33 図書室
当たり前だけれど、衣緖菜と比べて俺の魔力は悲しいほど少ない。
昨晩は魔力車を1回転させないうちに魔力が尽きて、同時に意識も消えた。
気がついたら朝、という状態だ。
余分なことはしないし、気にしない方針で、普通かつ無難に洗面その他、朝食、着替えと済ませて、朝8時50分に自転車で家を出る。
例によって自転車だけれど、漕がずに加速する実質バイク状態。
「これも魔法を練習すれば、できるようになるのか」
『物を動かす魔法は、割と簡単。この自転車くらいなら……あと5日で可能』
この微妙な間合いに、俺は心当たりがある。
「ひょっとして近未来予知を使った?」
『そう。だから来週金曜日の朝は、自分で魔法を使って自転車を動かせる』
それはだいぶ助かる。
駅よりは近いといっても、家から学校までは7kmちょい。
行きはともかく、上り坂になる帰りは結構辛いのだ。
冬の通学も、この魔法が使えれば何とかなるだろうか。
プラスチックの簡易なソリでも買って、魔法で動かせば。
図書館というか図書室は、中学校よりは街の中心に近い場所にある、小学校の離れ的な建物。
小学校の敷地の端、町立体育館との間にある自転車置き場に自転車を停め、歩くとほぼちょうど開館時間。
「それじゃお昼頃まで、ここで勉強したり、調べ物をしたりしているからさ。衣緖菜も自由にしていて。自転車を使うなら鍵を渡すから」
「ありがとう。少し本を読んでみる」
その言葉に続くように、伝達魔法が入る。
『この世界について、本で少し確認したい。それに本そのものにも興味がある。前の世界では本を読んだことは無かった。存在はしていたけれど、一介の兵士には関わりの無いものだった』
なるほど、本は一般的ではなかったのか。
それとも衣緖菜の環境が特殊すぎたのか。
わからないけれど、とりあえず今の日本は平和だ。
だからきっと、問題はない。
さて、それでは調べ物をするとしよう。
内容は『衣緖菜に戸籍を作るにはどうすればいいか』。
ただし俺はこの分野について、よく知らない。
だからまずはネットで調べて、それから詳細について本で確認しよう。
◇◇◇
窓際の机をキープして、一応スマホもここのWi-Fiを使えるようにセットして。
それから使い慣れた授業用のタブレットで、一通りネットで調べた結果、俺は理解した。
衣緖菜を学校に通わせるのは、なかなか難しいだろうと。
学校に通うには、必ずしも戸籍が必要というわけではないらしい。
戸籍が無い外国人でも、日本の学校に通うことは可能だ。
それでも最低限、居住事実と滞在許可があることが前提の模様。
具体的には、証明書として「在留カード」「住民票」などが求められることが多いらしい。
しかし在留カードは、入国時に空港で発行されるか、入国手続きをした後に発行され、届け出た住所に郵送される。
つまり正規に入国しないと、発行されない。
異世界から魔法で移動してきた衣緖菜には、当然ながら発行されない。
住民票を発行してもらうには、住民登録をする必要がある。
これは在留カードを受け取った後、市区町村役場で住所を登録する必要があるようだ。
つまり在留カードが無ければ、外国人は住民票を作れないらしい。
なお市町村役場と出入国在留管理庁は、住所データを電子的に共有しているそうだ。
だから担当者一人を魔法で操って……という方法は通用しない模様。
証明書類等を電子的にファイリングしたりもするようなので、その場で魔法で誤魔化すというのは通用しないだろう。
結論として、外国人として通学するのは困難というか、限りなく不可能なようだ。
となると、日本国民としてということになる。
そこまで調べたところで。
「あ、津久井、今日はいる」
背後からそんな、女子の声が聞こえた。




