43 発掘作業
衣緖菜の件については、メールで質問が来るまで、やることはない。
どんな方法で衣緖菜の戸籍を作るかは、正直なところ不明だ。
ただケイトさんはこの件の専門家らしいから、きっと何か方法があるのだろう。
ネットで調べただけの俺にはわからないような方法が。
なら調査物の時間は、とりあえずここまで。
いつものように勉強をしておこうと思う。
「ここは午後5時で閉まるからさ。とりあえず4時50分まではここで勉強してようと思うけれど、衣緖菜はどうする?」
「時間まで少し本を読んでいる」
そんな感じで時間までいて、自転車で帰って。
家に帰ったところ、車がない。
ならちょうどいいだろう。
「部屋で待っていて。ちょっと道具を取ってくる」
この隙に父のキャンプ道具のうち、食事に使えそうなものを確保しておこう。
父は1階南西側にある、襖で仕切られた続きの3部屋を使っている。
合計20畳以上ある半分以上に物が散乱していて、かつ掃除もしていないので畳に埃が積もっているという、入りたくない部屋だ。
それでもキャンプ道具の小鍋や食器、調理用ガス器具、ガス缶あたりがあれば、部屋で食事をする時に便利だ。
あと皿などの食器があれば、キッチンに行かずに済む。
衣緖菜の魔法で親と出会わないようにはしているけれど、できるだけ共用部分には出ないほうがいい。
「一緒に探す。あと30分帰ってこないから大丈夫」
確かに2人で探した方が早いだろう。
衣緖菜も俺の知識を持っていることだし、探すのに便利な魔法もあるだろうし。
「頼む。探すのはキャンプで料理に使うもの一式」
「わかった」
脱ぎ散らかした服とかより、段ボールだの大きなザックだのがある辺りにありそうだ。
ごつい革靴だのテントらしい袋入りの大きいのだの、下に敷くマットだのをかき分ける。
小さいトートバッグにごそっと入った、折りたたみまな板と包丁セット、そして食器セットを発見。
ちょうどいいから持っていこう。
「あった。ガス缶とガス器具。あと小さな鍋」
俺より2mくらいキッチン側で、衣緖菜も発見したようだ。
「ありがとう。こっちは食器のセットを発見した。食事に使えそうなものは一通り持っていこう」
「わかった。こっちにあるのはガス缶とガス器具。あとガソリンを使う大きいバーナーセットやバーベキューセットがあるけれど、どうする?」
そんな大物、使ったことがない気がする。
でも、あの父は計画性なく欲しくて金があれば買ってしまう性格だ。
だからあっても不思議ではない。
ただ今は、俺と衣緖菜が使うのに便利なものだけで十分だ。
「大きいのは置いていこう。あの部屋のコタツの上で使っても問題ない大きさの物だけで」
「わかった。ならガス缶とガスバーナー、鍋セットを確保する」
「こっちも食器セットを持っていく。今はこれでいいだろう」
発掘した部分はできるだけ元の状態に戻して、俺達は父の部屋を出る。
「靴下を脱いだ方がいいな。汚れた気がする」
「あとで魔法で洗う?」
いや、そこまでは必要ない。
「洗濯機で洗うから、後で乾燥だけお願いしていいか。どうせ洗濯機は回すしさ」
「わかった」
靴下を脱いで、そして俺達の部屋へ。
「それじゃ持ってきたものを確認しよう。それじゃコタツの上に、まずは衣緖菜が持ってきた物から頼む」
ということで出てきたのは、こんな感じだ。
● 登山用ガス缶に直接接続する、ごく小さなガスバーナー
● 一般用のポータブルガス缶を使う、卓上コンロといってもいい大きさのもの
● 登山用の黄色いガス缶3、一般用のポータブルガス缶6
● 四角い鍋、大中小セット
● 小さいけれど分厚い鉄製で重い鍋1
どれもほとんど使った形跡がない。
キャンプブームで買ったのはいいけれど、行く事がなくて放置していたのだろう。
勿体ないけれど、便利そうだ。
「これだけでも、それなりの料理が作れそうだよな」
「何か作る?」
「いや、そういう知識が無いからいい」
炊飯器があればご飯は炊けるし、作り方を見ながらなら袋ラーメンは作れる。
俺の料理能力はその程度だ。
母は以前から自分で料理を作らない主義だから、見本なんてのはない。
経験も小学校の家庭科で、何とか説明通りにカレーを作った程度。
「今すぐ使うのが無ければ、魔法で洗浄して仕舞っておく」
「ありがとう。収納容量は大丈夫か?」
「まだ10kgくらいは大丈夫」
「わかった。頼む」
そのうち2人で料理を作るなんてのをやってもいいな。
そう思って、そして慌ててその考えを取り消す。
衣緖菜は出来るだけ早く、この家や俺の前を離れた方がいいのだ。
ケイトさんが、よりよい保護者を見つけてくれるとかして。
それに衣緖菜は、近未来予知魔法を使えば金銭上は困らない。
昨日競輪場へ行ったから、やり方はもうわかっている筈。
ここにいたら、学校すら通えない。
だから出来るだけ早く別れるのが、きっと正しい。
※ 今回出て来た装備は、だいたいこんな感じです。登山用とオートキャンプ用がごっちゃになっているのは、知識がない誰かさんがアウトドアショップに行って、欲しいと思った物を適当に買ったせいです。
・ ごく小さなバーナーとは、イワタニプリムスのP-153辺り
・ 卓上コンロは、同じく岩谷のカセットフー タフまるXG
・ 黄色いガス缶はイワタニプリムス用のノーマルガス大
・ ポータブルガス缶は、その辺の適当なブランドの250g缶3缶パックを2つで6本
・ 四角い鍋は、よくあるラーメンクッカーとも俗称される奴
(例:ユニフレーム(UNIFLAME) 山クッカー角型)
・ 鉄製で重い鍋とは、20cmクラスのダッジオーブン
(実は作者が実際に持っている物を参考にしたとかしていないとか……ワンゲル崩れなので、つい……)




