37 推理
俺がスマホを出したところで、メイがわざとらしくにやりとした。
「おっと、Androidの新製品だ。コストパフォーマンス重視って感じで、津久井らしい」
いや、そこまで考えて買ったわけじゃない。
「店にこれか、もっと高いのしか売っていなかったんだ」
「つまり津久井が自分で選んで買ったわけか。前に聞いた親の感じだと、こういう選択は無さそうだし。昨日あたり親戚か誰か、だいぶましなのと連絡が取れたのかな」
不用意だったか。
そう思ったけれど、メイなら問題ないだろう。
というか、メイ以外がいたら、俺も、もう少し注意していたと思う。
メイは馬鹿相手に同一戦線を戦っている、戦友みたいな存在。
だからつい味方という感じで、気を許してしまうのだ。
それでも衣緖菜のことまでは、さすがにメイには話せない。
その上この先どうなるか、どうするかもまだ見えていない状況だ。
だから俺が出来る返答は、こんな感じになる。
「まだ、状況は未確定というところだけれどさ」
「なるほどね」
さて、生成AIソフトのインストール開始までは行った。
ダウンロードは図書室のWifiを使っているから、通信料の心配はいらない。
けれど回線が遅いようで、なかなかインストールが進まない。
時間がかかりそうだと思ったところで、メイが話しかけるというか、呟くような口調でこう口にする。
「津久井としては大きな進歩か。なら私の勘も、そう外れてはいなかったのかな。私としては寂しくなる兆候なんだろうけれど」
気になったので、反射的に聞いてしまう。
「メイさんの勘って?」
「津久井がまたすぐ別の場所、おそらく東京方面に行ってしまうだろうって。さっき言った通りだよ」
これについては、言えないことが多すぎる。
とりあえず今は、メイ相手でもこれくらいしか言えない。
「まだ、何も決まったことはないぞ」
「でも多分、津久井自身が思っている以上に話は進んでいるんだろうと思う。その兆しのひとつが、そのスマホ。スマホって未成年だと、基本的に契約出来ないと思うから。そもそも津久井は小遣いが無いって言っていたから、買うのも無理だし。面接の結果がゴ高ということは、親の態度は変わっていないってことだよね。ならつまり津久井に、親ではないスポンサー的な存在がついたってこと」
スポンサーというか、魔法を使って競輪で儲けたというか。
となると衣緖菜がスポンサー的存在になるのだろうけれど、当然このことは、相手がメイでも口に出せない。
「津久井は何も言わなくていいよ。私が勝手に私の推理と勘を話しているだけだから。それに繰り返すけれど、津久井にとってはいい方向なんだろうし。実際ここでは津久井、やりにくそうだしね。学校でも無理にレベルを落として、周りに合わせているように見える」
ここは一言、言い返したい。
「それを言ったら、メイさんだって異物だろ」
「津久井は、余所から来た異物だけれどね。私は此処の異物なんだよ。だから、此処から逃げられない」
此処の異物か。
そう言われると、俺としては何も返せない。
さっきも似たようなことを、メイが言っていた気もするし。
ただそうであろうと、異物であるのは辛いし大変だと思うのだ。
東京時代の俺も、優秀なのが私立や国立、公立一貫校に行ってしまった残骸状態の中学で苦労したし。
「津久井はそんな顔しないの。これは津久井じゃなくて、私のことだから。でもあと半年、高校に行ったらだいぶましになると思うけれどね。その為には、愁高に合格しなきゃならないけれど。それに大学は県外に出ていいって、親から言質を取っているから。そもそも両親ともに県外の大学出身だし、現状を知っているからね。私が大学に行ったら帰ってこないだろうことも、覚悟しているし。そういう意味では、一昨日までの津久井より、よっぽどましだと思うよ。
というのはともかくとして、インストール、終わってる」
メイの言葉で、俺はスマホ画面に目をやる。
確かにインストールが終わっていた。
「それじゃあ、あとは初期設定。といってもすぐ終わるけれど、一応、出来るかどうか横で確認してあげる」
「はいはい」
実際、初期設定は、メールアドレスを確認するくらいだった。
だから、すぐに終わる。
「あとはついでに、連絡用SNSの交換をしておこう。どうせ学校のSNS確認も、もう入れてるでしょ」
「はいはい」
言われるがままに、SNSの『お友達』欄に登録。
そしてメイは、立ち上がる。
「それじゃあ今日はこんなところかな。それじゃ彼女さんに、よろしく」
えっ!?
そう思ったところでメイが、振り返らずに付け加える。
「画面に出ているよ。私以外の人相手の時は今後、注意した方がいいかな。じゃあね」
しまった。
確かに、友達追加した後の確認で見た画面に、衣緖菜の表示も出ていた。
どうにもメイ相手の場合、気を抜いてしまう癖がある。
でも相手がメイなら、問題はない。
信用出来るし、ああ言ったということは黙ってくれるということだろうから。
ああ言わなくても、メイなら黙ってくれるだろうけれど。
ただそれでも、メイの後ろ姿が、何か言いたげな感じに見えた。
どう声をかけようかと思っている間に、部屋の外へと消えてしまったけれど。




