120 道を整備しながら
衣緖菜の知識によると、物を動かしたり力を加えたりする魔法は、熱の魔法より魔力を使わないらしい。
なら竹を切るのも、熱で焼き切るより力で切断する方がいいのだろう。
そしてタケノコを掘った際は、タケノコの根本部分に横に力を加えて折り取った。
なら竹の地上に出ている部分でも、同様に横に力を加えて切れないだろうか。
ということで、
やってみたけれど、竹が切れる気配はない。
どうやら育った竹の場合、俺の魔法で切るのは無理そうだ。
仕方ない。
遠くを見る魔法で切るべき竹の地上ぎりぎり部分を確認して、地面と平行に熱線で焼き切るイメージで魔法を発動する。
じりじりというか、のこぎりで切るのと同じくらいの速さで焼き切る事が出来た。
「結構大変だな、焼き切るのも」
「仕方ないよ。一応は訓練合宿だからさ」
結菜さんがそう言うということは、焼き切るという方法論は間違っていないのだろう。
「私も焼き切るくらいしか方法論はないかな。タケノコみたいに掘って折るのも難しそうだし。結菜さんの場合は、どうやって竹を切るわけ?」
メイもどうやら、俺と同じように試したのだろう。
「私の場合も、無難なのは焼き切る方法かなあ。周囲の土を全部移動させて根を切って、上へ引っ張り出す方法もあるけれど、焼き切るより魔力が必要だと思うよ。あと今見てみたら、結構びっしり根を出しているから、切るのは面倒そうだし。
ある程度の範囲を一気に切り取るなら、周囲の空間を曲げて切るなんて方法もあるけれど、転移魔法を使うより難易度が高いかな、これは」
「なら淡々と焼き切るしかないか、ここは」
メイの言うとおりだろう。
「だな」
「魔力に限界を生じたら、無理しなくていいよ。あとは私がやるから」
そんなわけで、地味な竹切り作業がはじまる。
竹を切ってしまえば、結菜さんが浜へと転送してくれるので、道が広くなる。
割と効果が目に見えるので、やりがいがあるのは確かだ。
しかし実は、他に気になることがある。
陽菜さんが言った、『今日の1時過ぎからの未来が、突然見えなくなった』という話だ。
気にしない方針でお願いするということで、それ以上のことは聞けなかったけれど。
「多分こっちでは、何も起こらないと思うよ」
俺の考えていることが見えたのだろう
結菜さんの、そんな言葉が聞こえる。
「カナ姉は、私たちのことをものすごく大事にしているから。自分の命を賭しても、というくらいに。そして愛美姉は、カナ姉が自分たちのためなら危険があろうと気にしないってことを知っているから、カナ姉が無茶しないよう気をつけている。そして衣緖菜さんは、ある例外事項を覗いては、陽翔とメイさんに危害が及ばない様にすると思う。だから……って、もう愛美姉に忠告されているか、昨日のうちに」
どうやら完全に俺の思考が見えているようだ。
まあ衣緖菜がいれば大体いつもそうなので、あまり気にしないけれど。
問題は、今結菜さんが言った内容が何を意味するかだ。
つまり今回起きる、何かというのは……
「そういうこと。多分カナ姉と衣緖菜さんで対処するつもりなんだと思う。でも愛美姉がそれを認めているということは、危険は多分ない。だからこっちは、何か連絡があるまで、道作りに集中していて大丈夫」
なるほど、確かにそのとおりだ。
「ありがとう。少し落ち着いた」
「でも何が起こるかは、私じゃ具体的に見えないんだ。カナ姉、愛美さん、衣緖菜さん、そして陽菜には見えているみたいだけれどね。私は空間魔法特化じゃないし、美羽は愛美姉と基本は同タイプだけれど、愛美姉ほど魔法に習熟していない。一方で陽菜は、魔法への習熟度は愛美姉や美羽より下だけれど、より新しいモデルで強化されているから。それを含めて、私たちは待つしか無いって感じかな」
「わかった。ありがとう」
どうせ思考すれば見えるのだけれど、一応声に出して礼を言って、そして俺は道の整備作業に集中する。
次の竹を熱で焼き切って、そして次を……
そうやって12本目を焼き切ったところで。
「陽翔はそこで休憩した方がいいと思うよ。魔力がもう残り少ないから。あと2本竹を切ったら、魔力の限界で気絶する。この世界は魔素が薄いから、そうなると回復に時間がかかる」
俺の中にある俺の記憶じゃない知識を確認。
確かに結菜さんの言っている通りのようだ。
空気中の魔素から体内魔力に変換して蓄積するのには、魔力が必要らしい。
結果、魔力が減りすぎると、空気中の魔素から体内魔力への変換効率が悪くなる。
それでも俺のように、元から魔法使いではない人間なら、ぎりぎりの魔力でも気絶しにくいし、ほんの少しの魔力でも気絶から回復できる。
魔力が切れて気絶しても、それだけで身体に障害が出ることはない。
しかし衣緖菜や花音さんたちのように、元々が魔法使いとして作られた人間は、思考や身体の代謝機能にも魔力が不可欠となっている。
だから気絶するまで魔力を使用すると、最悪の場合は命に関わるようだ。
「まあ最悪の場合は、魔力を他の人に送り込むなんて魔法もあるけれどね。効率が悪いから、ほとんど最終手段だね。魔力の質が近くないと使えないのもあるし」
なるほど。
そう思った、その時だった。




