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俺が魔法を使えた頃  作者: 於田縫紀
第11話 早送りのスケジュール

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73/100

73 家を去るまでの日々

 17日火曜日と18日水曜日は、俺自身については特に変化はなかった。

 学校もいつもと変わらない。

 夏休みが近いから遊ぶ話とかは出ているけれど、俺には関係ない。


 メイとも特に変わった話はしていない。

 もともと教室では込み入った話はしないけれど、部活の時間もそうだ。

 ある程度はタブレットでchatするけれど、火曜日ほどあれこれ話はしていない。

 

 ただケイトさんのオンラインストレージ内の情報は、火曜日も水曜日も夜10時頃に更新されていた。

 火曜日は、元父と面談し、養子縁組の件や養育費不当利得返還請求の件で了承してもらったこととか。

 水曜日は、引っ越し先の住所や建物の間取り、引っ越し先の中学校の情報や、そこから狙う高校についてとか。

 新しい家の方は家財道具一式手配済みだし、布団なども用意しているから、服や私物だけ持ってくればいいとか。

 更には、木曜日に俺の養子縁組の件で話し合いに来る件について、うちの両親に約束を取り付けたとかも。


 あとは、水曜日の夕方、衣緖菜がこんなことを言っていた。


「今朝、この家にいる女にケイトさんが電話を入れた。明日10時半に話し合いに来ることと、何を話すかについて連絡済み。もう養育費を取れないばかりか返還訴訟も来るということで、女もこの家にいる男も相当頭にきている。魔法で陽翔に近づけないよう強制しているけれど、それがなければここに怒鳴り込んで来そうな感じ」


 考えてみれば、なんとも酷い話だ。

 俺の養育費なのに、俺にはほとんど回ってきていない。

 ここの中学校の制服や体操服すら、町のリサイクル制度か何かを使って、中古を無料で手に入れたのを渡されている状態だ。

 それが自分のものに出来ない。更には、嘘をついて余分に取った金を返還しろと言われて怒っているというのは、何なんだ。


 でも奴らは、これから報いを受けることになる。

 今の父に対しても返還訴訟の相手に指定すると、資料に書いてあったから。


 このど田舎で簡単に働き先が見つかると、俺には思えない。

 それに移住支援を受けるために、就職するとか農業をするとか起業するとか申請していたはずだ。

 生活保護を受けるのも難しいだろう。


 どうするか、どうなるかは、俺の知ったことではない。

 俺としては、出来る限り不幸になってしまえと思うだけだ。


 衣緖菜の説明は、更に続いている。


「今は今後について、2階で話し合っている。けれど、何も話が進んでいない。多分、何の対策も取れないと思う。ただ、話し合いせずに逃げれば何とかなるかもしれないと考えてもいる。だから話し合いを始めるまでこの家を出る気にならないよう、魔法で強制しておく」


 そりゃ、何も進まないだろう。

 ただ予想外の方法論が出たので、ちょっと一言。


「話し合いから逃げるという方法は、俺は思いつかなかったな。電話で、話し合いについては承諾したんだろ」


「自分が有利になるためなら、そういった約束事を反故にしても気にしない。そんな性格だというのは、陽翔も知っている通り。ただ、ケイトさんは、逃げることについても予想している。逃げても養子縁組が出来る方法も考えてあると、ケイトさんは書いていた。でもそれを使うと時間がかかるらしい。だから話し合いの場を作れるよう、2人を引き留めておくようにと、私に連絡が来た。

 話し合いの場さえ作れば、ケイトさんも精神操作魔法を使える。あと、養育費を貰うため、陽翔とあの男は養子縁組をしていない。だから、あの家にいる男は父親としての権利はない。母親とだけ話がまとまれば大丈夫。法律上の父親については、ケイトさんが東京で話をまとめている」


 なるほど。この家にいる母の結婚相手は、法律上では父ではないから、今回の件に関わる権利はないわけか。

 連れ子再婚で養子縁組をしない場合、再婚相手と子どもの間に法的な親子関係は生じず、扶養義務や相続権は発生しない。

 ただし、養子縁組しなくても、「子の氏の変更許可申立て」を家庭裁判所に行えば、名字を再婚相手と同じにできる。

 これが今の俺の状態だ。


「陽翔の持ち物は、今夜中に私の魔法収納に入れておく。自転車も、明日学校に行くのに使った後は、私が収納しておく。ケイトさんは飛行機とレンタカーを乗り継いで、朝9時半くらいに道の駅に来る。私はそこで合流予定」


 あの道の駅は、父が時間つぶしでいることが多い。

 だから俺は行ったことがないし、近寄らないようにしている。

 でも休憩スペースが完備しているらしいから、待つのにはちょうどいい場所だろう。


「それじゃ、明日に備えて荷物を整理しておくか」


「同意」


 荷物と言っても、そう多くはない。

 5月に引っ越した時には、俺の私物は全部あわせても、小さいダンボール1箱分なかったから。


 もともと持っていた本は、引っ越し前に古本屋に二束三文で売り飛ばされた。

 服も、私服は最小限しか持っていない。

 私服のズボンはチノパン1本だけだし、下着も替えとあわせて2組。

 靴下は白色の学校兼用2組、私服の上はTシャツ1枚、襟付き長袖シャツ1枚、冬用フード付きハーフコート1着という状態だから。

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