72 別の作戦?
昨日と同様に届いたアドレスをタップし、Chatルームに入る。
『おっと、きたきた。ということで、そろそろ真面目に小説を完成させた方がいいと思うよ。部活はあと3日しかないし』
おい待てメイ。
『どこまで知っているんだ? 衣緖菜から何か聞いているのか?』
反射的にそう打ち込んでしまう。
『衣緖菜さんからも、じきに連絡が来るとは思うけれどね。今のは単なる私の勘だよ。ということは、転校がほぼ決まったと思っていいのかな』
勘だったのか。
でもメイには話していいし、話しておいた方がいいだろう。
そう思ったので、正直に書いて送る。
『本決まりではないけれどさ。順調にいけば木曜日に親と縁を切って、金曜日の終業式の後に引っ越し』
『そっか。寂しくなるな』
その言葉で、俺は思い出した。
ついこの前、メイと図書館で話した時のことを。
『結局、メイがあの時言った通りになりそうだ』
それ以上は、俺としてはちょっと書きにくい。
『それでも1人ってのは、正直しんどい時があるんだよ。小学校の頃にはあと1人、出来るのがいたんだけど、中受して愛媛の方の寮がある進学校へ行っちゃったし。だから、津久井が転校してきてくれて、気分的に助かっているのは本当。こうやって、わからない部分を教われるなんてメリットを除いても』
『津久井は、余所から来た異物だけれどね。私は此処の異物なんだよ。だから、此処から逃げられない』
そんな言葉と、その言葉に含まれた絶望感を思い出してしまったから。
あの時は、まさか俺がここを脱出できるとは思っていなかった。
でもこうやって、ほぼ脱出が決まってしまうと、メイになにか申し訳ない気分になる。
俺が出来ることは、何もないのだけれど。
『はいはい、津久井は余分なことで悩まないの。私もこの学校に通うのは、のこり半年だし。その後はその後で、実はまた少し別の作戦を考えてもいるから』
別の作戦?
『シュウ高に行くんじゃないのか?』
『それも方法論のひとつだけれどね。また別の方法も思いついて両親に工作中。前にも言ったかもしれないけれど、うちの場合は両親ともに県外の大学出身だし、現状を知っているから。中学に入るときもやりあったし、実際中学の現状は両親より私の予想の方が当たっていたと、両親ともに認めているし。だからシュウ高に行く以外の作戦も、割と何とかなると思うよ』
親に何かを認めさせて、何をするのだろう。
この辺の高校の進学実績は、シュウ高がダントツで、二番手校、三番手校も公立。
だから狙うとすれば、シュウ高くらいしか思いつかないのだけれど。
もちろん、いい大学に行くのが全てというわけではない
けれどメイはそういった違う道を選びそうではないし。
『どんな作戦か、聞いてもいいか?』
『まだ駄目。それに津久井の場合は、まず小説を一本書いて提出すること』
まだ駄目か。
拒絶されるとは思わなかったけれど、なにか秘密にしたいことがあるのだろうか。
でも確かに、小説を提出しなきゃならないのは事実だ。
『この学校にいる間に書けなかった場合、メールでメイに送るのはありか』
『最悪の場合はありだけれど、一応はここで書く努力をした方がいいと思うよ。ここでしなければならないことが、他にないのなら』
確かにメイの言うとおりだ。
なら仕方ない。
『わかった。それじゃ何とか、明後日までに書いてみる』
『うむ、よろしい』
『はいはい』




