86 それでも言わなかったこと
話しながら歩いていけば、家のあるマンションなんて割とすぐに到着だ。
「駅からずいぶん近いんだね。入口はオートロック?」
「そう。暗証番号方式」
これは衣緖菜が答えて、そして中へ。
エレベーターで4階にあがり、玄関から中へ。
「物が少ない部屋だね」
入ってすぐの部屋、LDK10畳には、キッチンの他は4人掛けダイニングテーブルしかない。
「家具は最小限しか揃えていないからさ」
「まあ収納は衣緖菜がいれば問題ないよね。もうちょっと彩りがあった方がいいと思うけれど。可愛いカーテンとか。というのはともかく、お邪魔するね」
「ああ、ここくらいしか話を出来る部屋が無いしさ」
俺の部屋を見る、なんて言われなくて幸いだ。
なんてことを思いつつ返答。
あとメイが衣緖菜の魔法収納を知っているのは、もう気にしない。
未来予知の魔法について話しているのなら、収納についても話しているだろうから。
「それじゃ失礼してと」
俺、俺の右横に衣緖菜、そして俺に向かい合う場所にメイという形で腰かけて。
衣緖菜が収納していたコップを3つ出して、いつもの柑橘ジュースを入れたところで。
「ありがとう。さて、それじゃ種明かしをしようか」
メイがそんなことを言った。
「種明かしって、何だ?」
わからないので、ストレートに聞いてみる。
「私が衣緖菜に、どこまでの事を聞いているかについて。実は都筑が知っている事については、ほぼ全て聞いていたりするんだな。衣緖菜がここへ来た経緯から、何故都筑を選んだのかとか、向こうやここでどんな生活をしているのかも。もっと具体的に言うと、夜の生活まで、全部」
えっ!?
夜の生活とわざわざ言ったのは、つまり俺と衣緖菜がほぼ毎日致していることまで、多分きっと……
「都筑は特に構えなくてもいいよ。そりゃ私も15歳、思春期真っ盛りの乙女だから、わーきゃー言いたくなるなんてのもあるけどね。状況も必要性も理解してるから、都筑を糾弾しようとか変な目で見ざるを得ないとか、そんなことはない。衣緖菜の当時の状況を考えれば、むしろGood job!ってところだね。思春期な性本能に多少は引き摺られたところがあるとしても」
うわあ……そこまで言うか、メイ。
こういう場合、俺はどう反応すればいいのだろうか。
表情すら困ってしまう。
もし一言、言えるとすれば……
「何というかメイ、容赦ないな」
「私が知っているという事について、都筑に隠しておくのはフェアじゃないから。まあまだ、衣緖菜に話しているけれど都筑に言わないでいることはあるけれどね。これでも15歳、花の乙女なんだから、その辺は目を瞑って貰うこととして」
なるほど。
「訂正、容赦ないじゃなくて、相変わらずだな。あと普通は花の乙女なんて表現、当事者は使わないだろ」
そう、フェアじゃないという言い分は、間違いなくメイらしい。
そしてきっとメイは、知っていることを言わないよりも言った方が後々問題ないだろうと判断したのだろう。
そして言うのなら、今のタイミングがベストだろうと判断したから口にした。
そういった配慮と若干の厳しさは、やっぱりメイだ。
◇◇◇
メイはその後の飽多の、主に文芸部のこととクラスのことを話して。
そしてこっちの生活事情、最寄りの図書館の本の充実具合やスーパーの品揃え、その他この付近で使えるお店とか、電車で気軽に行ける範囲で一番品揃えが充実した本屋の場所なんてのを聞いて。
「それじゃ、入校したら入り浸るから、よろしく!」
そう言い残して帰って行った。
メイの奴、完全に合格してここへ来る気、満々だな。
そう思ったけれど、衣緖菜の近未来予知では3人とも合格すると見えているようだし、俺も落ちるとは思っていない。
だから話しながらネットで確認してわかった滑り止め高の合格も、特に手続き等はしなかった。
中学校の先生からは、あれこれ言われたけれど。
2日後、予想通り私立文理教養学園竹出高校に合格していて。
こっちはすぐに手続きをして。
そして俺達は無事、4月を迎えた。




