67 ホテル泊の夜と朝
「複雑に考えなくていいと思う」
衣緖菜はそう言って、一呼吸おいて続ける。
「私は陽翔に一緒にいて欲しい。陽翔は私が嫌いではないし、今の環境から脱出したい。なら今の環境を離れて、私と一緒に行ってほしい。私は陽翔と一緒にいたい。
陽翔ももっといい環境で、また考えればいい。それにケイトさんは、陽翔が私と一緒に行くことを前提に用意をしている。だから陽翔が私と一緒に行っても問題ない」
そうか、それくらい簡単に考えてもいいのかもしれない。
というか衣緖菜が一緒がいいと言ってくれている以上、選択肢は残っていない気がする。
このままあの家にいて冬に学校にどう通うか悩んだり、ゴ高に通うことになるより、ずっとましだ。
でも……
何かひっかかることがある気がする。
それが何かはわからないけれど。
でも、それでも。
「確かにそうだな」
そう衣緖菜に返答はしておく。
「ありがとう。それじゃ寝よう。今日は疲れた」
そう言ってくっついてくる衣緖菜の頭を撫でた後、
「わかった。俺も魔力車を回して寝る」
とりあえず今日はケイトさんが隣の部屋にいるから、エッチは無し。
ということで、魔力車に意識を集中して……
◇◇◇
翌朝は5時に起きて、寝ている衣緖菜を部屋に残して朝風呂へ。
せっかく高い温泉付きホテルに泊まったのだ。
食事前の20分程度ではなく、もっとしっかり温泉に入っておこうと思ったのだ。
しかし俺の体質は、風呂には向いていなかった。
温めの風呂でも、1分以上浸かるともう上がりたくなる。
露天風呂なら水蒸気が籠もっていないから大丈夫か。
そう思って試したけれど、駄目だった。
なので洗い場で歯磨きしたりヒゲをそったりした時間を含めても、昨日と同様20分程度で撤退。
荷物は基本的に衣緖菜の魔法収納に入れるから、準備するというほどの手間はない。
ネットでも見て時間つぶしをしようかと部屋に帰る。
扉を開けたら衣緖菜がもう起きて、布団を畳んでテレビのニュースを見ていた。
「ごめん、起こしたか?」
「特に何も設定しなければ、このくらいの時間になると目が覚める。テレビを実体験したことが無かったから、見ていた」
俺の部屋にはテレビは無い。
父の部屋や母の部屋にはあるけれど。
だから衣緖菜がテレビを体験するのは、これが初めてなのだろう。
「なにか面白いものをやっているか?」
「内容的にはいまひとつ。でもこの大きさの画像が動くのは楽しい」
なるほど。
「あと、もし陽翔に時間があるなら、見てほしいものがある。ケイトさんが今後どうするかについて、昨晩メモとして書いてくれている。アドレスを送ったから、見てみて」
それって今の俺や衣緖菜にとって、とんでもなく重要だろう。
「ありがとう」
俺はスマホの電源を入れる。
確かに衣緖菜からメッセージが着ていた。
更にケイトさんからのメールが着信したという通知も入る。




