32 訓練
後回しにしても、答えを出せない問題というのはあるわけで……
結局はやっぱり感情と煩悩に負けて、あれこれやってしまった。
ひととおり片付けて、二人で布団の中に入ったところで。
「微弱だけれど、魔力を感じる。灯火魔法が使えるかもしれない」
衣緖菜の言葉で思い出した。
そういえば前に衣緖菜に言われた気がする。
灯火魔法くらいなら一週間以内に使えるようになると。
「試していいか」
「もちろん。電気を消す」
衣緖菜がそう言うとともに、照明のスイッチがカチッと鳴って常夜灯が消えた。
加力魔法で壁にあるスイッチを操作したようだ。
この魔法も簡単な部類だし、あとで試してみよう。
そう思いつつ、まずは初志通り灯火魔法から。
魔法の使い方そのものは、衣緖菜の知識に入っている。
もちろんこれは、衣緖菜の身体で衣緖菜が魔法を使う場合の知識だ。
それでも魔力として認識している感覚は、俺の身体からも感じられる。
衣緖菜の知識にある魔力と比べて、ずっと微弱だけれど。
魔力さえ感じられれば、あとは簡単だ。
魔法の様式にそって、ただ念じるだけ。
ふっと部屋が明るくなった。
電気が点いたわけではない。
天井近くに光球が浮いているのがわかる。
「思ったより簡単だな」
「これができたら、他の魔法も時間の問題。ただ魔力を鍛える訓練はした方がいい」
俺側の布団の脇に、そこそこ大きな物体が出現した。
回すと玉が出てくる福引きの抽選器みたいな形で、回る部分は自動車のタイヤくらいの大きさがある。
これが何で何のために出したかは、衣緖菜の知識ですぐに理解した。
魔力を鍛えるために使用する、魔力車と呼ばれる訓練器。
出した理由は、俺の魔力を鍛えるためだ。
向こうの世界では、魔力の総量そのものは、8歳くらいでほぼ成長しきるとされている。
ただしそれは、十分に訓練した場合の話だ。
俺のように全く魔法と関わっていなかった者の場合は、8歳以降でも魔力を増やす余地がある。
ただし魔力を増やせるのは、魔法に目覚めてからおよそ2週間程度。
この間にしっかり魔力を引き出す訓練をしておかないと、少ない魔力のまま限界を迎えてしまう。
「つまりこれから、この魔力車を毎晩回した方がいいのか」
8歳まで、もしくは魔法に目覚めてから2週間の間、魔力は使えば使うほど鍛えられて大きくなる。
しかし魔力を効率よく消費する魔法は、大体において威力が大きい。
つまり屋内などで使用するには危険だったりする。
しかし、この魔力車を使えば、小さな魔力から大魔力まで安全に消費できる。
小さい魔力でも大きい魔力でも、少ししか回転速度が変わらない仕組みになっているから。
つまりは訓練用として便利な道具というわけだ。
「そう。2週間の間、毎晩回せば、それなりの魔力は身につくはず。この世界でも魔法が使えれば便利なことはきっと多い。魔力が無くなって気を失っても、私がいれば問題ない」
確かに魔法が使えれば、何かと便利だろう。
近未来予知や転移魔法を使えるようになるのは、無理かもしれない。
しかし加熱や加力の魔法なら、割と簡単に覚えられるはずだ。
これだけでも料理とか、学校や街に行くのが、だいぶ楽になる。
「わかった。それじゃ早速やってみる」
魔力車の使い方は、衣緖菜の知識でわかっている。
だから俺は魔力車に集中し、記憶にある通り、魔力を流す。
魔力車は、ゆっくりと回転を始めた。




