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俺が魔法を使えた頃  作者: 於田縫紀
第2話 彼女の記憶

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5 命令

 今の俺は、彼女の記憶を持っている。

 だから彼女がなぜ逃げてきたのか、今はどういう状況なのかを知るのは簡単だ。

 自分の記憶と同様に、思い出そうとするだけでいい。


 ◇◇◇


 思い浮かんだのは石造りっぽい部屋と、でっぷり太った偉そうな男。

 この部屋は■■■■■■■■ロメタ地区本部にある第3中隊小隊長控室。

 第3中隊第4小隊長で情報・諜報小隊担当の私は(・・)、休眠から御力で起こされたところだ。


 この部屋で待機から起こされ、直属上官である中隊長の5270158か、中隊伝令の5280121の毎回の作戦命令を受ける。

 それが私にとっての日常で通常だ。


 しかし命令を下そうとしている小太りの男は、いつもの上官ではなかった。

 着用している祭服の内襟と腕飾の色は大主教のもの。

 それが本人のものならば、この教区の最高責任者のはずだ。

 しかし祭服以外に、この男の身分を証明するものはない。


 私は大主教の顔を知らない。

 現場に出る部隊は、必要以上のことが敵に伝わらないよう、余分な記憶を消去される。

 だから私が顔を知っている味方は、部下のほかは直属の上官とその伝令だけ。

 だから目の前のこの者が大主教なのか、そうでなくとも私に指揮命令を下せる相手なのか、判断できない。


「緊急につき、地区責任者である大主教たる私が命令する。この部隊は全隊員で、命令99を実行準備。作戦開始時刻は0700。以上、復唱せよ」


 命令99とは、この教区が戦線を維持できず、かつ脱出も不可能となった場合に下される最終命令。

 総員による総攻撃命令で、私が所属する情報・諜報隊の場合は、

  ① 転送装置により、敵に可能な限り接近し

  ② 精神操作の御力により敵部隊に混乱、破壊、操作等の攻撃を仕掛けつつ、可能な限り敵部隊の中枢へと接近し

  ③ 予測の御力で現状で最大の被害を敵に与えられる地点に到達した段階で、全御力と体力を使用して自爆せよ

という命令になる。


 ◇◇◇


 いきなり酷すぎる場面が出てきた。

 俺の三者面談結果なんて絶望に入らないほど、酷すぎる状況。

 それがここまで記憶をたどった、俺の感想だ。


 どうやら以前、彼女のいた国は宗教的全体主義国家のようだ。

 そして彼女は幼いころから軍で敵と戦っていた模様。

 ただしこれはあくまでも状況証拠だ。


 彼女には、起こされた時点以前の記憶のほとんどがない。

 余分な記憶は、作戦終了ごとに御力によって消去される。


 だから彼女の記憶にあるのは、必要とされた最小限だけ。

 直属上官の番号と顔、姿形。

 直属の、現在の記憶では5人となっている部下。

 御力の使用方法や戦闘方法、敵についての必要とされる情報。

 自分の所属する教化軍や教会についての最低限の常識。

 その程度だ。


 ただ一部、記憶が■■■■■■■■というように、認識できない部分がある。

 これがなぜかは、今は不明だ。

ただ彼女が意図して隠しているのではない気がする。

 もう少し記憶を確認すれば、わかるかもしれない。


 あと御力というのは、魔法のことらしい。

 主敵であり、魔に汚された国であるサラステクス魔道帝国や、世俗主義で教化の対象であるフィルメディ王国が使う魔法と違い、神によって与えられた正しい力という意味で用いている。


 ただし実際は、御力も魔法も同じものであり、■■■■■■の権威と正当性を示すために呼び名を変えているに過ぎない。

 彼女の記憶では、そうなっている。


 しかしいきなり自爆命令か。

 不穏以外の何者でもないけれど、これがどう今の彼女に繋がるのだろう。

 そう思いつつ、俺は(・・)記憶のさらに先をたどる。

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