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俺が魔法を使えた頃  作者: 於田縫紀
第16話 俺は確かめられなかった

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93 魔法仕様の手抜き見本料理

 みりん風調味料なら、まだなんとなくわかる。

 でもこの中華っぽい缶は……


「何に使うんだ、このいかにも中華っぽいのは?」


「何でも中華料理店っぽい味になる万能調味料。ただ味が濃くなりやすいから、使うときは注意。あとこれも」


 そう言ってメイが入れたのは、すりおろし生姜。

 これはケイトさんのレシピでも、使っていたな。


「そばつゆにといて、生姜焼き用か?」


「それも正解。鍋やスープにも使えるけれど、衣緖菜が汁系苦手だから、今日はソースに辛味と風味をつける用途」


 そんな感じで購入したのは、鶏むね肉冷凍2kg、鶏唐揚げ1kg冷凍、みりん風調味料2L紙パック、ごまドレッシング1L、シュレッドチーズ400g、生姜チューブ、中華風缶入り調味料、シチューのルー、紅茶のパック、安いクッキー。

 確かにカートを使って良かったと思う。

 カートからレジ台に乗せる時、かなり重かったから。


 さて、お値段は……


「4,752円です」


 結構かかった。

 まあ肉だけで3kg買っているから仕方ない。

 そう俺は思うのだけど。


「うーむ、結構厳しいかな」


 メイはそんな事を言う。


「ならドレッシングとか中華調味料とか生姜チューブとかは、無しでもよかったんじゃないか? あとシチューは汁物だから、衣緖菜は多分食べないぞ」


「今回買った調味料があると、初心者でも料理が簡単になるし、味が決めやすいんだよ。砂糖や塩、醤油を使うよりも。特に塩や醤油は味が濃いから、ちょっと入れすぎるだけでも味が致命傷になるし。あとは野菜くらいかな、買えるのは。あと汁物も苦手で避けるだけじゃ進歩がないじゃない。だから今日作るのは、慣れるための初級編。まあ任せといて」


 うーむ、大丈夫だろうか。

 とりあえず全部をポリ袋で1回か2回包んで、俺のディパックに入れる。

 持ち上げてみると、ずしりと重い。

 重さのわかるものだけで6kg入っているから当然だ。


「その辺は店を出て、隙をみて収納でいいか」


「もちろん。その場合は衣緖菜のディパックを都築が持つこと」


「はいはい」


 そこから徒歩3分の、やはり学校帰りによく寄るスーパーに行って、袋入りタマネギとキャベツ1玉とニンジン、ジャガイモ、ゴボウ、トマトなど野菜あれこれを買って、ぎりぎり1,213円。


 これもまた、結構重いしかさばる。

 だから今度はディパックに入れるふりをしながら、キャベツとゴボウは魔法収納。

 学校から帰るのと同じ道で、家のマンションへメイと3人で帰宅。

 衣緖菜の魔法で手を含めてきれいにして、キッチンの奥、ガス側から俺、メイ、衣緖菜という順に並んで立って。


「それじゃまず、冷凍鶏肉の解凍から行くよ。都築、ボウルか何か大きめの入れ物ある?」


 ボウルか何か、大きめの入れ物か。

 ボウルはないし、洗面器では衛生的に宜しくない。

 となると……


「このフライパンくらいしか無いけれど」


「じゃ、そのフライパンでいい。ということで衣緖菜、鶏胸肉2kgの冷凍出して流しに置いて、袋の中身全体を4℃に出来る?」


「出来る。でも正確に4℃というのは難しい」


「だいたいでいいよ。水の体積が一番小さくなるのが3.98℃だから、水が膨張してドリップが出にくい様にそう指定しただけ。実際は冷凍した段階で4℃の時より10%くらい体積大きくなっている。だから大雑把に言って、水が冷たいなという程度の温度なら問題ない」


 やっぱり解凍は、衣緖菜の魔法を使うのか。

 でも普通の人は魔法なんて使わないから、魔法で解凍なんてすぐに思いつかない気がする。


 でもメイは去年の夏の時点での衣緖菜の記憶を持っているし、簡単な魔法は使える。

 なら衣緖菜の魔法で出来ることがわかっていても、不思議ではないのかもしれない。


「わかった。これで大丈夫?」


 ガチガチに凍り付いていた肉入りの袋が、一気に解凍される。

 でもこれって、結構汁が出てしまっている様な……


「その袋の端をはさみで切って、液体になっちゃっているのを出したら、肉を個別に汁が表面につかないように収納した後、そのフライパンに出して。本当はキッチンペーパーで水気を拭き取ってボウルに入れるんだけれど。フライパンに入れたら、今度は鶏肉全体を70℃で3分間。汁が出たら随時魔法で蒸発させて」


「わかった」


「あ、あと都築の作業があるから、ごまドレッシングと中華風調味料と生姜チューブ出しておいて。都築は大きいスプーンとティースプーン、お椀くらいの容器を用意……」


 ◇◇◇


 メイの指示通り、衣緖菜に魔法で加熱したり冷やしたりして貰って。

 途中で鶏肉と中華な調味料を入れてご飯を炊いて。

 今回の買い物の前から冷蔵庫にあったマヨネーズも使って。

 そのご飯も炊き終わった後に料理に使って、およそ1時間半で、これでもかという感じに料理ができあがった。


 具体的には、

  ○ バンバンジーもどき(ごまドレッシング)

  ○ 鶏卵野菜炒め(中華風缶入り調味料)

  ○ 鶏ステーキ(そばつゆ&みりん風調味料)

  ○ シンガポール風チキンライス(中華風缶入り調味料)

  ○ チキンドリア(シチューのルー&上にチーズふりかけて)

  ○ キンピラゴボウ(そばつゆ&&みりん風調味料)

  ○ ゴボウとニンジンのサラダ(ごまドレ)

  ○ コールスローサラダ(マヨネーズ&ごまドレ)

  ○ 甘辛の玉子焼き(そばつゆ&みりん風調味料)

  ○ 唐揚げ卵とじ(そばつゆ&みりん風調味料)

  ○ 蒸しチキン風サラダ中華風味付け(中華風缶入り調味料)

といったところだ。


「それじゃ味見を兼ねてお昼にしよ。チキンドリアと鶏卵野菜炒めとゴボウニンジンサラダでいいかな。都築、皿出して。料理を出す量は衣緖菜に任せた」


 ということで、お皿を出して、衣緖菜に1人分ずつ皿の上に出して貰って。

 テーブルの玄関側に俺と衣緖菜、反対側にメイがすわって。


「とりあえず日本の食事のルールとして、これは言っておこう。『いただきます』」


 メイがそう言うので、俺と衣緖菜も続けて『いただきます』と言って。

 そして食べてみると……


「美味しいな、これは」

 

 もちろん味にうるさい奴に言わせれば、酷い評価になるのだろう。

 それでも俺の舌には、美味しいと感じる。

 特に鶏卵野菜炒め中華風っぽい味が、家庭料理と言うより店っぽい。

 まともな家庭料理って、よく考えれば食べた覚えがないけれど。


「この程度の調味料とあんな調理で、こんな料理が作れるんだな」


 調味料は買ったもの&マヨネーズ程度だし、作り方も衣緖菜の魔法を前提にした簡便な方法だ。

 加熱して、切って、調味料を混ぜて、更に加熱するなり冷やすなり、出た水気を蒸発させるなりするだけ。

 ガスも電子レンジも使っていない。

 魔法で加熱なんてのも、一番長いのが冷凍鶏肉を下ごしらえとして加熱した3分少々だ。


「今回のは、鶏肉は最低限これだけ加熱すればOKという目安と、どの調味料でどんな味になるかの見本。衣緖菜の魔法前提のなんちゃって料理だし、具材に味が染みていない。でもそう悪い味じゃないし、自炊のバリエーションは増えたよね」


 メイが言いたいことはわかる。


「あとは好みにあわせて、使う調味料を調整すればいいわけか。味を染みさせたいなら、先につけ込むとかして」


「都築は理解が早くて好きだよ。要はそーゆーこと。それに今日使った調味料は、中華風缶入り調味料以外は多少量を間違えてもそんなに味が致命的にならないから。塩や醤油と違って。中華風缶入り調味料だけは、ちょっとだけで味が濃くなって危険だけれど、都筑なら今日使った分量はだいたい覚えたでしょ」


 好きだよなんて言葉に一瞬意識が引きずられそうになる。

 けれどメイは意識して言ったわけではないだろう。

 だから俺は、いつもと同じ表情を意識して、今のメイの言葉にあった俺らしい返答を口にする。


「なるほど。その辺も考えた訳か」


「結果論だけれどね。うちの母もこんな感じで手抜き料理をしてるから、それで覚えたってところ。魔法は使えないから、電子レンジを多用するんだけれど。電子レンジだと水分か結構出るから、小麦粉を振っておいて水分吸収させたりするんだけれどさ。あとそのチキンドリアは、汁物克服の第一弾。どう衣緖菜、食べられそう?」


 衣緖菜は一口食べて、頷いた。


「美味しい。でもこれは汁物ではないと思う」


「白い部分がとろっとしているでしょ。これで大丈夫なら、次は小麦粉炒めて加えたハード気味のクリームシチューに挑戦してみて、それでも大丈夫なら今度は普通のクリームシチューに挑戦って感じで」


「わかった。今度、試してみる」


 衣緖菜は再び頷いた。



※ 自分で料理をするし、上の調味料や調理方法に一言二言ある方へ

 「ああ、あとごま油を!」とか、「そこは生姜チューブじゃなくニンニクチューブ!」とか、ご意見はあると思います。 

 書いている私自身、「ここでこれを足したら、ずっと美味しくなるのに……」という部分がかなりありますから。

 そして実はメイさんは、ちゃんとした料理も作れます。今回はあくまで、『簡単&出来るだけ調味料の味がわかるように作る』レシピです。なので塩、醤油、味噌、豆板醤などはパージされている上、一つの料理に使う調味料や香辛料も最小限にしたレシピとなっています。

 自宅で美味しい家庭料理を作るときは、参考にしないでください。まあ魔法加熱の時点で真似は出来ないのですけれど。


 あと中華風缶入り調味料は、『味覇』派と『創味シャンタン』派、それ以外のニッチ派がいると思いますが、今回は安売りの『味覇』というイメージです。昔から使っていた人は、『創味シャンタン』派が多いと思いますが、今回は買いやすい&安売りしがちな方ということで、お許しを……

(↑が何のことかわからない人は、wikipediaの『味覇』で『歴史』欄を読んでみてください)


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