3 説明
なるほど、理解した。
確かにこれは魔法だ。
催眠術だって、実際にはもっと複雑な仕掛けが必要だろう。
催眠術でここまでのことが出来ると、僕は思わないけれど。
ただ疑問に思ったので、聞いてみる。
「そういう魔法が使えるのなら、俺を魔法で操ることも出来るんじゃないか?」
『出来る。でも、そうしたくはないし、そうした場合は完全には目的を達成できない』
「そうしたくない」というのは倫理的な問題だろうか。
それとも「完全には目標を達成できない」という方だろうか。
「目的とは何か、聞いていいか?」
『私が送り出した5人が、この世界で平穏に暮らしているのを確認すること。確認できるまでの間、この世界で平穏に暮らすこと。そのための拠り所を見つけること』
状況がわからない。
それは彼女も理解したのだろう。
すぐに次の説明が入る。
『全て説明すると冗長になる。必要なことを伝えられる自信もない。私の常識や思考様式は、私がかつていた世界のもの。だからこの世界で何が重要で、何がそうでないか――何が常識で、何が非常識なのか――それがわからない。
だからもしよければ、私の知識や記憶のすべてを貴方に転送したい。そうすれば、私がここへ来た経緯を含め、全部わかる。
危険はない。性格や考え方が変わることもない。本を一冊読むのと同程度。あと、私の知識を得れば、魔法を使えるようになるかもしれない』
魔法を使えるようになるか。
現実にはありえないと言いたいけれど、何せ僕は先ほど魔法を見せてもらっている。
だから一概に否定することはできない。
ただ、記憶を全部となると、色々と問題があるような気がする。
俺自身に危険がないとしても……
「プライバシーの問題とかはいいのか? 知識や記憶すべてというと、問題がありそうな気がするけれど」
彼女の名前を聞いていないことに、話しながら気づいた。
彼女が頷くと同時に、声ではない声が響く。
『問題ない。一つの作戦行動が終わったら、魔法の知識と戦闘に必要な知識・経験を除き、記憶は消去される。
個人的な記憶は、前回の諜報任務終了時の記憶消去以降、約3日分しかない』
――ちょっと待ってくれ!
それってどういう意味だ!?
戦闘って、戦争でもやっているのか!
俺よりどう見ても小さく見えるこの子が。
『名前については待ってほしい。ここへ来る前の呼称は、ここでの意味に直すと5290107番。
ただ、そういう呼び方はこの世界でいう「名前」というものとは違う気がする』
名前ではなく、番号呼びか。
異世界もののファンタジーというより、ディストピア系SFという感じだ。
ただ、彼女が嘘を言っていないのなら、これは現実だ。
この世界ではなく、他の世界の話ではあるけれど。




