74 脱出
7月19日木曜日、朝。
もう二度と戻らないだろう家を出る。
この家に未練はない。
マイナス的な思いばかりで、いい思い出はほとんどないから。
強いて言えば、衣緖菜と暮らしたこの数日間は悪くなかった。
でもそれは、新天地でもっと思い出をつくりまくればいい。
それでもこの家を懐かしむ時が、いつか来るのだろうか。
それでも以前ほど嫌な感じがしないのは何故だろう。
すぐに気が付いた。
衣緖菜が来てから、両親と顔をあわせていないからだと。
つまりはそれだけ俺は、今の両親を嫌っていたということか。
でももう二度と顔を見ることはないだろう。
そうあって欲しい。
敷地を一度出るときに振り返って、あとはそのまま学校へと自転車を走らせる。
家を出て4分程度、最初の橋を渡ったところで、衣緖菜から魔法で連絡が入った。
『ケイトさんから、予定通り飛行機に乗ったというメールが来た。今のところ、飛行機が遅れるという情報はないそう』
今朝スマホを確認したときは、そんなメールは入っていなかったはずだ。
「気づかなかったな。俺が支度をしていた時か?」
『つい今。スマホをポケットに入れて、魔法で操作している。タッチ操作する時に、ただ押すのではなく、表面の電気というか電荷を吸い取るイメージを持たせれば動く。画面は遠くを見る魔法と同じ方法で見ることが出来るはず。今の陽翔ならきっと可能』
そんなことが出来るのか。
魔法についてはまだ、俺はほとんど訓練出来ていない。
今はまだ魔力量が少ないので、下手に魔法を使った場合は、魔力が足りなくなって意識を失う可能性がある。
寝ていい状態なら、そのまま時間経過とともに魔力が回復する。
けれど、そうでない場合は何かとまずい。
だから魔力量が十分になるまでは、寝る前の魔力循環による訓練以外はしない方がいい。
だから灯火魔法で、魔法が使えるかを確かめるくらいしかしていなかったのだけれど……
『その程度なら、今の陽翔の魔力なら問題ない。ただ念のため、3時間に1回、メールを確かめる程度にした方がいい。あと眠気を感じたら、すぐに操作を中止すること』
「わかった」
地味だけれど、かなり便利な魔法だ。
これならスマホをカバンの中に隠したまま、メールやSNSの確認が出来る。
学校に着いたら試してみよう。
一層機嫌よく自転車を走らせる。




