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俺が魔法を使えた頃  作者: 於田縫紀
第2話 彼女の記憶

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7 作戦

 男を従えて、私は隊員控室へ向かいつつ周囲を確認する。

 地区本部の中には、ほとんど人は残っていない。

 理由は、先ほど読んで得た知識でわかっている。

 ここ■■■ロメタ地区本部は敵に囲まれつつあり、最後の抵抗をするため、全部隊が出撃しているからだ。


 この男は、自分が逃げる時間稼ぎのために命令99を下そうとした。

 しかし、私たちが本部に残されていたのは、本来、最後まで残って情報を収集し、■■■本部へ送るためだったようだ。


 転移の御力は、軽いものほど遠くへ飛ばしやすい。

 敵の妨害魔法があっても、部隊で一番小さい533024なら■■■本部まで飛ばせる。


 一方で、重いものほど転移可能な距離は短くなる。

 重さが2倍なら、転移可能距離は4分の1。

 実際、この男は533024の5倍近い体重だろう。

 しかも敵の魔法による妨害があるから、実際はもっと短くなる。


 つまり、この地区本部もこの大主教も、■■■総本部に見捨てられたのだ。

 そもそも■■■■■■■そのものが、サラステクス魔道王国に攻め込まれて劣勢――というか、敗北寸前らしい。

 この大主教の知識が確かなら、の話だ。


 それが悲しいとか、あってはならないことだとは、私は思わないし思えない。

 私はもう、■■■■■■■も上位聖職者や神聖王も、そしてその教えも信じられない。

 先ほどこの男から読み取った知識や記憶のおかげで。

 指導層自らが信じても守ってもいない教えに、殉じる必要性はない。


 なら、この後私はどうするべきだろうか。

『■■■■■■■と■■■こそが己の拠りどころであり、絶対である』

 書き込まれたこの枷の下、ただ命令に従って行動し、余分な記憶を消された私に、代替となる価値観は存在しない。


 それでももはや、■■■■■■■のために戦うという気にはならない。

 そう思うと頭痛が激しくなるが、もはやこれは変えられない。


 かといって降伏しても、無事で済むとは思えない。

 ■■■■■■■■■■では、敵の捕虜は殺すのが正しいとされている。

 異教徒である罪を少しでも増やさないよう、早期に命を絶つことこそが慈悲であると。

 敵も似たような方針である可能性は高い。


 ただ、この男の記憶に使えそうなものがあった。

 この男、戦況が悪いと気づいた時点で、逃げ道を用意していたのだ。

 この大陸内の既知の国、■■■■■でもサラステクスでも、フィルメディでもアルメディアでもロクモア帝国でもない。

 この大陸どころか、この世界でもない、別の世界だ。


 この男の計画は、

  ① 命令99の準備をさせた後、私に近未来予知の御力で「大主教にとって、この別の世界で一番安楽に暮らせる場所の座標」を調べさせる。

  ② 命令99で、私たちの部隊の隊員を敵周辺に飛ばして自爆させ、敵が本部に侵攻するまでの時間を稼ぐ。

  ③ その稼いだ時間でできる限り転送神具の魔力をため、転移先の異世界で役立ちそうな貴金属や宝石類を可能な限り所持して、①で調べた座標へ、私の御力と転移装置で転移する。

 ――というものだった。


 私の御力で転移するというのは、この者が転移の御力を使えないからだ。

 位階が高い者は神に選ばれた存在で、位階が下の者よりすべての点で優れている。

 そういうお題目だったが、実情はこのとおり。

 単に世襲でその地位を引き継いだ愚か者にすぎなかったようだ。


 そしてこの愚か者は、①を命令した時点で私に疑念を持たれ、計画は失敗した。

 直属上司か中隊伝令を残して、私に命令を伝えさせていれば、このような事態にはならなかっただろうに。


 そう考えると救いようのない愚かさだが、逃げるためにはこの愚か者の計画を使うしかなさそうだ。

 もちろん自爆ではなく、別の世界へ転移する方を。


 自分用に計画した脱出先なのだから、そこまで酷い世界ではないと思いたい。

 愚か者の立てた計画だけに不安はある。

 しかし、守る気のない■■■■■■■に殉ずるよりはましだろう。


 ■■■■■■■に未練はない。

 そういったものが生じるような記憶や知識は、すべて消去されているからだ。


 ◇◇◇


 俺は転移御力や転移装置について、記憶を確認する。

 転移御力とは、要は離れた場所へ移動する魔法。


 そして転移装置とは、この転移御力の効果を10倍程度まで増幅するもの。

 できるのは効果の増幅だけで、転移御力を使えない人は、この転移装置があっても自分や他人を転移させることは不可能。

 つまり実質的には、転移補助・強化装置だ。


 大主教は、自分が逃げる時間を確保するため、彼女の部隊に自爆命令を下そうとした。

 しかし、命令の手順を間違えて反抗された。


 それにしても、この大主教というかこの国、なかなか酷い状態だったようだ。

 結果として大主教の記憶の一部を見てしまった俺は、そう感じずにはいられない。

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