
と、いうことはだ。
「課外活動一覧を読むことが出来て、近未来予知魔法に準じる魔法を使える誰かが関わる可能性が高い。そういうことか」
「あくまで推測。可能性という意味では、その通り」
「そして準備をしておいた方がいい、ということだね」
そう言ってメイは、にやりと笑う。
「それじゃ食べ終わったら、資料作成に取りかかるよ。とりあえず都築は魔法についての資料作成。16日までに完成させる必要はない。活動としてこういうものを作っていると、来た誰かに説明できる程度に作ってあれば充分。
私と衣緖菜は魔法以外、向こうがどんな世界だったかについての資料をざっと作るから。記憶が限定されているから、こっちはそれほど時間はかからないと思う」
メイも昨年7月時点での衣緖菜の記憶を持っている。
だから俺がわかる程度のことは、ひととおりわかる筈だ。
◇◇◇
そんな訳で、昼食後は資料作りの作業となる。
俺は衣緖菜の知識にある魔法を、衣緖菜の知識の通りの分類で、日本語にしてパソコンに打ち込む作業。
どういう形で整理するか。
少しだけ考えたが、とりあえずは先にある程度データを集積してから考えることにした。
とりあえずワークシートに、 分類、向こうでの魔法の名称、日本語に訳した名称、効果、使用魔力の多さ、使用する際のイメージという項目を作って、片っ端から打ち込む。
例えば自転車を動かすのに使っていた魔法の場合、こんな感じだ。
『力、モツス、加力、対象物に力を加えて動かす、2(少ない)、対象物が動いているイメージを強く意識する』
使用魔力は本当は、もっと具体的な数値で書ければわかりやすいのだろう。
しかし残念ながらMPなんて値はないし、そもそもステータス閲覧なんて便利な魔法はない。
ついでに言うと加力魔法の場合、対象物との距離や与える力の大小で大きく魔力が変わってしまう。
なので、効果に対してどれくらい魔力を使用するかについて、あくまで俺の感覚を基準に5段階で記載している。
5(非常に多い)、4(多い)、3(普通)、2(少ない)、1(ほとんど使わない)という感じで。
ちなみに温度調節魔法が3の普通で、近未来予知魔法が4の多い、転移魔法が5の非常に多いだ。
俺自身はまだ、4以上の魔法は使えないけれど。
衣緖菜とメイの方は、文字を衣緖菜が、イラストや図をメイが担当してやっている模様。
テーブルの向かい側でノートパソコンを並べて作業しているから、俺からは画面が見えないけれど。
とりあえず俺が使える使えないは別として、知識にあるものをざっと20種類ほど入力したところで。
「そろそろ都築の作業が一段落したみたいだし、こっちも一区切りついたから休憩するよ。ということで次は、学校の部室でお茶を入れる練習。そう言ってもたいした事ではないけれどね。
ということで、紅茶を入れるのに適当なカップ、部室で飲むからティーカップじゃなくてマグカップでいいから、衣緖菜の分とあわせて2つ用意。私は自分の持ってきているから」
そう言って、メイは立ち上がる。
「カップ2つでいいんだな」
「そう。あと適当なお皿を借りるよ。あ、あと衣緖菜、私の荷物の中からティーポットとカップ、あとさっき買ったティーパックとクッキーを出して。あと都築、お茶の時間は場所交代。都築の作業を見てみたいから」
「わかった」
一分後。
水の入ったティーポット、空のカップ3つ、お皿と上に載せたクッキーが、テーブルの中央付近に並ぶ。
「入れ方は簡単。今回は800cc、このポット目一杯分の水が入っている。これを衣緖菜、魔法で沸騰させて」
沸騰させて、200ccにティーパック1個ということで今回は4個ティーパックを入れ、2分ほどおいてティーパックを取り出して。
『今日は気温高めだし、冷やして飲んだ方がいいでしょ。ということで衣緖菜、4℃まで冷やして』とした後、各自のカップに入れて。
お皿の上に置いたクッキーも、魔法で温めて。
「お茶とクッキーは、これでそれなりに美味しく食べられるでしょ。ということで、都築の作業を確認……そっか、確かにワープロより表計算ソフトの方が、後々変形や整形の時に便利だよね。この辺は私より都築の方がセンスがいいな。私だとワープロソフトかエディタで打つから」
「でもメイの方が出来る事が多いし、発想だって上だろう。俺は料理なんて全然出来ないしさ。それに魔法部の具体的な活動内容なんてのも、メイに言われるまで思いつかなかったし」
「魔法部の方は、昔書こうとした小説の設定。上手く書けなくてボツにしたけれど。活動内容も、あの時作った設定そのままだったりする」
メイは中学時代も文芸部、読む方ではなく実作の方だったしな。
何となく納得したついでに、聞いてみる。
「参考まで、どんな話になる予定だったんだ?」
「現代が舞台で、ひとりぼっちの魔法使いが仲間を求めて学校に魔法部を作るお話。最初の部分しか書けなくて没にしたけれど」
今のメイの表情と言葉に、いつもと違う何かを感じた気がした。
それが何なのか。聞いていいことなのか。
そもそも何もなくて、ただ俺の勘違いなのか。
わからなかったので、俺は何も聞けずに、確かめられなかったけれど。




