130 GW前半の終わり
「これは気持ちいいですね。でもどうせならお湯から出て少し休める場所も欲しいです。横になれるベッドっぽいものとか。あとは椅子っぽい、ゆったり身体をもたせかけられるものも欲しいですね」
これは花音さん。
どうもはまってしまった様だ。
「何なら適当に材料を調達して作っておくよ。次の合宿までには完成させればいいかな」
「このお風呂は毎日常設してもいいと思います。近未来予知魔法で天気や屋上の予定を確認して、雨や雪が降らない夜は基本的に設置ということで」
愛美さんもそう言っているということは、きっと決定だ。
学校屋上で露天風呂なんて、背徳的過ぎる気がするけれど。
「あとこれは、合宿にも持っていきましょう。向こうのお風呂も良かったのですけれど、屋外の方が気持ちいい気がしますから」
……まあ合宿は、どちらにせよ混浴だから、仕方ない。
でも待てよ、確か花梨さんの他に、何人か応援が来る筈だよな。
なら風呂は、混浴ではないかもしれない。
ただ次の合宿の5日夜には、戦闘か何かが起きる。
ケイトさんによれば『衣緖菜を失わない様にする』ことを考えなければならない事態になる。
なら……
取りあえずここでも、魔力を上げる訓練をしておこう。
水温を上げ下げしたら他の人に影響があるから、今度は気温で。
屋外でそこそこ風があるから、多少上げすぎたり下げすぎたりしても、影響は少ないだろうし。
ということで、取りあえず見えている範囲の上空に、正六面体の範囲をイメージしてみる。
この中の気温を、今日はちょっと暖かいと言うより暑いから、3℃下げることをイメージ。
どうやら空気の方が、水より温度を上げ下げしやすい様だ。
なら今度は3℃上げることをイメージして、そして次はまた3℃下げて……
何度か繰り返したところで、急に眠気が襲ってきた。
まずい、やり過ぎたと気付いたけれど、意識が……
◇◇◇
気がつくと、いつもの俺の部屋の、俺のベッドだった。
隣に衣緖菜がいるのも、いつも通りだ。
遠見魔法で時間を確認すると、22時過ぎ。
思ったより寝てしまった様だ。
そう思ったところで、横から衣緖菜の声がした。
「ありがとう。でも無理しすぎないで」
確かにそうかもしれない。
でも少しでも魔力を上げておきたい。
それにあの場なら俺が意識を失っても、すぐに誰か気付くだろう。
強いて言えば女子の中、全裸で救出されるというのが悲惨というか、何というか……
そのくらいだ、問題は。
「とりあえずここまでの補足説明。最初に倒れたのに気付いたのはメイ。水中に顔が沈まない様にメイがかかえて、飲み込んだ水は結菜が魔法で出して、愛美の転移魔法でここまで運んだ。その後ここへ皆で移動して、あの風呂に追加したいものをネットで探して注文して、最後に夕食を食べて帰ったところ」
なるほど。
「悪かったな、そこで露天風呂が中止になって」
「問題ない。1時間近く入ったから、私としては充分。あと香里奈は隣の私の部屋のベッドで寝ている。あっちの部屋も一通り揃っているし、普段使わないから、ちょうどいい」
とりあえず状況は、理解した。
要は俺が倒れただけで、他は問題ない様だ。
そう思ったところで、また衣緖菜の言葉がはじまる。
「陽翔が魔力を上げようとしている理由は、見えている。誰がそう助言したかも、大体は。ただそれで何があるのか、どういう意味があるのかは、私にはわからない。そこまでの未来は私には見えない」
そこは正直、意外だった。
だからつい、聞いてしまう。
「衣緖菜でも見えないのか?」
「愛美、美羽、陽菜は、空間操作魔法専門に遺伝子操作されて生まれている。特に陽菜の空間操作魔法は圧倒的。私が3まで見えるとすれば、10くらいまで見えるはず。ただし経験が足りないから、見える未来の幅が狭い。愛美が8まで3の幅で見えるとすれば、陽菜は10まで1の幅で見える。私は3まで、5の幅」
陽菜さん自身からも、似たようなことを聞いた覚えがある。
でも、それなら……
「衣緖菜の方が、見える幅が広いのか」
「おそらく戦闘経験のせい。見えている一番可能性の高い未来を、揺さぶってわざと変化させる。何を変えれば別の未来になるかを探して、そういった戦闘もしていた様だから。私の記憶にはないけれど」
作戦終了ごとに、衣緖菜の記憶は消去されていた。
だから記憶にないわけだ。
「でもそれはそれとして。陽翔は無茶しないで欲しい。今度の合宿で、おそらくは部下を全員、取り戻せる。しっかりとは見えないけれど、そこは見えつつある。だから陽翔は、心配しなくていい」
いや、俺が心配なのは、そこじゃない。
少なくともケイトさんは、メールでこう書いていた。
『衣緖菜は間違いなく無理をする。それでも衣緖菜を失わない様にするのは、陽翔の役割だ』
俺が何をすればいいのかは、わからない。
魔力を上げろとは言われているけれど、上がった魔力で何をすればいいのかが、わからない。
誰かに何かを聞いたような気がするけれど、思い出せない。
「ならお願い。今の私に、目一杯陽翔を感じさせて。私が陽翔の元に絶対帰りたいと思わせるように」
この言葉が、その通りの意味なのかは、俺にはわからない。
この場で、これ以上の話を誤魔化すためかもしれない。
合宿中というかGW中、ムラムラする事が多くて、いいかげん限界なのが衣緖菜にバレているからかもしれない。
それでも、この場にいる衣緖菜を、俺は思いきり抱きしめてしまう。
愛かただの性欲かはわからないけれど、それでも失いたくなくて。




