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俺が魔法を使えた頃  作者: 於田縫紀
第23話 一人回収

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122 謎解きと切り札

「その気になれば、転移した術者の後を追うことが出来るはずなのです。カナ姉を信用できないわけではないのです。それに愛美姉もおそらくはモニターしていたと思うのです。それでも衣緖菜さんやカナ姉があの人を追いかけなかった理由は、私にはわからないのです」


「ありがとう。とりあえず見た目での状況は理解した」


 そう、これで何が起こったか、ある程度はわかった。

 もちろん衣緖菜や花音さんが転移した彼女、おそらくは5310037を追いかけなかった理由は、今の俺にはわからないけれど。


「愛美姉が言ったとおり、今回の合宿での予期せぬイベントはこれまでの様なのです。ただ次の合宿がどうなるか、そしてその先がどうなるかが見えにくくなったのです」


 俺と美羽さんは、無言のまま話を聞く。


「私の方が、愛美姉よりカナ姉より、空間操作魔法の威力そのものは高いはずなのです。ですが魔法を使用した後の解釈は、経験がものを言うのです。その面ではまだまだ、カナ姉や愛美姉、そしておそらく衣緖菜さんには勝てないのです」


 この話は、どういう意味があるのだろう。

 どこかで今の出来事とつながるのだろうか。

 そう思いつつ、俺は魔法で土を固めつつ、陽菜さんの話を聞き続ける。


「具体的には、私は一番可能性が高い未来を、カナ姉より愛美姉より先まで見ることが出来るのです。ですがカナ姉や愛美姉、そして衣緖菜さんなら、一番可能性が高い以外の可能性がある未来も、見ることが出来るのです。そしてそういった未来を実現するためにはどうすればいいかも、ある程度はわかるのです。

 そして今回、近い未来が見えなくなる行動をわざととった理由は、きっとそうやって、未来を一番可能性が高い者から変化させるためなのです。あえて違う未来を目指して、書き換えをやったと思うのです」


 なるほど。

 なら僕が聞くべきことは、こんな感じだろうか。


「以前見えた、一番可能性が高い未来というのは、どういう未来だったのか、教えてくれないか?」


 陽菜さんが頷いた気配がした。


「敵と戦い、倒して、囚われていた部下3人を救い出すことに成功する。かわりに、衣緖菜さん自身は倒れる。これが私が見えている未来なのです。

 ただ午後、予定を変更してからさっきの人が去るまでで、この未来は少し変化したのです。囚われているのは2人だけ、になったのです。ただし衣緖菜さんが倒れる結果は、まだ変わっていないのです」


 衣緖菜が、倒れる。

 その言葉の意味を理解するのに、少しだけ時間がかかった。

 というかそんな可能性、考えたくなかった。


 でもそう考えると、今までの衣緖菜に対する花音さんや愛美さんの言動、そして愛美さんのあの独り言の意味がわかる気がするのだ。

 全部ではないけれど、少なくともかなりの部分は。


 たとえば愛美さんがやってきた日のやりとり。

 今の俺は、魔法を使ってほぼ正確に思い出すことが出来る。


「問題ない。その方が私にとっても、いい結果になるのが見えている」


「大丈夫。同じところまでは私も見えている。その先は、私にも見えていない」


「あえて声に出して聞きます。それでも、このままでいいんですか? まだ選択肢はある筈です」


「あえてここに一人で来た愛美なら、理解できるし同意も出来る筈」


「理解はしたし尊重もします。でも私は、そちらと同意見です」


 このやりとりの『いい結果』とは、『部下は全員助けられるが、自分は倒れる』ということ。

 そして『そちら=メイ』と同意見というのは、衣緖菜自身は助かる気はないのか』もしくは『助かるように行動した方がいいのではないか』という意味。


 何故メイが、そういった未来予知的なものを知っているのかは、俺にはわからないけれど。

 衣緖菜がそこまで話したのだろうか。

 俺には話さなかった、そんな未来予知の部分まで。


「それでも今は、衣緖菜さんも、その未来を変えようとしていると思うのです。それでいいと判断したのなら、午後の予定を変えたりしなかったと思うのです。そして、また未来は決まっていないのです。私が見えるのは、あくまで最も可能性が高い未来だけなのです」


 そう陽菜さんが話したところで。

 ふっと空気が揺れた気がした。

 周囲の風景も、何か靄がかかった様に見える。

 陽菜さんが、さっと美羽さんの方を見た。


「美羽姉、何を」


「これなら3分程度は、愛美姉からここは見えないし聞こえない。そしてカナ姉も衣緖菜さんも、今はこちらを確認出来ない。陽翔、手を出して」


 何かはわからない。

 それでも何かを感じた俺は、美羽さんに言われた通り、右手を出す。


 美羽さんは無造作に右手を出して、俺の右手を握った。

 握られた瞬間、軽い静電気のような衝撃と、その後に手を伝わって流れてくる何かを感じる。

 この感覚には覚えがある。

 知識送信魔法だ。


「この知識は、今は引き出せない形に圧縮して送る。内容は真に必要だと意識した時に、読み取れる。内容は割と単純でわかりやすい魔法の使い方。意味がないかもしれない。そのくせ危険かもしれない。それでも最終局面での、切り札になる可能性がある」


「美羽姉、そんな特殊な記憶転送魔法、使えたのですか!」


 結菜さんは、この伝達魔法を知らなかった様だ。

 美羽さんは軽く頷く。


「以前、カナ姉経由で受け取った衣緖菜さんの知識を元に構成した。まだ非接触では使えない」


 魔法は止まった。

 以前衣緖菜に全記憶を送られた時より、ずっと少なくて簡素な情報だった様だ。

 そして確かに何を伝達されたのか、わからない。

 思い出そうとしても、何をどう思い出していいのか、わからない。


「陽菜に確認。未来は、変わった?」


 陽菜さんは頷いた。


「確かに変わったのです。ただ結果は見えないのです。ある部分から先が完全に不確定に変わっただけなのです」


「ならきっと、意味はあったと思う」


 美羽さんはそう言って、そして俺の方に向き直る。


「必要なのは、陽翔の魔力と覚悟。それと衣緖菜さんとの結びつき。私が言えるのはそこまで。陽翔は今の出来事を、すぐに忘れる。でも必要になったら思い出す様になっている。

 もう一度言う。必要なのは、陽翔の魔力と、覚悟と、衣緖菜さんとの結びつき。では普段に戻る」


 また空気が揺れ動いた。

 風景も、元に戻っている。

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