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俺が魔法を使えた頃  作者: 於田縫紀
第21話 独り言

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114 ヒントの時間

 思い当たることが無いわけではない。

 花音さんではなく、以前愛美さんと衣緖菜の間で、こんな会話があったのを思い出した。


『大丈夫。同じところまでは私も見えている。その先は、私にも見えていない』


『あえて声に出して聞きます。それでも、このままでいいんですか? まだ選択肢はある筈です』


『あえてここに一人で来た愛美なら、理解できるし同意も出来る筈』


『理解はしたし尊重もします。でも私は、そちらと同意見です』


 愛美さんは、頷いた。


「ここからは、独り言ではなく、陽翔さんとの会話にしましょう」


 そう前置きをした後、彼女は続ける。


「私は元々は空間操作特化型の魔法使いです。しかしこの世界に来てある程度訓練し直しましたので、ある程度知っている人が隠すつもりがなく、知っている言葉で思考している場合に限り、表層思考をかすめ見ることが出来ます。 

 ですので今、陽翔が考えていたことも、だいたいですけれど見えます。その通りで、私が一人で行ったのは、カナ姉に無理させないためと、万が一の際でも結菜たちに害が及ばない様にです」


 今の考えが読まれていたか!

 なんて驚きや恐怖は特に感じない。

 衣緖菜と一緒にいたから、そういった事には慣れている。


 だから今はむしろ、読まれていたことを利用する番だ。

 たとえば……


「なら愛美さんには、今後の事が見えているんですか。衣緖菜が無茶しかねないような事案が起きるといった事が」


 愛美さんは、頷いた。


「ええ。ですがその結果がどうなるかまでは、見えていません。見えていないということは、選択肢が残っているということです。そして衣緖菜がどう行動するかは、陽翔の存在が鍵になるように見えるのです」


 なるほど。

 つまり衣緖菜の部下が絡む事案がいずれ起きて、衣緖菜が無茶する可能性がある。

 その時に衣緖菜が自分を大事に出来る様に、衣緖菜が楽しいと思える出来事をより多く与えておけということか。


「その通りです。そして陽翔は今のところ、衣緖菜にいい影響を与えていると思います。だから本当は、こうやって余分なことを言う必要はないのかもしれません。それでも未来が確定出来ていないというのは、他の要因があるのでしょう。それでも私たちが気づかなかったせいで、カナ姉が無茶をして危うい状況になった経験がある私としては、言わずにはいられなかったんです」


 なるほど、先程の独り言については、理解した。

 なぜ直接言わずに独り言にしたのかという理由も、なんとなく。

 きっと衣緖菜に対する遠慮と、それでも俺に聞かせたいという思いと、実は衣緖菜自身にも聞かせたいなんて思いの結果なのだろう。


 なおこれはあくまで俺の勝手な邪推だから、返答の必要は無い。

 そこまで念のために言語化してはっきり思考してから、次の質問に移る。

 質問内容は、先程思い出した愛美さんと衣緖菜の会話について。


『理解はしたし尊重もします。でも私は、そちらと同意見です』


 この言葉にあった、『そちら』とは誰かについて。

 消去法で考えれば、一人しかいない。

 だから俺は、俺の表層思考が見えているだろう愛美さんに対して、こう質問する。


「そしてあの時に『そちら』と言ったのは、メイのことですよね」


「ええ」


 愛美さんは頷いた。


「メイは、陽翔とまた別の方法でも(・・)、衣緖菜さんを引き留めようとしています。メイがこの学校に来たのも(・)、異世界魔法部という場所を作ったのも(・)、そういった目的です。

 ですがメイについては、きっと他にも(・)理由がありますし、陽翔が気づいていないことがあります。衣緖菜さんが何でもメイに話しているように見える理由も(・)。

 ただこれは、私の口から言うべきことではないことです。陽翔が自分で気づくか、メイ自身が言うべきことでしょう。そしてメイは、きっとわかりやすいヒントも出しています。陽翔が気づいていないということは、メイ自身が思っているほど、わかりやすいヒントではなかったのでしょうけれど。少なくとも陽翔にとっては」


 今の説明に疑問を感じたので、確認してみる。


「それはメイの思考をを読んだのでしょうか。それともメイがそういう話をしたのでしょうか?」


「メイは陽翔と違って、意識して読めるように思考しない限り、表層思考が見えません。そしてヒントを出しているというのは、あくまで私の想像というか推理です。ただそれ以外に、この異世界魔法部の中で……衣緖菜経由で、そこまでという注意が入ったので、ここまでにします。本当はここで、もう少しわかりやすいヒントを出すつもりだったのですけれど」


 やはり衣緖菜が把握していたか。

 というのは、ともかくとして。


 重大な何かが、聞けなかった気がする。

 ただそれでも、ここで聞いたことは充分以上というか、重大というか、結構重かったりするけれど。

 

「それでも陽翔は、頑張っているというか、いい影響を与えていると思います。そこは自信を持って下さい。

 ということで、そろそろ釣りの方に集中しましょうか。陽翔の仕掛け、ウキが水中に沈んだまま迷走していますけれど」


 確かにウキが見えない。

 慌てて巻き上げて、波とともに砂浜に引き寄せる。


 5本の針のうち、2本に小魚がかかっていた。

 しかし仕掛けの一部が絡まっていて、ほどくのは無理そうな感じだ。


 とりあえず魚を外してから、仕掛けを変えるとしよう。

 そう思いつつ、俺は軍手をはめ、ペンチを手に取る。


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