2 出逢い
それでもここで、いつまでも時間つぶしをしているわけにはいかない。
家まで自転車で30分はかかるし、ただでさえ全般的に上り坂でそこそこきつい。
暗くなってライトをつけたらペダルが重くなって、よけいにつらくなる。
なお、俺の自転車は安物ママチャリで変速機はない。
これで冬になり雪が降ったら、学校に通うのはさらに大変になるだろう。
この辺の積雪量は、例年だと確か1mちょっと。
俺の家はこの町でも外れの集落にあるから、町営バスすらやってこない。
父が車で送ってくれるなんてことはないだろう。
スクールバスは、昨年廃止になったらしい。
だから通う場合は片道150円のスクールタクシーに乗ることになるけれど、往復300円をうちの父が出すかどうかは怪しい。
結果的には自転車で走っている7kmの道を、歩いて行くことになりそうだ。
それでも、別の国の恵まれない子どもたちに比べれば、衣食住があるだけましと考えるべきなのだろうか。
ここは日本だけれども。
帰りたくないから、ついそんなことを考えて足を止めてしまう。
でもそろそろ帰らないと。
そう思って立ち上がりかけた時だった。
『見つけた』
そんな知らない声が、正面から聞こえた気がした。
思わず視線を上げて前を見る。
中一か小六くらいに見える、小柄な女子だった。
顔はわりと整っていて、可愛いというより綺麗系。
肌はこの辺では見かけないくらい白いけれど、髪は黒くて短く、男性会社員の七三分けが少し伸びたような髪型。
そして服装が変わっている。
体にフィットした黒色の上下に黒いマント。
どう見ても学校の制服ではない。
ついでに言うと、この学校の生徒でもない。
何せ1学年1学級しかないのだ。
2ヶ月いれば、同学年に限らず生徒全員の顔を覚える。
しかし俺は彼女の顔を知らない。
何者だろう。
他の学校から演劇部の交流とかで来ているのだろうか。
しかし、うちの学校に演劇部なんてないよな。
そんなくだらないことを思ったところで、声が聞こえた。
『助けてほしい。でも助けるにはリスクがある。だからまず話を聞いてほしい』
信じていいのだろうか。
先ほど、話の通じないくせに偉そうな父で困っていたから、こういった低姿勢で呼びかけられると、思わず話を聞きたくなる。
顔も綺麗で可愛いし。
ただシチュエーション的には、かなり怪しい。
校内で知らない顔、しかもとんでもない服装という時点で、そもそもアウトだ。
『服装は心配いらない。私の姿は他の人には見えない。私が貴方と話しているのも、他の人にはわからない。そもそも私は、声で話していない』
えっ!?
そう言われて、そして気づいた。
確かに彼女の口は動いていない。
どういうことだ!?
『私はまだ、この世界の言葉を話せない。今は意味だけを御力……魔法で伝えている。あと、私に対しては普通にこの世界の言葉で話していい。意味は魔法で理解できる。周りの人は話し声を聞かないし、貴方の姿も見えてはいるけれど気にしない』
やはり彼女は口を動かしていない。
ここで話を聞いて大丈夫だろうか。
今すぐ立ち去った方が正しいだろうか。
ただ、今さらここで『君子危うきに近寄らず』なんてしたところで意味がないような気がした。
現状で、すでに俺の人生は転落一直線だ。
今さら安全策を取ったところで、あまり意味はない。
なら彼女の話を聞いてみるのも一興だろう。
そう思ったのだ。
「わかった。こうやって話せば、通じるのか」
『そう。それではまず、私が御……魔法を使えるということの確認から。右側の外を見てほしい』
何だろう。
言われたとおり、俺は右側の窓から外を見る。
不意に外が真っ暗になった。
空中に、ぼうっと火の玉が浮かぶ。
『実際には暗くなったり、火の玉が出ていたりしていない。魔法で貴方に幻を見せているだけ』




