60 豪華な夕食
今回の食事は、テーブルのある個室で3人で食べる形式。
「本来は食堂で食べるんだがな。この方が内密の話をしやすい。ただ細かい話は部屋ですればいいし、何なら後で資料を読んでくれれば済む。だからここでは、気にせず食べることに集中しよう」
そして出てきたのは、皿だの鍋だのがずらりと並んだ、豪華なコース。
「愁多の名物料理セットだそうだ。まあ名物なんて、地元の人間は食べないのだろうがな」
テーブル上にあったおしながきに、さっと目を走らせる。
● 先 付
ししとう豆腐
● 吸い物
丸鼈土瓶蒸し
● 御造り
季節の魚三点盛、虎河豚薄造り
● 焼き物八寸
銀鮭麹漬け、栄螺ふくら煮、夏野菜煮こごり、ソフトシェル唐揚げ、茄子味噌、蛸ワカメ、辛子コンニャク、レモン
● 小鍋
きりたんぽ鍋
● 台物
和牛蒸し鍋
……etc
他にも漬物とかデザートの羊羹とか、ご飯の銘柄まで書かれている。
どれも美味しそうだ。
アイテム数が多い代わりに、並んだ料理一品一品の量そのものは、決して多くないというか、むしろ少なめ。
刺身とか焼き魚とかは、正直もっと多くてもいいと思うし、欲しい。
「それではいただこうか」
「いただきます」
まずは食べやすそうな、焼き魚から。
うん、甘辛でこくがある味噌っぽい調味料が、良い感じで魚の味を引き立てている。
とりあえずご飯をこれでかっ食らって、次は刺身に目をつける。
薄造りというふぐは、見かけは何かの貝の刺身っぽい。
葱を添えて、ふぐ用のポン酢っぽい調味料をつけて口に運ぶ。
なるほど、薄くてもしっかり固めというか、かみ応えがある身だ。
ちょっとコリコリしていて、そしてかみしめると旨みが広がるというか……
愁多名物きりたんぽ鍋なんてのは、今回はじめて食べた。
きっとこれで食べ納めになる気がする。
でも同じ鍋の中身でも、きりたんぽより地鶏やキノコの方が美味しいというのが本音だ。
というかこの地鶏、ちょっとかみ応えがあるけれど、肉の味が濃くて美味しい。
もちろん刺身も無茶苦茶美味しい。
牛肉も分厚いのに柔らかくて、かみしめると当然美味しいわけで。
俺だけでなく衣緖菜も、ケイトさんも、黙ってガンガンと食べまくる。
すぐにご飯がなくなるので、置いてあるおひつでおかわりして、そしてまた食べて。
おひつの中のご飯を含め、完食。
「料理の評判が良かったから期待していたけれど、やっぱり良かったな」
「美味しかったです」
「何がよかった? 私は蒸し鍋に入っていた牛肉だが」
確かに、それも美味しかったなと思う。
でも個人的には、やっぱり……
「俺は刺身ですね。薄造りのふぐを、もう少し食べたかったです」
「選べない。どれもこれも変わっていて、新しい味。それでいて美味しい」
お茶を飲んで一息入れて、そして個室を出て部屋へと向かう。
すぐそこにあるエレベーターで4階へ上がり、部屋に戻ってみると、もう布団が敷かれていた。
座卓は端に寄せられていて、話をするような状態ではない。
ただ布団は1組なので、寄せれば3人で囲める程度には、座卓を動かすことが出来る。
ということで、聞いてみた。
「どうします。座卓を動かしてもいいですし、なしでも話は出来ますけれど」
「今回の最大の目的は、陽翔君に衣緖菜さんと姉弟になって、一緒に暮らすことを納得して貰うことだ。そこからの細かいことは、資料を作る。それ以外についても、メールで話せば済む。それに飯が美味くて腹一杯だと、真面目な話をする気が無くなる。ということで、さっさと寝るとしよう。何ならもう一度風呂を堪能してもいい。
私はこっちの部屋で寝る。2人は隣の部屋だ。あと明日は7時に朝食。服を着替えて荷物をまとめて、朝食を食べたらすぐ出られるよう準備してから、この部屋の扉をノックしてくれ。焦る必要はない。学校は家の用事で遅れていく旨、私から連絡しておく」
「自転車は私が収納している。明日、午後6時過ぎに迎えに行く」
つまり明日の朝食も、ここで食べられるわけか。
それは、とんでもなく楽しみだ。




