121 事件発生
衣緖菜に似た、大きい魔力を感じた。
それに続いて、今度は衣緖菜本人と、あと多分花音さんの魔力。
「行くか」
そう思わず言って、そして意味がないことに気づく。
俺が行っても何にもならないだろう。
この島にいる中では、きっと俺は最弱だ。
「まあそれでも、合宿場に帰った方が状況がわかると思うよ。この後はどうせ予定変更だろうと思うからさ」
結奈さんがそう言う間にも、魔力の反応が合宿場に移動しているのがわかる。
なお俺たちは、わざわざ移動魔法を使う必要はない。
回れ右して歩けば、合宿場はすぐそこだ。
今回集まったのは大広間ではなく、昨日俺が籠もろうとした和室。
中央には布団が3枚敷かれ、それぞれに女子が横になっている。
右側は衣緖菜で、左側は花音さん。
そして中央に寝ているのは、合宿に参加した俺たち8人以外の、9人目。
灰色のTシャツとショートパンツという姿の、一見衣緖菜とよく似ているが、やや幼い感じの女子だ。
「説明は少し待って貰えますか。今、カナ姉と衣緖菜さんが複雑な魔法を発動中ですから。詳細は全てが無事済んで、全員揃ってからの方でいいでしょう」
愛美さんの説明で、すぐに理解した
衣緖菜と花音さんは横になっているけれど、問題があるわけじゃない。
真ん中に寝ている女子に全力で魔法をかけるため、姿勢などを気にしなくてもいい様に横になっているだけだと。
それでも心配なのは確かだし、何が起こったのかも知りたい。
中央で横になっているのは衣緖菜の元部下、おそらくは5340112だろうと俺の中の衣緖菜の記憶は判断しているけれど。
「とりあえず、この後はこの合宿では、何か起きるということはないのです。カナ姉も衣緖菜さんも、この彼女も無事に目が覚めるのも見えているのです。だからこの場で心配する必要はないのです」
陽菜さんが、まずはそう宣言。
俺はとりあえず一安心する。
大丈夫だろうとは思っていたけれど、それでも。
「私も陽菜と同じように、見えています。目覚めるのはあと2時間くらい後、15時20分過ぎです。ですのでそれまでは、道を作る作業を続けましょう。ただいざという時のために、結奈はここで3人の体調を見ていて貰えますか。あとは私とメイとで南側の道、陽翔と美羽と陽菜で西側の道を整備で。この組み合わせなら、そうかからないで終わるでしょうから。そうしたらまた集まりましょう」
確かにここで待っていても、あまり意味はない。
そして愛美さんと陽菜さんが無事目覚めると言っているのなら、信じていいだろう。
それに陽菜さんは、話を聞きやすい。
これは年齢差があるからではなく、花音さんや愛美さんはその先のあれこれを考えて、話をごまかすことがあるからだ。
ごまかすという言い方が悪いとすれば、隠すというべきだろうか。
一方で陽菜さんは、割と率直にあれこれ言ってくれる。
そして近未来予知魔法を含む空間操作魔法は、愛美さんと互角かそれ以上に使えるらしい。
結果として、話してもらいやすいし、聞きやすいというわけだ。
「行こう。とりあえず作業」
美羽さんの言葉で、俺たち3人は合宿場を出て西側へ。
南側で俺たちが作っていたのよりずっと道らしい道が、出来ていた。
幅は1.5mくらいで、道にかかる竹をただ切っただけでなく、簡易舗装っぽい処理までしてある。
「何かこの道、完成度が凄いな。来た時はこんな道、無かっただろ」
「カナ姉と衣緖菜さんが担当。二人ともほぼ全属性の魔法を使いこなせる」
確かに美羽さんの言うとおりだな。
そう思いつつ、道を辿る。
南側の道と比べると、この道は坂がそれほどきつくない。
しかも整備状態がいいから、非常に歩きやすい。
できあがっていないのは、最後の5m程度だけだった。
それすら道の予定地の竹は全て刈り取られ、更には地面を掘り起こして根なども取り除いている様だ。
とすると、俺たちが出来る工程は……
衣緖菜の魔法の知識を漁って、とりあえず思いついたのは。
「俺の魔力だと、土を上から叩いて平らにする位だな。あの舗装みたいにするのは無理だ」
「叩いて固めた後、魔法で乾燥させて、高熱で焼いたと思うのですよ。しかし私は愛美姉以上に空間操作専門型で他の魔法は苦手ですし、美羽姉も空間操作以外の魔法は苦手なはずなのです」
「陽翔に土を平らにして貰って、陽菜が乾燥魔法、私が熱魔法をかける。5mくらいなら何とかなる、多分」
つまり美羽さんも自信はないということだ。
でもまあ、最善は尽くそう。
「とりあえず、そうしようか」
「仕方ないのです。なら一度海側に降りるのです。下から見る形でやった方がやりやすいのです」
「了解」
ということで海側へと降りて、海のそばの岩の上から土で出来た坂道を見る形で作業を開始する。
上から土を叩いて平らにする。
これは力をかけるタイプの魔法だから、熱をかけるよりは楽。
そんな作業をしている俺の横で、陽菜さんが呟く様に言う。
「ところで陽翔は何が起きて、そしてあの状況になったのか、知らないと思うのです。違うでしょうか?」
「ああ、その通りだ」
魔法をかけながら、俺は頷く。
「なら何が起こったのかを、まずは説明するのです。起きることは事前にわかっていたので、遠見魔法で確認しているのです」
そう言って、陽菜さんは話し出す。
「13時ちょっと過ぎ、そこまで舗装が完了して、道路のこの部分を切り開いて土中の根を排除したところで。
カナ姉と衣緖菜さんの前に、あの人を抱きかかえた、衣緖菜さんやあの人とそっくりの人が出現したのです。そして衣緖菜さんにあの人を渡すと、すっと消えたのです」




