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俺が魔法を使えた頃  作者: 於田縫紀
第13話 新天地へ(第1章エピローグ)

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81 この町での最後の日

 中学校から駅までは町というか、家がある場所を通る。

 だから魔法併用の自転車でもそう無茶な速度で走れない。


 それでもただ自転車を漕ぐよりはよっぽど速いようで、18時31分発の快速に間に合った。

 なお乗ってきた自転車は、衣緖菜の魔法収納ではなく自転車置き場に止めた。


『明日の朝は電車と自転車で学校に行った方が速い。帰りは道の駅まで車で迎えに行くから、そこで自転車も回収』

 とのことだ。


 19時1分に飽多駅に到着。駅からホテルまで歩いてすぐというか、目の前。

 ケイトさんは部屋にもう帰っていた。


「とりあえず面倒な部分は終わった。あとはお役所相手だから、そんなに予想外のことは起きないだろう。ただ家庭裁判所の審判で許可が出るまで、やっぱり1カ月くらいはかかりそうだ。だから正規に養子として届け出て、転校が決まるのは8月頃だな。9月の新学期には十分に間に合うだろう」


「ありがとうございます」


 とりあえず脱出は成功しそうだ。

 これは間違いなくケイトさんと、衣緖菜のおかげ。


「強いて言えば家庭裁判所の審判がどれくらいかかるか。それなりに材料を揃えたから、予想外なんてのはないと思うけれどさ。さらに緊急の場合は児相に虐待扱いで動いてもらう手もある。しかし今回はそこまでする必要はないだろう。

 ということで、言い訳は一通り作った。だから明日に引っ越しても問題はない。住所や戸籍、転校手続きはもう少しだけかかるけれどさ。

 それじゃ飯を食いに行くぞ。今回はホテルメニューじゃなく、近くのファミレスだ。普通のちょっといい食べ物屋だと、この時間は酒がメインになるからさ」


 そう言って入ったのは、ホテルの隣の商業ビル地下1階にある、全国チェーンのお安いイタリアンレストラン。

 ただ入るのは、実は初めてだ。


「最初は私がまとめて頼むぞ。誰がどれというんじゃなく、テーブル上の好きな料理を自分の皿に取って食べるという形で。足りなければガンガン追加注文してくれ」


 そう言ってケイトさんがメニューを見ながら、スマホを操作していく。


「アロスティチーニWサイズ、若鶏のディアボラ風、ビーフステーキ、ミックスグリル、小エビのサラダ、ほうれん草のソテー、野菜ときのこのピザ……」


 肉やサラダだけでなく、ピザもドリアもスパゲティも、さらにはデザートも注文していく。

 ガンガン追加注文してくれと言っていたけれど、もうこれで目いっぱいなのではないだろうか。


 さらにドリンクバーを各自取ってきたところで。


「それじゃ今日は陽翔(はると)君の飽多脱出祝いということで、まずは乾杯!」


 衣緖菜、ケイトさんとグラスを軽くぶつけて、とりあえず入っている野菜ミックスジュースを半分ほど飲んで思う。

 そうか、これで飽多を、そして母親が離婚してからの転落生活を脱出するのかと。

 厳密には学校は明日まで行くし、戸籍上は来月くらいまで今のままではあるけれど。


 これからの日々が、薔薇色の人生かどうかはわからない。

 でも今までよりはよっぽどましだろう。


 中学は向こうでも公立中だけれど、卒業まで半年も通わない。

 高校は通学出来る区域にそこそこいい公立もある。

 しかし今度引っ越す場所から歩いていける範囲に、創立は新しいけれど進学実績が全国トップレベルにいい共学の私立があって、衣緖菜と一緒にここを狙う予定だ。


 近くに本屋はない。

 でも図書館は歩ける範囲にあるし、欲しい本があれば電子書籍なら即座に取り寄せが出来るし、紙の本も通販で注文すればいいだけ。


 スマホはいわゆる格安携帯だけれど、正規に契約してもらえるし、家にパソコンも買ってくれるそうだ。

 パソコンはまあ、衣緖菜の近未来予知魔法で生活費を稼ぐためにも使うけれど。


 そう、前途洋々というか、いいことばかり待っているはずなのだ。

 それでも何か、忘れている気がする。

 何かやり残したことがあるような気がする。


 飽多には父が移住支援金目当てで引っ越してきただけ。

 しかも3カ月もいなかった。

 だから思い残すようなことはないはずだ。

 そう思っても、その『何か』の気配というか感覚が消えない。


 何がひっかかっているか、本腰を入れて考えてみようか。

 そう思った時だった。


「お待たせいたしました。ご注文の小エビのサラダ、ほうれん草のソテー、チーズフォッカチオ、ミラノ風ドリア……」


 店員さんがテーブルの上に皿を置き始めた。

 あわててドリンクのカップを端に避難させるが、点数が多い。


「しまったな。3人いるからちょっとくらい多くてもいいやって、つい頼みすぎてしまった」


 肉系統の料理はまだ来ていない。

 それでもテーブル上はかなり埋まっている。


「整理すれば、この後にくる料理もなんとか置けるはずだ。デザート類は後で持ってくるを選んだから、それさえ置ければ多分大丈夫」


 3人でテーブル上の整理をはじめる。

 割と端の方まで使って、とりあえず並べたところで。


「お待たせしました。ビーフステーキ、若鶏の……」


 肉系の4皿で、テーブルはめいっぱい状態。


「仕方ない。こうなったら食べて片付けるまでだ」


「でもこれだけ料理が多いと、楽しい」


 確かに衣緖菜の言う通りだなと思う。

 バイキングを自分のテーブルでやっているようなものだし。


 この騒ぎで、俺はつい忘れてしまったのだ。

 何がひっかかっているか、考えようとしたことを。


 ◇◇◇


 そして1時間半後。

 間違いなく食べ過ぎたと思いつつ、すぐ隣のホテルに戻って。

 一度部屋に戻った後、折角だからということで大浴場に入りに行って、サービスの湯上りアイスを食べ、さらにこれも無料だというのでつい夜鳴きそばなんてのまで食べて、轟沈状態。

 それでも魔力車を回す訓練だけはやって、やっぱり衣緖菜と同じベッドで就寝。


 翌朝は朝食を開始直後の朝6時15分に食べて、バイキング形式だったのでちょっと食べ過ぎたのはお約束。

 衣緖菜やケイトさんと別れて、ホテルを7時ちょうどに出て、飽多駅7時27分の電車に乗った。

 最寄駅には8時ちょうどに到着。中学校までは、昨日止めておいた自転車でダッシュ。


「学校に連絡は入れた。だから多少遅刻しても大丈夫だ」


 そうケイトさんには言われているけれど、実は試したいことがある。

 衣緖菜が昨日、こう言っていたのだ。


「もう陽翔もそこそこ魔力を身に着けた。自転車を動かす魔法くらいは使っても大丈夫」


 ということで、さっそく実験。

 確かに漕がなくても、思い通り自転車が加速する。

 しかも俺が漕ぐより速い。


 結果として、8時25分、朝の学活が終わる少し前に教室に到着。

 そのまま大掃除に突入し、さらに終業式、そして学活の時間で成績表配布だの夏休みの注意だの宿題配布だのをやって。


 転校のご挨拶なんてのもやらされた。

 危険人物がいるから引っ越し先は千葉県までしか言わなかったし、他も当たり障りのないあいさつ程度しか言わなかったけれど。


 そんな半ば機械的に流れていく感じで、この中学校での最後の日は終了。

 やはり何か忘れているような気がするけれど、それが何かはわからない。

 それにケイトさんと衣緖菜が待っている。

 だから俺は、学活が終了して解散になった後、自転車置き場に直行して、自転車に乗って道の駅を目指したのだった。

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