13 最初の食事
彼女が何を食べられるか、何が好きかわからない。
だから取りあえず適当に種類を持ってきた。
具体的にはあんパン、クリームパン、ジャムパン、カップラーメンの味噌味、愛媛産ブランドものオレンジジュースの1Lパック。
結果としては、彼女はこの中ではジャムパンとクリームパン、そしてオレンジジュースが好きだった様だ。
『美味しい。こういった甘いものは、多分食べたことがない』
クリームパンを思い切り頬張っている彼女は、これまでよりちょっとだけ幼く見えた。
一気に頬張って、頬張りすぎて飲み込むのに苦労して、そしてジュースのコップを口に運んだところで、また彼女の伝達魔法が入る。
『この飲み物も凄く美味しい。甘くて濃くて味が深くて。大司教の記憶にもこんなものは無かった。柑橘を搾った似たような飲み物の記憶はある。しかしもっと酸味が強くて甘くない。酒に入れて飲むもので、そのまま飲むものではないらしい。
これって凄く貴重なものではないのだろうか。私に出しても良かったのか?』
話しているわけではないから、飲食しながらでも彼女の意思は伝わる。
「普通の飲料より少し高めだが、うち程度の家でも普通に買える程度のものだ。何なら全部飲んでもいい」
実際は買ったのではないだろう。
うちの父が買ってくる食品は、基本的には激安系。
そうでない物が混じっている時は、まずパチンコの景品だ。
あとカップラーメンは、どうやら彼女は食べないようだ。
なら俺の夕食としよう。
「それじゃこっちは、俺が食べるから」
パンならフォークや箸を使わずに食べられる。
カップラーメンを食べないのは、箸やフォークを使う必要があるからだろうか。
そう思いつつカップを左手に持って、麺をすくうため箸を汁の中へ入れたところで、俺は気付いた。
彼女がカップラーメンを避けた理由を。
彼女の記憶にある食事は、前回の任務終了後から此処へ逃げてくるまでの12食。
全てが軽い塩味の、野菜入りの粥だ。
味は薄い塩味と、青菜のえぐみ。
一緒に煮込まれている大麦の粒は、かすかすになっていて歯ごたえのない状態。
その結果、食事は楽しみではなく、1日に1回義務としてとるものと意味づけられている。
この食事のせいで、汁物に抵抗感がある様だ。
無理もないな、と俺は感じる。
俺の想像以上に彼女がいた環境は酷すぎた。
今の俺の状況が天国に思える程だ。
ただ、このまま彼女をここに置いておくのはまずいだろう。
何せ日本的にまともな食事だって摂れない状態だ。
基本的に家で食べられるのは、菓子パンかカップラーメンだから。
俺は学校給食があるから、何とかなっている。
父や母は俺には言わないが、時々外食しているようだ。
俺の養育費が入った時とかに。
それにこの世界に馴染んで貰うためにも、学校くらいは通った方がいい。
ただ現状では彼女は、戸籍がない。
何とかして戸籍を作る方法を考えないと、この先、人生が詰んでしまう。
それ以前に、着替えとかまともな食事とかは当然必要だろう。
なら当座のお金が必要だ。
しかし俺の小遣いは0。
現在、家で使う金は父のスマホに入った何とかペイとやらに入っている。
そうしないと母が無駄遣いしまくるからだけれど。
一応俺名義の郵便貯金が、2万円くらいある。
母が離婚するまでの順調だった頃、お年玉を貯めたものだ。
あとそのころ小銭をこっそり貯めておいたものが、2千円くらい。
これはいざという時のため、父にも母にも見せずに取っておいたもの。
でも2万2千円ちょっとでは、あっという間に無くなりそうな気がする。
なら彼女の魔法を使って……
なんて考えている間に、俺は自分の分のカップラーメンを食べ終えた。
彼女もパン2つで食べ終わりの様だ。
でも一応聞いておこう。
「オレンジジュース、もう一杯いるか?」




