122 謎解きと切り札
「その気になれば、転移した術者の後を追うことが出来るはずなのです。カナ姉を信用できないわけではないのです。それに愛美姉もおそらくはモニターしていたと思うのです。それでも衣緖菜さんやカナ姉があの人を追いかけなかった理由は、私にはわからないのです」
「ありがとう。とりあえず見た目での状況は理解した」
そう、これで何が起こったか、ある程度はわかった。
もちろん衣緖菜や花音さんが転移した彼女、おそらくは5310037を追いかけなかった理由は、今の俺にはわからないけれど。
「愛美姉が言ったとおり、今回の合宿での予期せぬイベントはこれまでの様なのです。ただ次の合宿がどうなるか、そしてその先がどうなるかが見えにくくなったのです」
俺と美羽さんは、無言のまま話を聞く。
「私の方が、愛美姉よりカナ姉より、空間操作魔法の威力そのものは高いはずなのです。ですが魔法を使用した後の解釈は、経験がものを言うのです。その面ではまだまだ、カナ姉や愛美姉、そしておそらく衣緖菜さんには勝てないのです」
この話は、どういう意味があるのだろう。
どこかで今の出来事とつながるのだろうか。
そう思いつつ、俺は魔法で土を固めつつ、陽菜さんの話を聞き続ける。
「具体的には、私は一番可能性が高い未来を、カナ姉より愛美姉より先まで見ることが出来るのです。ですがカナ姉や愛美姉、そして衣緖菜さんなら、一番可能性が高い以外の可能性がある未来も、見ることが出来るのです。そしてそういった未来を実現するためにはどうすればいいかも、ある程度はわかるのです。
そして今回、近い未来が見えなくなる行動をわざととった理由は、きっとそうやって、未来を一番可能性が高い者から変化させるためなのです。あえて違う未来を目指して、書き換えをやったと思うのです」
なるほど。
なら僕が聞くべきことは、こんな感じだろうか。
「以前見えた、一番可能性が高い未来というのは、どういう未来だったのか、教えてくれないか?」
陽菜さんが頷いた気配がした。
「敵と戦い、倒して、囚われていた部下3人を救い出すことに成功する。かわりに、衣緖菜さん自身は倒れる。これが私が見えている未来なのです。
ただ午後、予定を変更してからさっきの人が去るまでで、この未来は少し変化したのです。囚われているのは2人だけ、になったのです。ただし衣緖菜さんが倒れる結果は、まだ変わっていないのです」
衣緖菜が、倒れる。
その言葉の意味を理解するのに、少しだけ時間がかかった。
というかそんな可能性、考えたくなかった。
でもそう考えると、今までの衣緖菜に対する花音さんや愛美さんの言動、そして愛美さんのあの独り言の意味がわかる気がするのだ。
全部ではないけれど、少なくともかなりの部分は。
たとえば愛美さんがやってきた日のやりとり。
今の俺は、魔法を使ってほぼ正確に思い出すことが出来る。
「問題ない。その方が私にとっても、いい結果になるのが見えている」
「大丈夫。同じところまでは私も見えている。その先は、私にも見えていない」
「あえて声に出して聞きます。それでも、このままでいいんですか? まだ選択肢はある筈です」
「あえてここに一人で来た愛美なら、理解できるし同意も出来る筈」
「理解はしたし尊重もします。でも私は、そちらと同意見です」
このやりとりの『いい結果』とは、『部下は全員助けられるが、自分は倒れる』ということ。
そして『そちら=メイ』と同意見というのは、衣緖菜自身は助かる気はないのか』もしくは『助かるように行動した方がいいのではないか』という意味。
何故メイが、そういった未来予知的なものを知っているのかは、俺にはわからないけれど。
衣緖菜がそこまで話したのだろうか。
俺には話さなかった、そんな未来予知の部分まで。
「それでも今は、衣緖菜さんも、その未来を変えようとしていると思うのです。それでいいと判断したのなら、午後の予定を変えたりしなかったと思うのです。そして、また未来は決まっていないのです。私が見えるのは、あくまで最も可能性が高い未来だけなのです」
そう陽菜さんが話したところで。
ふっと空気が揺れた気がした。
周囲の風景も、何か靄がかかった様に見える。
陽菜さんが、さっと美羽さんの方を見た。
「美羽姉、何を」
「これなら3分程度は、愛美姉からここは見えないし聞こえない。そしてカナ姉も衣緖菜さんも、今はこちらを確認出来ない。陽翔、手を出して」
何かはわからない。
それでも何かを感じた俺は、美羽さんに言われた通り、右手を出す。
美羽さんは無造作に右手を出して、俺の右手を握った。
握られた瞬間、軽い静電気のような衝撃と、その後に手を伝わって流れてくる何かを感じる。
この感覚には覚えがある。
知識送信魔法だ。
「この知識は、今は引き出せない形に圧縮して送る。内容は真に必要だと意識した時に、読み取れる。内容は割と単純でわかりやすい魔法の使い方。意味がないかもしれない。そのくせ危険かもしれない。それでも最終局面での、切り札になる可能性がある」
「美羽姉、そんな特殊な記憶転送魔法、使えたのですか!」
結菜さんは、この伝達魔法を知らなかった様だ。
美羽さんは軽く頷く。
「以前、カナ姉経由で受け取った衣緖菜さんの知識を元に構成した。まだ非接触では使えない」
魔法は止まった。
以前衣緖菜に全記憶を送られた時より、ずっと少なくて簡素な情報だった様だ。
そして確かに何を伝達されたのか、わからない。
思い出そうとしても、何をどう思い出していいのか、わからない。
「陽菜に確認。未来は、変わった?」
陽菜さんは頷いた。
「確かに変わったのです。ただ結果は見えないのです。ある部分から先が完全に不確定に変わっただけなのです」
「ならきっと、意味はあったと思う」
美羽さんはそう言って、そして俺の方に向き直る。
「必要なのは、陽翔の魔力と覚悟。それと衣緖菜さんとの結びつき。私が言えるのはそこまで。陽翔は今の出来事を、すぐに忘れる。でも必要になったら思い出す様になっている。
もう一度言う。必要なのは、陽翔の魔力と、覚悟と、衣緖菜さんとの結びつき。では普段に戻る」
また空気が揺れ動いた。
風景も、元に戻っている。




