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俺が魔法を使えた頃  作者: 於田縫紀
第5話 次の作戦

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31 答がわからない

「とりあえず俺は、シャワーを浴びた後、もう少し勉強をする。10時半までは起きているつもりだから、もし眠かったら言ってくれ。布団を敷いて、暗くするから」


「わかった。まだ大丈夫。ところで、明日は何時に起きて、どうする?」


 明日か。

 お金や身の回りのものに関しては、一通り買い終わったしな。

 家にいると息が詰まるし、雨が降らなければ、出かけた方がいい。


「行った方がいい場所が特になければ、図書館にでも行くか。日曜は朝9時からやっているから、8時半くらいに出て。昼は近くの公園ででも食べてさ」


 図書館へ行くのは、いつもの休日通り。

 しかし今回は勉強だけでなく、調べものもしたい。

 衣緖菜の戸籍を取る方法とか、独立して生活する方法とか。


「わかった。私も陽翔からもらった知識を確認したいし、文字を書く練習もしておきたい。だから陽翔が寝るまでは、ここで作業する」


 つまり一緒に寝るということか。今日も。

 どうしても邪念が頭を過ぎるけれど、まあ仕方ない。

 何せ昨日は、ひととおり以上のことをやってしまったし。


 それ以上、余分なことを考えないようにしつつ、俺はタオルと着替えを出して、衣緖菜に声をかける。


「それじゃ、シャワーを浴びてくる」


「わかった」


 部屋を出て、玄関を挟んで反対側にある洗面所へ。

 服を脱ぎ、洗濯機に押し込み、ボイラーのスイッチを入れる――そんな、風呂に入るルーティン作業をしながら考える。


 本当は衣緖菜に対して、あまり情がうつるようなことをやらない方がいい。

 今の俺の家は、衣緖菜が戸籍を取って学校に通えるような環境ではないから。

 だから衣緖菜は、出来るだけ早くこの家から出るのが正しい。


 衣緖菜が俺と一緒にいるのは、彼女の目的のためだ。


『私が送り出した5人が、この世界で平穏に暮らしているのを確認すること。確認できるまでの間、この世界で平穏に暮らすこと。そのための拠り所を見つけること』


 俺という存在は、そのための手掛かりというか、足場に過ぎない。

 だから安定して立てる足場が出来れば、俺はもう必要ない。


 今はまだ俺に対し、『己の拠りどころであり、絶対である』という宣言がある。

 でもこれは、国や軍への絶対服従命令に対抗するために、便宜上そうしただけだ。

 だから、国や軍の影響が無くなった時点で解除するだろうし、解除するのが正しい。


 衣緖菜が戸籍を取る方法は、まだ調べていない。

 それでも独り立ちしたり、どこかに居候するなど出来るなら、この家でない方が絶対にいいはずだ。

 もっとましな環境はきっと、いくらでもある。


 そんな環境が見つかれば、俺と別れることになる。

 だから、ドライな関係を保っておいた方がいい。

 ちょっと考えれば、すぐにわかる結論だ。


 風呂場に入って、シャワーの水栓をひねる。

 水温が上がるのを待ち、その後、機械的にシャワーを浴びたり、身体や髪を洗ったりしながら、さらに考える。


 ドライな関係を保った方がいいというのは、わかっている。

 ただ俺自身がそう出来ているかというと、まるで出来ていない。

 思い切り、衣緖菜に情が移りまくっている。


 可愛くて綺麗で、性格も考え方もわかっていて、同情せざるを得ないような状況にあって、なおかつ昨晩あれこれしてしまった。

 情が移るのは当然だ。


 だから俺が、衣緖菜に対して何とかしてやりたいと思うのは、当然だし仕方ない。

 それでも衣緖菜が俺とずっといたいと思うのはまずいし、思わせない方がいい。


 ただ、それを昨日の今日で出来るかというと……

 衣緖菜は知らない世界へ転移してきて、頼る相手が他にいない。

 この状態で突き放すのは、流石にまずいだろう。


『嫌でなければ、一緒に寝て欲しい。直接接触できる方が、安心できる』


 そう迫られたら煩悩だけでなく、感情的にも断れない。

 どうするのが正しいだろうか。


 答えが出ないまま堂々巡りの考えを続け、答えが出ないまま頭から足まで一通り洗い終わって、シャワーを止める。

 身体を拭いて持ってきた着替えを着て、さっきまで着ていた服と身体を拭いたタオル、そして脱ぎ散らかっている父や母の服やタオルも洗濯機に入れて洗濯機を回して。


 洗面所を出て部屋に戻る前に、まだ答えが出ないままの俺は決めた。

 結論を早急に出すのは諦めて、後回しにしようと。


 入試問題の場合は、答えが出ない問題は後回しにして、出来るところからやるのが正しい。

 だから衣緖菜とどう接するかについても、とりあえず後回しにしておこう。


 これから2時間試験勉強をして、洗濯物を片付けた後に、また考えればいい。

 解答は出ないだろうし、また流されるだろうというのがわかっていても……

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