118 午前中の作業
朝食後は、昨日釣った魚を使用して料理をする作業。
まずは花音さんと結菜さんの魔法作業から。
何処かから取り出したビニールシートを部屋全体に敷き詰めた後、長テーブルを2つ並べた作業台を8箇所、つまり人数分配置。
更に各テーブルの上にもビニールシートを敷いて、その上に包丁とシート状の簡易まな板、金属製の大きめのバット5つずつが出現した。
「それでは各テーブルで、昨日自分が釣った魚を調理して、今日の昼食以降のおかずを用意してください。ご飯とお味噌汁、目玉焼き、サラダは私が用意します。ただし150g以上の魚料理を作らなかった場合は、どれも出しませんので注意して下さい。なお魚や料理のトレードは、ありとします」
「とりあえず魚をどう調理するかの見本は、私が何度かやるから。最初の3回はゆっくりやるから、捌く時の参考にして」
これはメイ。
前も思ったけれど、何でも出来るよなと改めて思う。
俺がわかる魚の調理法なんて、『そのまま塩を振って焼く』だけだ。
小魚ばかり釣っているから、それで充分という気がしないでもない。
でもどうせなら、刺身とか美味しい食べ方をしたい。
さっき食べたイカの刺身くらい美味しくというのは、材料からして違うから無理だろうけれど。
メイのテーブルのところへ、やり方を見に行く。
花音さんを含めて全員が、メイのテーブルを取り囲んだ。
きっと目で見ている以外に、遠くを見る魔法などでも見ているのだろう。
それでもメイは堂々としたもので、寮からもってきたらしい、いかにもという包丁を出して、そしてぐるっと皆を見回す。
「それじゃ最初は、わかりやすい様に大きい魚から。見本として美羽のタイを使っていい? あれくらい大きいとわかりやすい。もちろんさばいた後は返すから。今回は刺し身とカルパッチョ」
「どうぞ。自分でやる分が少なくて済みます」
メイの前に赤い鯛がどん、と出現する。
俺が釣った魚に比べると、遥かに大きくて立派だ。
「うんうん、いい鯛だよね。ということでこれの鱗を取るところからスタート。基本は包丁をこうやって逆さに動かして取るんだけれど、鯛は鱗が固くて取りにくいから、魔法を使わない場合は大きいスプーンの凸面を上にして、魚の尻尾から頭の方向にへウロコをすくうように取っていく。ただし魔法を使えるなら、物を動かす魔法を使って、一気に引っこ抜くのがおすすめ。これくらいなら都筑も出来るよね。でもまあ、都筑が釣った魚は小さいから、ちょっと洗えば鱗が取れるか」
そんな事を言いながら魔法で鱗やヒレを落として、更に飛び散った鱗を魔法で回収する。
「ウロコやヒレを魔法で取ったら、次の作業。頭を切り落とすよ。頭は骨が大きくて食べられる部分が少ないから、基本的にはあまり食べない。ただこれくらい大きい魚だと、実はそこそこ身があるけれど、そのへんは応用編になるから後ほど個別で。ということで、胸ビレと腹ビレに沿って頭を落として……」
◇◇◇
なんというかメイ、鮮やかと言うかなんと言うか……
説明しながら鯛、クロダイ、小鯖20匹なんてを一気に調理してしまった。
そう、捌くだけではない。
刺身、カルパッチョ、中骨の障子焼き、兜煮、フライ、ジャーキーっぽいのにまで仕上げている。
魔法はガンガン使いまくりだ。
切るのも焼くのも揚げるのも、全部魔法でやっていた。
どう見ても俺より魔法を使いこなしている。
俺は料理ができないから、その差ではあるのだろうけれど。
「要は固くて美味しくない骨やウロコ、味がいまひとつな内臓を外して、食べやすいように切るって刺身にするか、焼いたり揚げたり料理するかというだけ。ただ骨や頭部分は出汁として使えるから、そうしたい場合は血が出なくなるまで洗った後、魔法でカラカラに乾燥させて、ちょっと高熱魔法であぶってから使うと、臭みが出にくいから。ということで、あとは各自頑張って」
理屈で言えばそうなのだろう。
ただそれで上手くいくかは、また別問題だ。
なんて思いながら、俺は作業にとりかかる。
なお愛美さんに収納してもらった魚は、とりあえず10匹ほど、バットに氷をつめて、その上に出した。
「足りなくなったらまた出しますので、言ってください」
ということで、まずは教わった通り、『ヒレとウロコを頭を取って内臓を出し、中骨部分と身の部分にわける』ことに挑戦だ。
ただ俺が釣ったサバは小さいので、ウロコは魔法を使う必要はない。
ヒレ部分は『下手にやると手を切る』とメイが言っていたので、おとなしく魔法で取って。
内臓を取って中の血や汚れをさっと水を流して洗ったら、魔法で骨と身の境目を確認しつつ、物を動かす魔法で身と骨を離していく。
メイは説明しながらさくっとやっていたけれど、自分でやるとなかなか難しい。
でもこの作業が終われば、身はそのまま刺身で食べられるし、ドレッシングをかければカルパッチョもどきにもなる。
だから俺なりに頑張って、魔法でさばいていく……
◇◇◇
俺の釣った小サバやイワシは、カルパッチョもどきと刺身にした。
要はヒレやウロコを取って頭を落として内臓を抜いて、背骨を取っただけ。
魚が小さいので、サクにしたり切りそろえたりせず、半身の状態でちょうどいい。
なお他の皆さんが釣った魚も、物々交換でもらっている。
イカとかタイとかクロダイとかヒラメとか。
なお皆さんの料理で多いのは、刺身かカルパッチョ、つまり生を切りそろえただけか、これにソースをかけたもの。
これで充分以上に美味しいから、仕方ない。
ただメイとか花音さん、そして結菜さんは、他にもあれこれ小細工をした料理を作っている。
フライとか干物とか、ゼリーっぽいのとか。
特にメイのテーブル上に出ている、タッパー入りの茶色いゼリーっぽいのが気になった。
ということで、メイに聞いてみる。
「そのゼリーっぽいのって、何なんだ」
「ヒラメの煮こごり。甘辛く煮た後、冷やしたもの。ヒラメだと骨や軟骨からゼリーになる成分が出るから、冷やせば簡単に固まる。魔法を使えば一気に冷やせるから、案外簡単。
あと都筑、さばききっていない小サバがあれば、適当な料理と替えるからちょうだい。そっちの小サバでシメサバを作りたいんだよね。自分で作れば売っているのと違って、酢や塩が軽めで美味しいのを作れるから」
実はまだ30匹以上、捌いていないのが残っている。
いい加減手が疲れたので、あとは食べるときに焼けばいいやと残していたのだ。
「まだ30匹以上あるけれど、大丈夫か」
「遠慮せず全部どーぞ。あと小サバ以外が混じってもいいよ」
「わかった。愛美さん、お願いします」
「それじゃクーラーボックスごと出します」
デン! と出たクーラーボックスを開けて、メイはにやりとする。
「おーおー。こりゃ結構あるわ。なら遠慮無く。どうせ1匹5秒かからないしね、今回開発した魔法を使えば」
メイはそう言いつつ、クーラーボックスにバットを突っ込み、中の魚を全部取り出す。
それにしても、開発した魔法か。
さっき見本で料理をした時は、普通に手順通り手や包丁、時々魔法という感じで、普通の速度で捌いていたけれど。
「どんな魔法を開発したんだ?」
「それじゃ見せてしんぜよう。小魚自動三枚おろし魔法!」
メイがそう言いつつ、小サバを入れたバットの横に、空のバットを4つ置く。
小サバが自動的に頭を落とされ、内臓を取られ、背骨部分と両側の身の3枚にわかれた。
そして身の部分2枚、背骨部分、頭、内臓という形で、それぞれ別のバットに入る。
「何だ今のは」
「衣緖菜の知識にあるでしょ。手順をしっかり意識出来れば、新しい魔法に出来るって。あとはパソコンのプログラムを組むのと一緒。此処でこうやってというのを意識して組み立てて、魔法として名前をつけてやるだけ。ということで、小魚自動三枚おろし魔法、連続!」
俺が包丁を使って、苦労して捌いたのはなんだったのだろう。
そう言いたくなるくらいの速度で、魚が捌かれつつ移動していく。




