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俺が魔法を使えた頃  作者: 於田縫紀
第3話 連れて帰って

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19/129

19 負けた夜

 その後も衣緖菜と話したり、ネットで調べたりして、場外車券売り場で車券を買うまでの、そこそこハードな予定が立った。

 具体的にはこんな感じだ。


 ① 朝7時10分に家を出て、最寄りと言いつつ11.5km先の駅へ、自転車2人乗りで向かう。

 ② 8時11分発の快速に乗り、途中1回乗り換えて9時13分に目的地の最寄り駅へ到着。

③ 約1,400m歩いて郵便局でお金を下ろす。

④ 約500m歩いて全国チェーンの安めの洋服店へ行く。

⑤ 服を買って着替えたら、約550m先の場外車券売り場へ。

⑥ 11時12分までに最初のマークシートを記入し、車券を購入。


 という流れだ。


 切符は片道590円で、2人なら1,180円。

 これは俺が隠していた小銭でなんとかなる。


 今回行く予定の場外車券売り場は、ネット情報によればあまり混んでいない。

 だから締め切り20分前に入れれば、車券を購入できるだろう。


 車券の買い方は、マークシートを記入して自販機に入れ、お金を払う方式。

 窓口で人と対面しなくていいのは助かる。

 魔法が使えるとはいえ、できるだけリスクは減らしたい。

 マークシートの書き方や自動機の操作は、ネットで予習して俺も衣緖菜も把握済みだ。


 買う予定の服も、ネットで調べて候補を絞ってある。

 さらに衣緖菜の魔法で「この予定で問題は出ない」とも確認済み。


 体力的にはかなりしんどい。

 まあ自転車は行きが下り坂メインだし、衣緖菜の魔法もあるからなんとかなるだろう。

 行きだけで合計約2.5km歩くのも疲れるが、仕方ない。


「これくらいなら私は大丈夫。何なら疲労回復魔法もある」


 そう衣緖菜が言うなら、たぶん問題ないのだろう。


「なら明日は動くし、そろそろ寝よう。そっちの布団を使って。俺はこっちで寝るから」


「一緒に寝ないの?」


 えっ!?

 とんでもない言葉が聞こえた気がして、思わず衣緖菜の方を振り返る。


 いや待て。

 きっとこれは性行為という意味ではない。

 単に寝具に差があるのが変だから、同じ布団で寝ようというだけだ。

 ……そう思ったのも束の間、衣緖菜の言葉は続いた。


「性行為をしても問題ない。私も陽翔も病気はないし、避妊は魔法で可能。それに陽翔は生理的な問題で、私の身体が気になっていると記憶にあった。私の知識ではそういう場合、作戦に影響が出ない時に済ませた方がいい。まだ経験はないけれど、やり方そのものは戦闘行動と同様に必要なものとして知識に入っている」


 まさか、そっちの意味で「一緒に寝ないの」なのか。

 思考が暴走しそうになりつつも、俺は衣緖菜の発言の根拠を確かめるように記憶を漁る。

 案外すぐ見つかった。


『作戦行動に影響が出ないよう、余分な性欲は事前に処理しておくべきである』


 戦闘関連の原則に、そんな怪しい文言がある。

 しかも、それに付随する形で性欲処理の具体的方法がいろいろと知識に入っている。

 ……まずい。具体的すぎて煩悩が刺激される。


「陽翔のいるこの世界では、私の常識はおかしいかもしれない。だから他の人とは、こうしたことはしない。でも、陽翔は私の記憶や知識を持っている。だから理解できるはず。問題はない」


 作戦終了のたびに記憶を消されるのなら、性的に乱れても問題は少ないのだろう。

 必要であれば精神操作魔法で記憶を消すことも可能だし。


 なら性欲も精神操作魔法で消せばいいのでは、と思うけれど、それはよくないらしい。

 身体的な性欲は精神操作魔法では完全に消えず、むしろ処理した方が早くて確実なのだという。


「それとも私とは、そういうことはしたくない?」


「いや、そうじゃない」


 嫌いなわけではない。

 付き合いはわずか1日だが、俺は衣緖菜の記憶と知識を丸ごと受け取っている。

 だから彼女がどういう人間なのか、よく理解している。

 外見だって綺麗で可愛い。文句はない。


 これが色仕掛けなどではないことも知っている。

 衣緖菜ならそんなことをしなくても、魔法でこちらの思考を操作できるのだから。

 だから俺が戸惑っているのは、完全に日本的常識のせいだ。


「嫌でなければ、一緒に寝てほしい。直接接触できる方が安心できる」


 こう言われてしまうと、もう断れない。

 いいのだろうか。

 そう思いつつも、断る理由も言葉も浮かばないし、実際そうしたくないわけでもない。

 だから流されるまま、服を脱いで……

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