39 予知
図書室内では飲食禁止だ。
暑くなければ外の公園で食べてもいいのだけれど、今日の天気なら隣の体育館の観覧席あたりが無難だろう。
どこかの団体が体育館を使っていて、冷房が効いていればありがたいのだけれど。
机の上を片付けてディパックに仕舞い、立ち上がったところで衣緖菜がやってきた。
近未来予知か何かの魔法で、俺の動きを察知したのだろう。
衣緖菜にとっては目で見て気付くのと同程度の感覚だと知っているので、特に気にはならない。
◇◇◇
体育館、観客席ともに空だった。
それでも少し前まで使っていたのか、冷房の冷気がまだ残っている。
入口から少し行った席に陣取って、衣緖菜に昼食を出して貰う。
「菓子パンとサンドイッチとおにぎり、どれがいい?」
「ならおにぎりで、違う種類を3個。あとお茶のペットボトル」
衣緖菜が来るまでは、家では菓子パンかカップラーメンだった。
だから、選べるならご飯系が食べたくなる。
「わかった」
衣緖菜が出してくれたのは、おにぎりがツナマヨ、鮭、昆布。
あとは緑茶の500ミリペットボトル。
衣緖菜自身は、クリームパンとチョコパン、乳酸菌飲料のペットボトルを出して、昼食開始だ。
「何か面白い本はあった?」
「地図と図鑑を読んでいた。特に図鑑。陽翔の知識にあるものが、写真で出ているのが面白かった」
多分写真が中心の、小学生用の図鑑だろう。
「図鑑は結構面白いよな。案外、自分の知らないものがのっていたりして」
図鑑とか百科事典なんてのは、小学生用であっても馬鹿にできない。
書いているのは専門家だから、内容はしっかりしているし。
俺も小学校1年の時に買って貰ったのだが、引っ越す際に邪魔だというので古本屋に出されてしまったな、なんて思い出す。
「あと質問。移動して誰かと話していたようだけれど、何の話をしてた?」
何だろうと考えて、すぐにメイのことだと気付く。
「メイが数学で解けない問題があるって、持ってきたんだ。割といつものことだけどさ」
衣緖菜にも俺の記憶がある。
だからメイがわからない問題があると持ってくることについても、知っている筈だ。
「わかった……」
その衣緖菜の言葉が、微妙に歯切れの悪い感じに聞こえた。
なので、つい聞いてしまう。
「メイがどうかしたのか?」
「何でもない。陽翔が気にしていないなら、それでいい」
どういう意味だろう。
俺が気にしていないということは、気にするようなことがあったということだろうか。
でも、メイが難問を持ってくるのはいつも通りだし、それ以外についても特に変わったことはなかった気がする。
強いて言えば、俺がスマホを買ったことと、SNSの友人欄に衣緖菜が入っていたことに気付かれた程度。
でもメイなら他に言うことはないだろうし、特に気にする必要はない気がする。
「他に陽翔は、何をしていた? 勉強?」
これは、正直に言っていいだろう。
「衣緖菜が学校に通えるようにする方法を調べていた。今のところ、警察とか児童相談所とかを使う以外の方法がわからない」
「ちょっと待って。見てみる」
これは目で見るのではなく、近未来予知魔法で調べてみるという意味だ。
衣緖菜は、10秒くらい目を瞑った後、目を開けて軽く頷いた。
「今、陽翔が言った方法ではないように見える。はっきりとは見えない。でも、確かに何か方法があるように感じる。私だけでなく、陽翔もいい方向に動けるような方法がある、というか、陽翔が見つけてくれる気がする」
俺もいい方向に動けるか。
その言葉でふと、メイがさっき言った言葉が思い浮かんだ。
『津久井はまた東京の方に戻っていく気がする。私は此処から出られないけれど。何となくそう感じるだけだけれどね』




