115 無駄な抵抗
その後は普通に、完全に日が落ちるまで釣りを続けた。
衣緖菜の部下が絡む事案というのは、いつ頃、どんな態様で起こるのか。
メイについて俺が気づいていないこととは、何だろうか。
あとヒントとは、何時何処でどんな内容だったのだろうか。
気になるけれど、衣緖菜やメイの方から注意が入っているというのなら、これ以上聞くことは出来ない。
気になるのは確かなのだけれど。
あれこれ考えながら、機械的に釣り続けた結果。
俺は小魚ばかり100匹近く釣り上げ、愛美さんは立て続けに大きいのを3匹仕留めた。
俺が釣ったのはサバの小さいがメインで、イワシが若干混じっている。
愛美さんが釣ったのは3匹とも多分、クロダイという、色以外はタイそっくりな魚だ。
「そろそろ戻りましょうか。 もう星明かり程度しかありませんし、衣緖菜とメイも、結菜たちも終わりにしている様ですから」
確かに愛美さんの言う通り、完全に太陽は沈んで、残光も空から消えて夜の空になっている。
今日は月がまだのぼっていないから、星明かりの他は懐中電灯の明かりくらいだ。
「そうですね。戻りましょうか」
「帰りは送ります。この暗さであの道を歩くのは危険ですから」
明るい内でさえ、ここに来るのには苦労した。
今の明るさであの道を歩いて帰るのは、結構厳しい。
「助かります」
「あと道具も私が収納しましょう。後は明日、明るくなってから整理した方がやりやすいでしょう。魚もその方が新鮮なまま保てますし」
「お願いします」
全てよろしく状態で、合宿所に到着。
既に皆さん到着していた。
「愛美姉の方はどうだった?」
早速結菜さんが質問してくる。
「私は黒鯛、30㎝前後のものが3枚、陽翔は小鯖中心に112匹ですね」
「なら私や美羽と同じ程度なのです。なら釣り方は想像できるのです。なおカナ姉と結菜姉がアオリイカ5杯と貝類や海藻たくさんで、貝や海藻はともかく、イカは普通の釣り方をしたとは考えにくいのです。あと衣緖菜さんとメイさんの、ヒラメ6枚マゴチ10本も、絶対魔法を使って釣りではない釣り方をしたとしか思えないのです」
なるほど。
確かに美羽さんと陽菜ちゃんが調べた方法では、イカとかヒラメを数釣りは出来ない。
「種明かしと料理は明日以降ですね。それじゃお風呂に入りましょうか。温泉ですし広いですから、気持ちいいと思います。成分が問題ないことは私の魔法で確認しましたから」
確かにここの風呂は、温泉だった。
何せ入れる作業をしたからわかっている。
ただここの合宿場には、風呂は一箇所しかない。
「それじゃ、俺は先に6畳の方の部屋で休んでいますよ。風呂は夜中にでも入りますから」
部屋割りは特に決まってはいない。
でもこの合宿場にある布団を敷ける和室は、18畳の広間と、8畳の和室と、6畳の和室の3部屋。
1人だけの男子としては、一番狭い部屋を使うのが順当だろう。
そう思ったのだけれど……
「折角の温泉ですから、皆で入った方が楽しいですよ。浴槽は充分大きいですから、7人も8人も大差ないでしょう」
いや、そういう問題じゃない。
「日本の常識では、この年齢での混浴というのは、基本的にまずいです」
「飽多の地方に行けば、まだ結構混浴の温泉は残っているけど」
俺以外でもっとも日本の現況を知っているはずの奴が、そんなことを言いやがった。
「わかっていて言っているだろう、メイは」
「もちろん。でも昔、こんな標語もどきがあったよね。『赤信号、みんなで渡れば怖くない』」
なるほど。
俺は理解したくないけれど、理解した。
「確信犯かよ。というか、メイはそれで気にならないのかよ」
「遠くを見る魔法を使えたら、何処にいようとのぞくのは出来る。なら一緒に風呂に入っても同じじゃない。まあ都築のことだから、興味本位でじろじろ見るなんてことはしないと思うけど」
あ、確かに遠見魔法を使えば、のぞきはやり放題だ。
なら確かに、見るという意味では一緒に風呂に入っても変わらない気がする。
でも近くにいると、その臨場感が……
なんてのは流石に、意識しすぎて気持ち悪いと言われそうだ。
そして俺の表層思考は、少なくとも衣緖菜、花音さん、愛美さん、結菜さんには丸見え。
そしてメイが、悪そうな笑みを浮かべる。
「やっと都築は気づいた様だね。そう、昔の人も言っている。『人生諦めが肝心!』。あと平成時代のアイドルも言っている。『男が裸で何が悪い』」
おい待てメイ!
「最後のは違うだろう!」
「言われた当時は画期的な言葉だったらしいよ。当時大学生をしていた佐藤錦はこの言葉の衝撃に、思わず『貴方は神か!』と涙を流したと後に語っていたし」
何か聞き覚えのある名前というか、品種名というか……
ただその名前の有名人は、残念ながら思い出せない。
なので仕方なく聞いてみる。
「参考までに聞くが、その佐藤錦って誰だ?」
「うちの母。厳密には当時は結婚前だから、佐藤じゃないけれど。『当時はあの言葉だけでご飯三杯はいけた』とも言っていたしね」
うん、何というか……
「メイってきっと母親似なんだな、性格は」
「うん、よく言われる」
俺は悟った。
言葉で抵抗しても無駄だと。
「ということで、先に行っていますね」
ぞろぞろと花音さん達が動き始める。
「私たちも行こう」
衣緖菜にまでそう言われてしまった。
仕方ない、諦めて行くとしよう。




