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俺が魔法を使えた頃  作者: 於田縫紀
第2話 彼女の記憶

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8 決意

 

 ところでこの大主教が脱出しようとした『この大陸どころか、この世界でもない、別の世界』がここ、日本なのだろうか。

 あとは■■■■■■■■というように、認識できない部分がある理由も。


 おそらく今の場面からそう遠くない場面に、その答はあるような気がする。

 だから俺は更に、彼女の記憶を辿る。


 ◇◇◇


 頭痛は酷いが、何とか隊員控室前にたどりついた。

 御力認証の扉に手を触れて鍵を解除し、中へ。


 5人の部下がマットに横になっていた。

 寝ているのではなく、御力で休眠している。

 この大主教に起こされる前の私と同じだ。


 動き回れば食事や水が必要になるし、弾みで余分な知識を得てしまう可能性がある。 

 特に精神操作や転移といった御力を持つ情報・諜報隊員は、内部からも警戒されている。

 だから作戦行動以外の時間は、基本的に休眠させるのが基本だ。


 もちろん最小限の食事と水は必要となる。

 だから1日1回、規定食と呼ばれる草や雑穀が混じった粥を規定量飲み込むことが命じられている。


 読み取った知識がある状態で5人を見る。

 番号の上3桁は生年だから、何年生きているかはすぐわかる。

 この中では先任である5310037でも、私より2年若い13年。

 最も幼い5360012はまだ8年しか生きていない。


 情報・諜報隊に必要な転移御力と心理操作御力を使える者は数少ない。

 更に移動に必要な御力を考慮すると、小さく軽い方が圧倒的に有利。

 そして御力は、一般には男性より女性が使用可能な量が多い。

 そして御力の総量は、概ね8年生きた後はほぼ変わらない。


 こういった要因によって、私を含め情報・諜報隊は、若いあるいは幼い女子がほとんどだ。

 それはわかっているのだけれど、今までと違う知識と常識を得た私には、何か別の感情を感じてしまう。

 ここで無為に自爆させたくない。

 何とか別の、もっとましな世界に送り届けたいと。


 起こす前に、御力で知識を整理する。

 部下が私の命令を理解して行動できるよう、大主教から得た知識や記憶も含めて整理し、更に私独自の命令を付け加えて。


 そして私は、5人にかかっている停止の御力を解除。

 それぞれが起き上がってくるのを待ちながら思う。

 私は今まで、どれだけの部下を死地に追いやってきたのだろうかと。

 そして実際、殺したのだろうかと。


 私に記憶は残っていない。

 前回の作戦後、必要でないとされる記憶は消去されたから。


 この部隊に所属している以上、転移や精神操作、更には簡易予知の御力を使いこなせるのは当たり前。

 しかし私たち情報・諜報隊は、敵地へ侵入して欺瞞情報を流したり、情報を窃取してくるのが任務だ。

 任務の過酷さ故、未帰還者は何人もいただろう。


 未帰還は、基本的に死だ。

 敵に捕まりそうになった場合は、証拠を消すために自爆せよ。

 この指示も定型的な命令に含まれているから。 

   

 部下に伝えるべき知識と命令の組み合わせを考えながら、今度の作戦の目的をどう設定するかを考える。


 今度は■■■■■■■のためではなく、自分自身のために生きて欲しい。

 しかしどう生きればいいのかは、私にもデータがない。

 国と軍に従う以外の価値観は消去され続けてきたから。


 それでも、これまでの記憶消去で消しきれなかった何かが、今の私を動かしている。

 後ろに控えている大司教だった男の知識からも、何となくヒントは見えている。

 だから激しい頭痛の中でも、それなりに最適と思える命令セットを構築し、送り出す知識に書き加える。


 作り出したものは、もう命令セットとは呼べない代物かもしれない。

 強制力がある命令は一切ない上、今までの命令をすべて上書き消去するような代物だから。

 基本的には知識と、私からの指示というかお願いだけ。

 ここではない世界で、よりよく生きてくれという。


 部下達が起きて、そして私の前に整列した。

 それでは最後の指示をはじめよう。


「今回は少し複雑な命令だ。なので前提になる知識を含めて、1人1人に直接伝達する。それではまず5310037から、両手を前に出してくれ」


 知識や命令を送り出すだけでない。

 彼女たちを縛る思考の枷『■■■■■■■と■■■こそが己の拠りどころであり、絶対である』を消去する必要もある。

 彼女たちの上位者である私なら、消せる筈だ。

 私自身の枷を外すことは不可能でも。


 私は出された手を両手で取り、思考操作の御力を発動。

 予想通り思考の枷は、上官命令という形で解除可能だった。

 解除した後、私は先程構築した知識とお願いを送り込む。

 

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