34 クラスメイトと
誰の声かは、すぐにわかった。
図書館で出くわすようなクラスメイトは、基本的に一人しかいない。
「なんだ、メイさんか」
中学で同じクラスの佐藤楓だ。
メイというのはあだ名で、佐藤楓→サトウカエデ→メイプルシュガー→略してメイ、となったと聞いた。
女子ではあるけれど、今のクラスの中では一番話しやすい。
というか女子に限らず、生徒の中で一番よく話すし、話せる相手だ。
同じ課外活動ということもあるけれど、話す理由はそれだけではない。
ちゃんと会話が通じるし、よく見れば顔も可愛い方だと思う。
言葉が男っぽいせいか、成績がいいせいか、男子には人気がないけれど。
「なんだとはなんだ、というのはまあ置いておいて。ちょうど質問があるんだけれど、フリースペース側へ行っていい?」
図書室部分ではあまり会話できないが、フリースペース側なら多少は話しても問題ない。
そして衣緖菜なら、俺が多少移動しても問題なく位置がわかるだろう。
なら質問とかそれ以外の話をするなら、移動した方がいい。
「わかった」
ノートとタブレットをディパックに入れ立ち上がり、移動開始。
フリースペースはそこそこ空いていた。
窓際の机を横並びでキープしたところで。
「ところで、昨日はいなかったけれど、何かあった?」
そんなことを突然聞かれた。
「俺だって、常駐しているわけじゃないぞ」
「休日はほぼ常駐してるよね。大雨で動けない日を除いて」
その通りだけに、とっさに返せない。
「まあ、それは置いておいてさ。三者面談、金曜日にあったでしょ。私が終わった時には、もういなかったけれど、津久井もやっぱりシュウ高?」
シュウ高というのは、愁多高校の通称。
この前行った県庁所在地にある、県のトップ校だ。
つまり引っ越してから三者面談までの間、俺の志望校だった学校。
しかし今は……
「残念ながら俺や先生の意見と、うちの父の意見は一致しなかった。進学はゴ高しか認められないらしい」
ゴ高というのは、ここの最寄りの伍醍醐高校のこと。
昔はそこそこの高校だったらしいけれど、過疎化が進み人口が減りまくった結果、十年くらい前から定員割れが常態化している。
当然、レベルは推して知るべし状態。
「何それ……でもまあ、文句を言いたいのも事情に詳しいのも津久井だし、私がこれ以上言うのは野暮か」
こういった場合に、根掘り葉掘り聞かないで察してくれる辺りが、メイと話していて楽な理由だ。
なお思考が口に出るのは、本人曰く『頭の回転がそれほど速くないから、ひとつ考えていると他のコントロールが効かない』から。
ただ、実際はわざとだろうと俺は思っている。
相手に余分な誤解を与えさせないために。
ただ誤解するだけならまだしも、馬鹿は理解不能な理屈で曲解して、勝手に怒って攻撃してくることがあるから。
そういった連中から身を守る方法は、俺の場合は『近寄らないし、話さない』だった。
その点はメイの方が俺より数段賢いし、社交的だ。
「なら別件というか、本来の用件。この問題の解き方がわからないんだけれど、津久井なら解けるだろうと思って」
メイは時々、こういった問題を俺の所に持ってくる。
というのは、うちの学校の先生の半分以上は、授業以上のことを聞くと嫌な顔をするから。
うちの担任は割とまともな方だけれど、たとえば数学の高橋先生は駄目駄目側。
あれこれ思うところはあるけれど、生徒ひとりで変えられるものではないし、恨みを買って内申点を下げられるとまずい。
なのでメイも先生に聞くなんてことをせず、俺に聞いてくるわけだ。
今回持ってきたのは数学の、折り返し図形を使った問題。
これはこれで定石の解き方はある。
うん、そこそこ複雑だけれど、問題なく解ける。
「こういった場合、わかる部分は、まず図形に書き込んでしまった方が早い。折り返しだから、ここの長さとここの長さ、ここの角度は同じ。そうなると、ここは90°だから……」




