127 保護者からのメール
とりあえず心を無にして、英語の予習を心がける。
だいたい授業2回分程度を入力して、一通り確認したところで。
「こっちは終わり。何なら都筑も入る?」
メイの声が扉の外から聞こえた。
「いい。入りたいと思ったら、衣緖菜が帰ってから入るから」
「わかった。それでお願いがあるんだけれど、ここを開けていい?」
何だろう。
「開けるのはOK。お願いは物によりけり」
「じゃ、開けるよ」
開けて、ぞろぞろと入ってくる。
メイだけではなく、4人全員だ。
「お願いといっても、大したことじゃない。通販で代わりに買って欲しいものがあるだけ。お金は後で払うから。あと愛美さん経由で衣緖菜や花音さんたちも了解済み」
「なら問題ない。けれど何を買うんだ?」
「水遊び用の大型プール。どんなものがあるかは、これからネットで皆で調べて考えるつもり。向こうのテーブルでやるから、パソコンも貸して」
何故、水遊び用プールなんてのが必要なのだろう。
「大型プールって、何に使うんだ。島は泳げなそうだったからか」
「まあ似たようなもの。合宿の続きということで」
今ひとつ怪しいけれど、もうひとつ質問しておこう。
「そんな大きいプールなんて、置く場所があるのか? この家には置けないぞ」
「大丈夫、とっておきの場所があるから。この家で受け取れるサイズで、出来るだけ大きいのということで探す予定。ということで、このパソコンは借りてく」
「はいはい」
転移魔法で自由に移動できる陽菜さんたちなら、そういった場所へ問題なく行けるのかもしれない。
なんてことを思いつつ作業をしていたタブを閉じて、コンセントを抜いて、メイに渡す。
「よし、それじゃ温泉計画、調べるよ! あと都筑も暇なら一緒に見て意見言って」
「はいはい」
そう言って椅子から立ったところで、スマホの通知音がした。
これはメール着信の音だな。
どうせ何処かのキャンペーンか迷惑メールだろう。
そう思いつつ、一応スマホを確認。
ケイトさんからだった。
そろそろ入学してから1ヶ月だから、様子伺いのメールだろうか。
それとも、こっちに様子を見に来るぞという予告だろうか。
ケイトさんのメールは、ほぼ全部俺か衣緖菜の返信メールのリプライでくるから、タイトルでは中身がわからない。
「ちょっとメールを確認してから行くから」
「はいはい。参考までに、誰から?」
「ケイトさんから」
メイにはケイトさんのことは話してある。
俺からではなく、衣緖菜からだけれど。
「わかった。それじゃ向こうで先に物色しているから」
「無茶な買い方はするなよ」
「努力する」
怪しい返事だけれど、メイなら心配はいらない。
だから放置して、もう一度椅子に座り直して、メールを開く。
『敵から一人取り戻した件、花梨経由で聞いた。こちらや花梨たちも動くから、無茶はしない様に。花梨たちは魔法戦闘のプロだし、私も法律を含めた日本での戦いのプロだ。5日当日を含め、信じて任せて欲しい』
どうやらケイトさんと花梨さん、知り合いだしそれなりに連絡を取れる間柄の様だ。
異世界からの難民を扱うなんてニッチ過ぎる業務内容だし、当然なのかも知れないけれど。
あとこのメール、内容的には俺と言うより衣緖菜宛てと感じる。
宛先欄を確認、TO欄が衣緖菜のメールアドレスで、BC欄に俺のメールアドレスが入っていた。
つまり基本的に衣緖菜宛のメールで、俺に送られたことは衣緖菜からはわからないという状態だ。
つまり俺には、あくまで参考ということだろうか。
そう思ったところで、またスマホがメールの着信音を鳴らす。
開いてみると、差出人はやはりケイトさん、今度は俺宛だ。
『衣緖菜宛のメールではああ書いたが、衣緖菜は間違いなく無理をする。それでも衣緖菜を失わない様にするのは、陽翔の役割だ。
必要なのは、衣緖菜との絆だ。何をどうすればいいというのは、ここでは書かない。書くと失敗する可能性が高くなる。それでも私は、陽翔がなんとか出来ると信じている。以上』
つまり5日夜の何かは、『衣緖菜を失わない様にする』ことを考えなければならない状態ということか。
誰が言ったかは思い出せない言葉を思い出す。
『必要なのは、陽翔の魔力と、覚悟と、衣緖菜さんとの結びつき』
そして今の俺が出来るのは、魔法を使いまくって魔力を鍛えることしかない。
確か力の魔法より、熱の魔法の方が魔力を使うんだよな。
なら……
俺はスマホをポケットに入れ、立ち上がる。
扉を開け、パソコンで何かを検索している皆さんの中心にいるメイに、こう尋ねる。
「メールの返信が終わった。それで聞くけれどさ、もう風呂の温泉水は捨てた?」
「後でもう一度入ろうと思って、そのままにしている。陽翔、入る?」
「ああ、ちょっと試してみる」
温泉を楽しむために入るつもりじゃない。
浴槽に入っているお湯の温度を上げ下げすれば、効率的に魔力を使うことが出来るだろう。
俺は一度自分の部屋に戻り、タオルや着替えを出してから、風呂場へと向かった。




