30 軍資金
それで元部下を探せるかどうかはわからない。
でも、何もしないよりは、よっぽどましだろう。
それに衣緖菜には、近未来予知魔法がある。
たとえ悪意をもった連絡が来ても、返答していいかは判断可能だ。
なかなかいい案だと思って、そして気がついた。
「ひょっとして、スマホが必要というのは、このためだったのか?」
「主な理由は、近未来予知魔法で、あった方がいいものとして出て来たから。SNSに書くというのは、スマホをどう使うか考えて思いついた。近未来予知魔法では、応答は見えていない。それでも作って陽翔に報告することには、意味があるように感じた」
近未来予知魔法で見える未来の範囲は、一定ではない。
この魔法は、最も可能性が高い未来を見る魔法だ。
だから状況が刻一刻と変化しているような場合は、1時間程度先のことだって見えない。
それでも、見る対象と、見える範囲を絞れば、近未来予知魔法は、判断材料として有用だ。
衣緖菜がよく使うのは、『ある選択をしたことについて、その選択をしなかった場合に比べて、将来の自分が良かったと評価出来る可能性が高いか』という形。
これなら、将来の自分が存在する限り、『良かったと思う』『悪かったと思う』『何も感じない』『わからない』というのが見えるからだ。
衣緖菜が言った『意味がある』というのは、そうやって限定して、近未来予知を使った結果だろう。
しかし、『応答は見えていない』けれど、『作って俺に報告する』ことには意味があるというのは、どう捉えるべきだろう。
今の衣緖菜が作ったSNSを見たことによって、俺が何か行動する必要があるのだろうか。
わからないけれど、今は、少しでも思いついたことをやっておこう。
もちろん、問題が起きないだろう範囲で。
「わかった。俺も、あとで同じSNSに登録するから、そうしたら連絡できるように、友達登録をしよう」
俺が今、思いつくのは、このくらいだ。
このスマホは、電話番号がないので、そのままでは、いざという時に衣緖菜と連絡が取れない。
今は一緒にいるけれど、俺は月曜から、学校に通う。
だから、連絡方法として、SNSを使えるようにしておくのは、間違いなく正しい。
それに衣緖菜だって、独自に、あちこちに出かけたりするかもしれない。
衣緖菜には、俺の記憶と知識があるし、便利な魔法だって持っている。
だから、それなりに、自由に行動しても問題はない。
あ、でも、軍資金を夕食後に渡しておこう。
競輪で儲けた金は、今は俺が持っている。
けれど、これは本来、衣緖菜の魔法で儲けた、衣緖菜のお金だ。
だから、本当は、衣緖菜が持っているのが正しい。
「あと、今日儲けたお金も、あとで渡しておくから、衣緖菜が持っていてくれ。俺は、魔法収納みたいな便利なものを持っていないから、落とす可能性がある。それに、学校で持ち物検査なんてされたら、大変だから」
こう言っておかないと、衣緖菜が受け取らない可能性がある。
食事を買うときにも、『2人の分』と言っていたし。
俺としては、衣緖菜のお金のつもりなのだけれど。
「わかった。でも陽翔も、ある程度持っていて。これは2人のお金だから」
「ああ。学校で見られても、不自然ではない程度に入れておくよ」




