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俺が魔法を使えた頃  作者: 於田縫紀
第1章 中学3年7月 第1話 はじまり

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2 出逢い

 それでもここで、いつまでも時間つぶしをしているわけにはいかない。

 家まで自転車で30分はかかるし、ただでさえ全般的に上り坂でそこそこきつい。

 暗くなってライトをつけたらペダルが重くなって、よけいにつらくなる。

 なお、俺の自転車は安物ママチャリで変速機はない。


 これで冬になり雪が降ったら、学校に通うのはさらに大変になるだろう。

 この辺の積雪量は、例年だと確か1mちょっと。


 俺の家はこの町でも外れの集落にあるから、町営バスすらやってこない。

 父が車で送ってくれるなんてことはないだろう。


 スクールバスは、昨年廃止になったらしい。

 だから通う場合は片道150円のスクールタクシーに乗ることになるけれど、往復300円をうちの父が出すかどうかは怪しい。

 結果的には自転車で走っている7kmの道を、歩いて行くことになりそうだ。


 それでも、別の国の恵まれない子どもたちに比べれば、衣食住があるだけましと考えるべきなのだろうか。

 ここは日本だけれども。


 帰りたくないから、ついそんなことを考えて足を止めてしまう。

 でもそろそろ帰らないと。

 そう思って立ち上がりかけた時だった。


『見つけた』


 そんな知らない声が、正面から聞こえた気がした。

 思わず視線を上げて前を見る。


 中一か小六くらいに見える、小柄な女子だった。

 顔はわりと整っていて、可愛いというより綺麗系。

 肌はこの辺では見かけないくらい白いけれど、髪は黒くて短く、男性会社員の七三分けが少し伸びたような髪型。


 そして服装が変わっている。

 体にフィットした黒色の上下に黒いマント。

 どう見ても学校の制服ではない。


 ついでに言うと、この学校の生徒でもない。

 何せ1学年1学級しかないのだ。

 2ヶ月いれば、同学年に限らず生徒全員の顔を覚える。

 しかし俺は彼女の顔を知らない。


 何者だろう。

 他の学校から演劇部の交流とかで来ているのだろうか。

 しかし、うちの学校に演劇部なんてないよな。

 そんなくだらないことを思ったところで、声が聞こえた。


『助けてほしい。でも助けるにはリスクがある。だからまず話を聞いてほしい』


 信じていいのだろうか。

 先ほど、話の通じないくせに偉そうな(バカ)で困っていたから、こういった低姿勢で呼びかけられると、思わず話を聞きたくなる。

 顔も綺麗で可愛いし。


 ただシチュエーション的には、かなり怪しい。

 校内で知らない顔、しかもとんでもない服装という時点で、そもそもアウトだ。


『服装は心配いらない。私の姿は他の人には見えない。私が貴方と話しているのも、他の人にはわからない。そもそも私は、声で話していない』


 えっ!?

 そう言われて、そして気づいた。

 確かに彼女の口は動いていない。

 どういうことだ!?


『私はまだ、この世界の言葉を話せない。今は意味だけを御力……魔法で伝えている。あと、私に対しては普通にこの世界の言葉で話していい。意味は魔法で理解できる。周りの人は話し声を聞かないし、貴方の姿も見えてはいるけれど気にしない』


 やはり彼女は口を動かしていない。

 ここで話を聞いて大丈夫だろうか。

 今すぐ立ち去った方が正しいだろうか。


 ただ、今さらここで『君子危うきに近寄らず』なんてしたところで意味がないような気がした。

 現状で、すでに俺の人生は転落一直線だ。

 今さら安全策を取ったところで、あまり意味はない。


 なら彼女の話を聞いてみるのも一興だろう。

 そう思ったのだ。


「わかった。こうやって話せば、通じるのか」


『そう。それではまず、私が御……魔法を使えるということの確認から。右側の外を見てほしい』


 何だろう。

 言われたとおり、俺は右側の窓から外を見る。


 不意に外が真っ暗になった。

 空中に、ぼうっと火の玉が浮かぶ。


『実際には暗くなったり、火の玉が出ていたりしていない。魔法で貴方に幻を見せているだけ』

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